【終幕】詠人不知
何から話しましょうか。いや、先に断っておきましょうか。全て私の見解で、「この事象はこうである」と明言するものでは有りません。また、私はなんの宗教にも属しませんし、目に見えるものしか信じておりません。そんな救いの無い矮小な男の舞台振り返りです。事は3年程遡りattractive 離散を決めた時分でありました。団体の解散と共に小劇場撤退は決めてはいたが、その詳細は私如きの半生振り返りにて別途触れようと思います。演出家の富樫さんから連絡を頂戴致しまして、私の引退の花道をこさえて下さるとの事でした。去り行く者として、影も落とさず消えるのが生来の性分ではございますが、有難くも不器用極まれし男を応援して下さった方、熱意をぶつけて下さる演出家、共に鎬を削って来た戦友達、私を形作る友たち、皆々に礼を尽くしたく、受諾したものであった。が。2020年1月、ダイヤモンドプリンセス号から下船された方からコロナウイルスが検出される。それ迄に度々報道されており、いつかは来るかもしれないとは思っていたが、SARSの様に、対岸の火事で収まってくれれば良いと、思っていたのに。横浜に、来てしまった。目と鼻の先です。そこからの展開は早かった。(中略)公演中止決定。これもまた。人生。少しの未練と大きな後悔を抱えたまま、団体解散と小劇場撤退を宣言する。心を挫くには十分すぎる出来事でした。去る、8月2日。「ダメ元では有るが、詠人不知の出演依頼を」との連絡を頂戴します。大変失礼ではありましたが、『 自信が無いです。私に務まりますでしょうか?』とお聞きしてしまいました。3年職人として努力をして参りました。国家資格も取り、事業起こしの準備を始める頃。その丁度合間。今丁度ゆとりが出来たよという奇跡の時。「一緒に舞台を作りたい」との言葉を受け、葛藤の末お受けしました。ここからは少し間が開きます。そう、舞台期間を開ける為だけでなく眼球が裏を向くような程の仕事が舞い込みます。100万行くか行かないかの仕事をしていた者に急に300越えの仕事は無理よ!!!しかも補佐無し!!!!白目ですね白目。白旗無いので白目ですね。すみません、取り乱しました。あと2回取り乱します。そして、顔合わせの日がやってきました。心細くてしょうがない。が、うちの舞台に出てくれた20歳からの友、齋藤さんが居る!!心太い!これではところてんですね。心強い!お隣陣取って300万現場の経過資料を泣きべそ書きながら作る!!何かあったらきっと助けてくれる!!!そして殺陣練でご一緒になった大和さんが齋藤さんの元へ!知り合いまた居た!嬉しい!でも私に気付いていない!!面白いからほっとこう!!!!(ごめんね)そしてこれまたうちの舞台に出てくれて、そんときのメンバーでマイクラ一緒にやってる平澤さんもきた!!!この時点での私の知り合いは以上!!!!知らない人ばっかだぜー!!挨拶とかされられるぜー!何言ったか覚えてないぜー!!!自分の声が小さくてびっくりした覚えはあります。心、弱し!!そして合間に大和さんがご挨拶に来てくれました。律儀で良い方ですね。いじわるしてごめんね(ᯅ̈)そしてしどろもどろ顔合わせが終わり、稽古期間に突入します。そして地獄の連絡が来ます。1月前に見積を出した現場が着工したとの事。そして11月22日迄に収めなきゃいけないとの事。1から図面書いて制作してってすると。。1月半かかるって私、耳にタコが出来るほどお伝えしましたがタコで塞がってしまっていたみたいですねぇ。え、どうするんですか?私見に行く時間ないですけども・・・「なんとかならないかなぁ」なんとかしましょう。もうメーカーに図面書いていただくとそれだけで半月以上かかるので自分で書きます。・・・・・まってこれ舞台の振り返りだったはずですが。。さっとしましょう。稽古中も隙間見ては図面書いて、現場一応見に行ったらシャッターレール絡んでて仕様変わって図面1から書きなおして、金物屋さんと打合せしまくって材料指定して施工しました。大変でした!はい、スチールドア作成物語おしまい!!稽古裏話に戻りまして。一番の問題は、セリフが入らんのです。いえ、仕事のせいにする流れですが、そうではなく、私の中で共感が得られるようでも、そうでなくても、セリフが滑るのです。ブランクを強く感じました。主役のアンダーやりながらアンサンブルやったこともございました。演出助手まがいの時は台本丸っと覚えました。入ってこないのです。セリフが。内容も、セリフ回しも一人ならば出来ましょう。感情の流れも起伏も出来ましょう。己への失望。私に初めからあるのはどうせ一生懸命しかない。月日はどんどん流れてゆきました。私は台本を読んでキャラクターを確率します。今回の設定は薄味になってしまったのですが、鬼六さんの曲はamazarashiさんのアンチノミー。似通った部分が多くて苛まれ、蝕まれます。場の香盤表は副題を添えて。私はこうしてますけど皆さんはどうされてるのでしょうね。そういうこともお話しすると面白いかもしれませんねぇ。人も増え、殺陣も洗練されつつ私は自分の名乗りのシーンで読み方を変えたわけでもない名前と間違え、顔から火を噴き。通し稽古を経て、いざ、小屋入り。今回は本当にキャストが良かったです。やはり今回お世話になったせつ役の吉田さん心を抉る様な視線を放つ、感情の起伏をストレートに投げ掛ける事も繊細に隠すことも出来る大変に良い女優さんです。お客様全員に、この、涙も嘲りも、なぜこの芝居がもっと共有できないのか腸が煮えくり返る思いが在る。舞台の奥ゆかしさなのか、限界なのか。激情が脳髄を溶かす。素晴らしかった。私の心の支え傀儡衆、蛟丸役の片山さん、あばらが折れていたようで非常に心配のみんなの兄貴。傀儡としての決まり事を共有したり有り様というモノを背中で魅せる漢でいらっしゃいました。元気になって・・・・。虎王役の市川さん、集合写真の変顔は違った方向で心配になります末っ子のような空気を醸し出す彼。バチバチに殺陣役者かと思いきや俯瞰的視点が卓越しており、全体が冷静に見えているバランサーでらっしゃいました。雀女役の渡辺さん、傀儡衆唯一の女性にして端々に才を感じさせる笑顔の素敵な方。初の二刀に挑戦心を剝き出しにして運動神経を惜しみなく発揮。しなやか且つ優しーく制圧されてました。強い。甲寿郎役の杉山さん、殺陣師補佐も兼任され全体の殺陣もその双肩に乗せてらっしゃいました御仁。大きな扇子を巧みに操り、やはり殺陣師の血。朗らかにどこまで動けるか自己の追及は誰よりも深く。確実に。・・・これもう心持たないんですけど。全員分やろうとか思ってた私が悪かったです。すみませんでした。正直、他に鬼六さんが関わる演者さんって殆どいないんですよね。強固な意志でこの世界に疑問を投げ掛け続けた、仲間は死んでも仲間である永倉役、梅田さん。しがらみとどこか親近感を覚えて居る、源さんの遺体で正気を戻すシーンでは私の心の臓を殴る近藤役、齋藤さん。私の思い迄背負って死んでくれた突き抜けたお人好しだけど絶対に絶対に絶対に許さない土方役、井川さん。絶対に許さない。局長をそれこそ命懸けで支える兄弟子井上役、大井さん。あの笑顔あっての心臓殴り。人と成りあっての心臓殴り。そしてそれを殺ってくれよった斉藤役、チャパさん。許さないけどこの方の崩しが無ければ緊張感は産まれない。至高。そんな皆を思って声をかけ続けた原田役、西田さん。いつでも良き努力の人、私にまで槍術を聞きに来られるがむしゃらな姿勢。その伴侶、増役、梅木さん。芯の軸ブレが起きないのは理想像が鮮明に見えているのでしょう。事故も乗り越える姿勢は執念にも似たプロ意識。全快を願うばかり。命を繋ぐこと、志を曲げぬ事で物語に意味を持たせた藤堂役、赤羽さん。妥協を知らぬ4場には脱帽。狂い切った沖田役、早乙女さん。日常から一徹した戦闘狂あっての26場。それを熟せる技量は彼にとってさしたる物ではないのだろう。総司の感情の介錯人結原役、桜町さん。散り際も、17場の狂人の刀に手をやるのも、絆をそこはかとなく垣間見せる。腕が立つ。いや、だから心持たねぇって私が。でもここまで言って言うなって言う方が無理よね。吐露してしまいましょう。この方無しには始まらねぇ芹沢役、関口さん。殺陣メインでやられてるわけでもないのに多対一の凄味と渋いボイス。唯一でした。鬼六の惑いを拗らせまくってくれた火付け人坂本役、比嘉さん。軽快な素振りとは裏腹に徹底した理詰めが目を張ります。土方に止めを刺すのは吉祥役、山田さん。よくやって下さいました。貴方が愛せば愛すほど、優しければ優しいほど、その言葉を土方を蝕みます。ありがとうございます。恋敵同時に一生の友弁財役、小暮さん。艶やか。洗練された技を支えるのは弛まぬ歩み。切られた後の「なんで」の心細さが、細る声が。。二人の斟酌人茉莉役、藤白さん。どうにも抗えぬ物に出会ったとき、立ち止まるか、核心を突きに行くか。脳が擦り切れるような感情芝居は、どうにも訴えがストレートに来る。鬼六にとっての口火を切るのは弥一役、荒井さん初めの依頼人から政府の人間まで兼任されるが安定したクオリティを提供される方。すまんが守り切れなかったよ。ちょっとまりゐさんとめぐたんには物申したいんだけど!よくも稽古場であれだけ笑わせてくれましたね!バミリから落ちるしめっちゃ目で訴えてくるし!新政府の場は笑わないのが大変だったわ!昔馴染みのはどうも弱くていかん!二人のコメントは無し!これはもう無しだよ!楽しそうな役で羨ましかったぞ!お体大切にね!!!!そして最初にどかんとデカい声を出す但馬屋甚五郎役、下田さん。彼のでかい声で1場は締まる。但馬屋は楽しそうだったなぁ。いい役でした。しっかり者だども幼さを残す沙羅役、加藤さん。代役受けて下さったり、手の届き難い所までカバーしてくださってありがたかったです。双樹との喧嘩を茉莉に窘められるのはつい和んでしまします。底抜けに明るいムードメーカー双樹役、美澄さん。但馬屋のシーンでもうそれは豪快に虎王に殺される様は稽古の甲斐あってド派手でした。稽古場でも出演陣を明るくされてて、天性のものですね。語ればもちろん長いのですが、ギュッと詰め込みました。良いキャスト陣で終えられて幸福でした。そんな私といえば、せつの兄弟増やしたり、感情に振り回されたり、オフになるとボケボケなので壁にぶつかったり散々でしたね。毎日反省の嵐でした。ですが今の全力だと思います。私の全てだったと思います。公には云い辛い事柄ですが、今回の私のお客様はリピートして下さった方を抜いて50名ご覧くださいました。本当にありがとうございました。まだ配信買って下さる方がまだいらっしゃるので厳密には変わりますが、この集客力、現代役者にとって必要な能力の一つだと承知しております。そして、自分の価値の一つでもあります。昨今配信が増えてきて、純粋な集客力がわかるようになりました。私は演者としての肝心な演技力と言われるものも集客力も中途半端です。10数年自分の力で。子供時代を入れれば小学校5年の舞台から20年。これが私の現実です。今回最後にご縁頂けた、演出の富樫さん、音響の山下さん、照明の三枝さん、衣装の池下さん何度もお世話になりました。始めましてでした殺陣師の兼田さん、舞監の井せきさん、イラスト作成して下さった貘九三口造先生井上さんも、大森さんも、制作で入ってくださった方々も感謝しかございません。なにがしかの形でお芝居はきっとまたやります。でも私の舞台人生は此処で幕を下ろさせていただきます。最後に良いキャスト、スタッフ陣と演れて幸福でした。ありがとうございました。鬼六こと、真田静六役 宮川翔一郎