土曜の朝は、決まって出先の近くにあるパン屋で朝食をとっている。
休日の朝だが、駅前なので客は多い。店先では若い娘さんが3,4人、忙しそうに
くるくる動いている。
男女を問わず、若い子がきびきび働く姿を見るのは、気持ちがいい。同じ動きを我々
中高年がすれば、さぞかし暑苦しいことだろう。

そのスタッフの中に昔の教え子とそっくりの子がいて、つい彼女を探してしまう。
小柄で童顔、黒髪の小振りなポニーテール。薄化粧をしているから高校生以下ってことはないだろうが、うっかりすると中学生でも通じてしまうかもしれない。おとなしそうな顔つきで、一生懸命明るく声を出して、コマネズミのごとくクルクル動いている感じが初々しい。顔の形は見事な卵形。ひそかに「タマちゃん」と命名している。

先日もパンをほおばっていると、タマちゃんがすぐ隣にやってきて、トレイを整理しながら、店内の客に向かって商品案内を始めた。

「只今、××パンが焼きたてでございますーっ。是非、ご賞味くだいまちぇーっ…!」

クダイマチェ? 何?、ムエタイの選手の名前かなんかか?

一瞬静まる店内。こらえきれずにくつくつと笑い出す同僚の若いスタッフ。

ばれないようにそっと、新聞のかげからタマちゃんの顔をうかがってみたら、
かわいそうに、ゆでたてになっていた。


やあ、おじさん、完璧に固定ファンになっちゃったよ。

若い人達っぽい言い方でまとめよう。
「タマちゃんがんばれ、マジがんばれ!」

ラパンに乗ってます。まだ入庫2ヶ月なので、初々しい輝きを保っております。
よく町で見かけているうちに、いつの間にか魅了されてしまいました。
中学生くらいのマラソン大会(女子)で、大柄だったり美形だったりする同級生たちに囲まれながらも、一生懸命走っている、決して美人ではないチビ助のようで、なんか愛くるしい。…ちょっと喩えがいかん。

軽自動車はかれこれ20年ぶりくらい。学生~社会人3年目くらいまで、ホンダのトゥデイという軽に乗っていました。トゥデイはすごかった。ハンドルが、シフトが(まだマニュアル)、軽い、軽い。クラッチをつなぐと、ミニカーのようにポンと飛び出す。遊園地のゴーカードみたい。歩道でも走ってしまいそうな機動力。車体によりかかると、ボディがへこむんじゃないか…と心配するほど華奢なルックス。自転車を乗り回す感覚で愛用してました。青春の愛車でした。

男子学生は今昔を問わず馬鹿な生き物で、そのトゥデイに4人乗り込んで、東京から新潟まで旅行しました。ポニーに引っ越し荷物をしょわせるようなもの。高速道路で上り坂にさしかかると、かわいそうに、断末魔のようなエンジン音をとどろかせて…。それから、隣をトラックに追い越されるたびに、風圧で車幅の半分くらい左右に振られて、いやあ、怖かった。同乗者も往路で恐怖感を味わったのでしょう。2人が別行動で帰京しました。

その頃の軽と比べると、今の軽…。もう、未来の乗り物ですな。

今日、交差点で信号待ちしていたら、後ろからラパン。対向車にラパン。ありゃりゃ…と思って見ていると、左からこっちに右折してきたのもラパン。しかも、これが同型同色。ちょっとミラクルでしょ。対向車のお姉ちゃん、爆笑していたけど、やっぱりこのシチュエーションに対してだよな…。

まあ、そんなわけで、まだ新車時代。無邪気に楽しんでおります。
後ろ姿の、控えめで小振りなオシリがなんともキュート……喩えがいかん。

中学生の時、吹奏楽部員だった。
当時の田舎中学生にとって超最終兵器はウォークマン。見つかったら没収の危険を冒してもこっそり学校に持ち込んで、部員たちといっしょに覚えたてのクラシックを回し聴きした。(もちろん松田聖子やサザンやオフコースなんかも聴いていた…苦笑)

で、生意気なことを言い合った。
「ブラームスの4番が…」
「や、あれは少女趣味だよ。」
「『惑星』は…?」
「つまらん。『春の祭典』」
「わかんねー。」
「マーラーの…」
「長いよ。カセットに入んねーよ。」 ←カセット!

ウォークマン没収を目こぼししてくれた音楽の先生が輪に加わる。
「やっぱり、バッハだよ、バッハ。」
一同、青きクチバシをカパカパ動かし、声変わりしかかった、聞き苦しい黄色い
声で大ブーイング。
「ばっはーっ!」「つまんないー」「最後まで聴けないよー」
でも先生は、当時流行の最先端だったアラレちゃん眼鏡(…30代以下の若い人には分かるまい!!)をひくひく上下させながら、涼しい顔をして言い放つのだ。
「みんなも、オッサン・オバサンになったら分かるよ。最後はバッハに戻るのさ。」



バッハはいい。

積年のケガレを洗い流してくれる、荘厳なる調和の響き。
マタイ・ヨハネ両受難曲。平均律クラヴィーア。無伴奏チェロ組曲。カンタータ全集。
何のかんので、週1回。どうしても汚れてしまう大人の心はバッハで除菌だ。

ああ、先生も汚れていたんですね。
そりゃそうだ。毎日毎日、あんなクチバシの青い、声の黄色い、山猿の子ども相手に
楽器の指導なんて。

……

先生。
バッハはいいですよね。