親の死というものは、それだけで特別です。

その中でもガンで亡くなった場合、治療において万全を尽くしたとしても後悔が残らないわけではありません。実家の父の声がかすれ始めたのは、今から20年前です。

本人はしきりと風邪だと言っていましたが、なかなか治りません。

家族はあまり病気をすることがなく、風邪をひく程度で病院にかかったこともなければ入院をしたこともありません。病院と縁がなかったのはよいことですが、それに加えて父は大の病院嫌いで医者嫌いということもあり、健康診断をまともに受診していませんでした。とても頑固な性格で、周囲から「せめて健康診断だけは」「人間ドックを受けて」といわれても、聞く耳を持ちません。

今は人間ドックを受診しないことがわかったら、会社の人事部から呼び出されることもありますが、当時はまだ従業員の健康管理が甘かった時代です。当人も拒否をするだけで、何のお咎めも受けませんでした。日に日に父の声が聞き取りづらくなり、しまいには会社の電話にも出られなくなりました。頻繁に咳き込み、声が出せなくなり、血痰を吐くようになって初めて病院にいきました。

その日のうちに検査入院、

下咽頭ガンの診断を受け、翌々週には声帯の片方を摘出しました。父は一番嫌いな病院で、一番嫌いな医者から命にかかわる宣告を受け、最終的には声帯の全摘出という結果になりました。今から考えれば、毎日2箱の喫煙、ストレス、ワーカーホリックがすべての原因だと痛感します。命を優先し、声帯の全摘出をし、声を失い、仕事も失いました。

ガン検査

喉に穴が空いた体で生活をすることになりましたが、幸運なことに食事もお酒も普段通りで済みました。担当医の適切な対応は、本当にありがたかったです。父親の死去は数年前でしたが、その間はずっと「どうしてもっと早く病院に連れていかなかったのか」と後悔することも多かったです。病院で喉の検査をしていれば、人間ドックを受けていればと思います。父の死因は肺ガンでした。苦しそうに咳き込みながら亡くなりました。下咽頭ガンを防げれば肺ガンも防げたのではと後悔しています。