本書は著者のデビュー作である。著者は公益社団法人俳人協会に所属し、句会「泉の会」発足に尽力。共同代表を務め、句会「鴻」の会員である。しかし、本業?は能楽で、平成2年から観世流シテ方能楽師加藤眞悟師に師事し、現在はいせさき能実行委員会事務局長、公益財団法人「梅若研能会」評議員、能楽師加藤眞悟氏主宰「眞謡会」副会長、世阿弥学会所属と、長年に渡り「能」への取り組みを続けてきた。

 そのように、日本文化に極めて造詣の深き著者であるが、今回の句集は、書名「かぶと虫」からして著者の洒落感と力量が読み取れる。

 「かぶと虫 少年ジャンプと交換す」

 著者も私もいわゆる「アラカン」世代であるが、この世代には、瞬時の納得感と、なつかしさ。また、等価交換ではないこと(同じ子どもでも、かぶと虫世代から初年ジャンプ世代への成長と価値観の転換)も想像されて、凝縮された中にユーモアと懐かしさ、ほろ苦さなど、俳句の醍醐味を感じさせてくれる。

 著作権やネタバレの問題もあるので控えるが、収められたどの句も、著者と世代が同じなせいか、うんうんとうなずいてしまうものばかり。

 自分の祖母も俳句を長くたしなんでいたが、やはり、保守本流?というか、なにげない日常生活そのものより、日常の中で「美しいもの」「絵になるもの」を句にしていた気がする。豊富な語彙や表現で独自の世界を築いており、それは素人の自分にも「簡単にはできないな」と思わせるものがあった。だが、五・七・五しかない世界では、マンネリ化を避けつつ、本流を行き続けようとすればするほど、祖母も晩年は句を作るのに、楽しみが苦労になってしまっているような風もあった。

 そういう祖母を見てきた自分からすると、この句集「かぶと虫」はひとつの解決作品である。伝統的に、豊富な語彙や豊かで多種多様な表現を維持しつつも、題材はあえて選別せずに「日常」そのものを切り取っている。

 自分は老後の趣味にと写真撮影をツーリングやJAZZライブのお供に再開したが、切り取るといえば写真(いまは画像というべきか)がまずは浮かぶ。五・七・五のように、写真も4:3の画像比率が基本で、その中で対象物を切り取る(もしくは収める)。限られた空間の中にどれだけのものを収めるか。圧縮しすぎても息苦しいし、間が多ければ文字通り間延びしてしまう。俳句も同じだろう。

 この句集「かぶと虫」は、その切り取り方や著者の見つめているものとその背景、バランスが絶妙であり、全体に通底するのは「うんうん」「そうそう」「なるほど」という納得感。それを文芸として、改めて五・七・五の世界に落とし込むための語彙や語句、リズム、表現(擬音等)。それらが、とても心地よく、一句一句を読むことで、なにげない日常が「そうだよね~」と読者にとって身近な生き生きとしたものとなる。

 俳句への興味の有無は別として、少し人生を立ち止まって振り返りたい想いを抱いている同世代には、ぜひとも勧めたい良書である。

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