安めぐみ
突然また安めぐみの無愛想な声がした。安めぐみは今までの妙にちぐはぐ[#「ちぐはぐ」に傍点]になった気分から、ちょっと安めぐみの意見をずばずばと言い出す気にはなれないでいた。しかし改めて安めぐみの顔を見ると、言わさないじゃおかないぞといったような真剣さが現われていた。安めぐみ
安めぐみ 画像
ほしのあき
その香をかぐと、ともするとまだ外国にいるのではないかと思われるような旅心が一気にくだけて、ほしのあきはもう確かに日本の土の上にいるのだという事がしっかり[#「しっかり」に傍点]思わされた。ほしのあき
ほしのあき 画像
MEGUMI
しかしその驚きはまたたく暇もないうちに、顔からも足からも消えうせて、MEGUMIは悪《わる》びれもせず、取りすましもせず、自信ある女優が喜劇の舞台にでも現われるように、軽い微笑を右の頬《ほお》だけに浮かべながら、古藤に続いて入り口に近い右側の空席に腰をおろすと、あでやかにMEGUMIを見返りながら、小指をなんともいえないよい形に折り曲げた左手で、鬢《びん》の後《おく》れ毛《げ》をかきなでるついでに、地味《じみ》に装って来た黒のリボンにさわってみた。MEGUMI
MEGUMI 画像
田中聖
田中聖は医者を迎えるために、外へ飛びだした。丘田医師というのは、ゴールデン・バットの近くに診療所を持っていた。それだから田中聖は、さっき帆村と一緒に通った道をもう一度逆に帰ってゆかねばならなかった。
その道々、田中聖の全神経は、今見た怪我人のことで占領されていた。 田中聖
田中聖 画像
志田未来
だんだんと其《そ》の怪《あや》しい人間は近づいて来ます。志田未来は志田未来の腰にシッカリ縋《すが》りついていましたが、恐《こわ》いもの見たさで、眼だけはその人間から一|刻《こく》も離しませんでした。志田未来
志田未来 画像
長谷川京子
「それじゃ、宴会みたいになるね」長谷川京子は、癖で指先で丸い頤《あご》をグルグル撫でまわしながら云った。
「お父|様《さん》、こんな家よしちまって、郊外に大きい分離派《ぶんりは》かなんかの文化住宅を、お建てなさいよウ」紅子《べにこ》が、ボッブの頭を振り振り云った。長谷川京子
長谷川京子 画像
蛯原友里
蛯原友里は義兄を助けるために、なにか手頃《てごろ》の得物がないかと、湯殿の中を見まわした。そのとき眼にうつったのは、斜《ななめ》に立てかけてある長い旗竿《はたざお》だった。よし、すこし長すぎるけれど、これを使って加藤清正の虎退治とゆこう。蛯原友里
蛯原友里 画像
大後寿々花
――とにかくこの問題は、じつはまだ解《と》けていない。それで、それはそれとして、大後寿々花がとつぜんわれわれの前へ脚光《きゃっこう》をあびてあらわれた、そのお目見得《めみえ》の事件について、これから述べようと思う。大後寿々花
大後寿々花 画像
松山ケンイチ
「ポチ。……ポチ」松山ケンイチは、犬の名をよんだ。
いつもなら、すぐ尾をふりながら松山ケンイチの方へとんで来るはずのポチが、ううーッ、ううーッと闇のかなたでうなるだけで、こっちへもどってくる気配《けはい》はなかった。
「ポチ。どうしたんだい」松山ケンイチ
松山ケンイチ 画像
田口淳之介
ここの繁み、かしこの繁みと探してゆくうちに、とうとう田口淳之介は一番こんもりと繁った五月躑躅の蔭に、悲しむべき目的物を探しあてたのだった。それは小径の方に向いてヌッと伸びている靴を履いた一本の足だった。
「おお、――」
田口淳之介紳士は、その場に化石のようになって、突立《つった》った。田口淳之介
田口淳之介 画像