7月18日 日曜日

午後3時丁度にICUへ。
ICU前のインターホンで子供達を連れて来た事を伝えた。

『どうぞ、子供さん達は五分以内でお願いします。』

と、念を押された。
手洗い、ウェルパス消毒をして病室へ。
『みんな連れて来たよ。』

と、妻に話かけると、妻はパァッと笑顔がこぼれた。

『みんな変わらんねぇ。』と、いつになく妻は嬉しそうに笑っていた。

子供達は言葉をかけられずにいた。『お母さんに話したい事はないんか?』
と、言うと子供達は戸惑っていた。

すると三男が『お母さん早く良くなってね。』と、妻の手を握り顔を擦り付けていた。
『お母さんの手はやっぱり暖かいね。』と、言って妻と笑っていた。

長男、次男は『早く帰って来てね。』と、三男に習い手を握り言うのが精一杯だった。

そうこう、していると五分が過ぎた。

子供達はICUから出る間際に『お母さんまた来るね。』と三人で声をかけた。
妻は『また来てね。ありがとう、ごめんね。』と、笑顔で応えた。

子供達が病室から出ると妻は目を閉じて眠った。


看護師さんに声をかけ、俺も帰る事にした。

妻に『じゃあ帰るね、また明日来るから。』と、伝えると妻は目を閉じたまま、涙を流した。

『どうしたん?』

妻は応えれない様子だった。

『寂しいんやね。ごめんね、一緒にいれなくて。』

と、言うと妻は首を振った。

『違う違う違う違うよぉ、ごめんなさい、ありがとう。』と、言った。

『うん。なんも謝らなくていいんよ。』
と、言うと妻は目を閉じたまま、笑っていた。

『じゃあ、また明日。』
と、言うと妻は俺の手を握り、笑顔でうなずいた。


待合室に待たせていた子供達も笑顔で『お父さん、ありがとう。』と、迎えてくれた。

『うん。じゃあ帰ろうか。』

『帰ろう。』

連れて来て良かったと思うと同時に、寂しい気持ちにもなった。

家族が一緒にいられるはずの家族が一緒にいられない事が、こんなに寂しいとは考えもしなかった。
子供達はもっと寂しいのだろうと身に染みた。

7月18日 日曜日
昨日、妻と少し話せた間に子供達に会いたいと言っていたのを思い出し、子供達に、『お母さんに会いたい?』と、聞いた。
子供達は『会えるんなら会いたいよ。』
と、二つ返事が返ってきた。

しかし、『お母さんは今、誰が誰とかハッキリわかる時とわからない時がある、話も出来る時とわからない時がある。それなりに覚悟がいるがどうする?』と、その事を伝えるのも迷ったが、事実を伝えた。
正直、どちらも迷った。
会わせるのには、双方にかなりのリスクがあると思ったからだ。

しかし、子供達は三人で話合い、『会いに行きたい。僕達の事がわからなくなっても、僕達のお母さんだから。』

と、意外な返事が返ってきた。
三人共、この約1ヶ月で成長したんだなと感じていた。

『わかった。じゃあ先生に許可取って会いに行こう。』

病院へ電話を入れ、許可が出た。

ただし、五分以内でと条件付きだ。

子供達に伝えると、各々がお母さんに伝えたい事を考えていた。

『沢山の話は出来ないからな。』

『わかったよ。』

と、返事は少し寂しげに聞こえた。

午後3時からの面会時間に合わせ、子供達と家事をこなす事にして、面会時間が来るのを待った。
7月17日 土曜日
今日も仕事を終え、病院へ行く。

病室の妻は、座った姿勢だった。

酸素マスクが取れていたが、鼻にチューブがつけられていた。

『調子はどう?』

妻は、かろうじて目が開いているような感じで、絞り出すように声をだした『うん。』

昨日よりは調子は良さそうに見える。

『俺が誰かはわかってるんよね?』

妻は少し間をおいて『なんいいよん?わかるよ。』と、小さな声で言ったと同時に咳き込んだ。

『良かったぁ。それ聞いて安心したよ。』

妻は笑顔で応えた。
『やっと落ち着いて来たみたいで安心したよ。』
と、言うと妻は涙を流し始めた。

『本当にごめん。でも、怖いコワイコワイコワイ。』

『大丈夫、大丈夫やからそんなん言わんの。』

『そうなん?ホント?』

『あぁ、大丈夫。怖がらなくていいんよ。』

『だって、死ぬんやろ?怖い。』

『そんな事ないよ。大丈夫やから、泣かないんよ。』

『ホント?ホント?』

『うん。大丈夫よ。』

妻は涙を浮かべていたが、少し落ち着いたのか笑顔が戻った。

少しの間、子供達の様子や家の事、仕事の事を話した。

その間、妻は嬉しそうに笑っていた。

面会時間が終わる時間になって帰る間際に『じゃあ、また明日来るね。』

と、言うと妻は顔をしかめて、何かブツブツと言っていた。

『毎日、来てるから明日も待っててね。』

と、言うと『ホント?毎日?』

『うん、ホントだよ。看護師さんに聞いてみたらわかるよ。』

『ありがとう。嬉しいねぇ。』

『じゃあ時間だから帰るね、おやすみ。』

『おやすみ。明日ね。』

会話らしい会話が久々に長時間出来た。
このぶんだと、早い回復が望めそうだと思い帰路に着いた。