「これ急ぎなの?」
職場の先輩の雛菊さんが言いました。
言葉の意図する所が分からず、私はひやりとして慎重に返答するのです。
「…急ぎではない…と、思いますけど……主任さん②に頼まれたんですよ」
つい歯切れの悪い返事になってしまいました。相手を苛々させる喋り方だとは自覚しておりますが、目上の方を前にすると私は酷く畏縮してしまうのです。
密やかに時計を一瞥すると、定時を10分過ぎておりました。
「終わらないよ」
どうして良いか分からず、主任さん②に助けを求める視線を送りました。
 しかし何と言うべきか迷い、そうしているうちに雛菊さんが私の代わりに話しはじめました。
「これ進みませんよ?」
「なんで?早くすればいいじゃん」
「あたしも時間かかるのやってるから進みませんよ」
「あー、じゃあこれ一番遅くしていいよ」
「や、べつにそこまでは…」
会話を雛菊さんに丸投げした私は、2人のやり取りを黙って聞きながら、他になにか出来る仕事がないか考えていました。
「他にやる事ないなら帰っちゃっていいよ」
「いいんですか?」
「あと待つだけだし」
素直に帰るべきか謙虚に待つべきか悩み、ミルクキャンディが恋しくなり帰る事にしました。

fin