ゼロからできる!カフェオーナーの個人旅行レッスン

ゼロからできる!カフェオーナーの個人旅行レッスン

これまでハネムーンを中心に多くの個人旅行をプランニングしてきた元旅行会社勤務のカフェオーナーが、常連客相手にハネムーンの個人旅行のプランニング方法をゼロから教えてくれるストーリー形式のブログ。

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「整理してきましたよ。ちゃんと。」


先週末から1週間、オーナーに言われたとおりにまずは旅行の「キャパ」を整理した芽衣は、その内容を伝えるためにカフェに入るといつものカウンター席に座るなりそう伝えた。


「・・・・何を?」


オーナーの言葉に愕然としながらも、芽衣は言った。


「覚えてないんですか?先週末、お店閉めた後にパチンコ屋さんに行って負けた日!その時話したでしょ?私たちのハネムーン、アドバイスしてくれるからまずは旅行のキャパ整理して来いって。」


テーブルを拭いていた手を止め、一瞬宙を仰ぐような仕草を見せた後にオーナーは答えた。


「あ~、言っとったわ!ホンマやなぁ。ごめんごめん。・・・ん?なんでオレがパチンコで負けたことまでメイちゃん知ってんの?!なんで?」


「あれだけ浮ついた表情で行ってパチンコで勝つことなんてまずないでしょ?だいたいパチンコなんて通算してみたら負けるようになってるんだから。」


芽衣の呆れたような言い方にオーナーは少し落ち込んだ表情で


「いや、オレもな、1万円だけやって決めててんけどな・・・。気がついたらオレの財布から偉い人達みんな消えてたんや・・。」


と答えて、テーブルの同じ場所を何度も拭いていた。


「そんなことよりオーナー、ちゃんと整理してきたからレッスンの続き聞かせてくれない? あ、注文カフェ・ラテで。」


芽衣の言葉にオーナーはうなずくと、カウンターに戻っていった。



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カウンター越しにカフェ・ラテを差しだすと、オーナーは言った。


「で、どんな感じになったん?」


芽衣は頭の中を整理するようにしてゆっくりと話しだした。


「えっとね、まず予算はひとり40万円。2人で80万円ね。ハネムーンだし冷静に考えた上でちょっと贅沢しようってことになったの。」


「うん、ええんちゃう?80万円あれば結構良い旅行になるで。」


「そっかな~。正直、みんながハネムーンでどれくらいの予算にしてるか分からなくて・・・。」


芽衣が言うとオーナーは答えた。


「せやな~、オレが実際にやってた時の経験で言えば、大体一人当たり30万~35万円が一番多かったと思うわ。」


「なるほどね」とうなずく芽衣に続けて言った。


「ほんで旅行に取れる日数は?」


「うん、彼の方が仕事のスケジュール上どうしても8日以上は無理だって。私的にはどうせなんだから10日くらい休んでゆっくり旅行したいんだけど・・・。」


芽衣は残念そうにカフェ・ラテをすすって言った。


「そらしゃあないで、メイちゃん。仕事あっての結婚生活やしなぁ。 わかった。じゃあ、ちょっと聞くで。」


オーナーは芽衣に突然質問をした。


「メイちゃんの言った予算でどこまでの予算のこと言ってんの?」


「?どこまで?どこまでって旅行の費用としてだけど・・・。」


芽衣はオーナーの質問の意味が分からずにいた。


「せやからね、その予算は旅行会社に払う金額のこと言うてんの?それともラブラブなハネムーンから無事帰ってきて新居にご帰宅するその時までのこと言うてんの?」


そこまで言われて芽衣は初めて旅行費用=旅行パンフレットに載っているツアー料金で考えていたことに気が付いた。


「えっと・・・。」


答えにつまる芽衣にオーナーは続けた。


「旅行に行ったら当たり前やけどショッピングしたりレストランでおいしいもの食べたりして現地で結構お金使うやん?その分もある程度計算に入れて予算考えんとあかんで。もちろん、その人によって現地での使い方は全然ちゃうから平均なんてないけど、オレがお客さんが帰ってきたあとに聞く話ではひとり10万~15万円くらいはフツーに使ってるみたいやで。つまり2人で30万やな。」


芽衣の顔色が少し暗くなるのを気にせず、オーナーは続ける。


「あ、それからタックスも忘れたらあかんよ。」


「たっくす?」


「そう。TAXや。日本語で言えば航空諸税やな。現地空港税とか空港使用料とか、ちょっと前までテレビでもやってたやろ?燃油サーチャージっていうやつ。あれもその一種やな。去年の秋頃なんかこのTAXだけでヨーロッパ行ったら5万円くらいしてたからなぁ。メチャクチャやで。 今はほとんど無くなってヨーロッパでも1万円~1万5千円くらいちゃうかな。」


「その料金って、このツアー代金には入ってないの?」


芽衣はカバンの中から持ってきたイタリアのパンフレットを取り出し、開いたページに書いてあるツアー料金の部分を指さして言った。


「残念ながらな~、入ってないわ。ほらその下のほうにちっちゃい文字で書いてるとこあるやろ?」


「あ・・・、ホントだ。」


芽衣はページの一番下のところに航空諸税が別途必要になることを記載した文章を発見した。


「そう考えたら、旅行本体以外にも結構お金かかるやん?それ見越して予算立てなあかんで。」


また一から予算を考え直す必要があることを実感し、芽衣はガッカリしてカウンターにうつ伏せた。


そんな彼女を気にすることなく、オーナーは店に入ってきた新しいお客に挨拶をしてから言った。


「メイちゃん、ちょっと待っててな少し仕事してくるわ。またあとでな。」



次回、LESSON 1: 旅行方面の決め方③ につづく。



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「またビンゴや。」


オーナーの思いがけない一言に芽衣は驚いた。


「本当に?このカフェやるまで旅行会社に勤めてたの?」


「せやで。メイちゃんみたいにラブラブな二人にハネムーン旅行のプランニングもようしてたんやで。まぁ、そのころはもっと上品なしゃべり方しとったけどなぁ。」


声を上げて笑うオーナーは変にSの頃を懐かしむ様子もなく、淡々とそう芽衣に伝えた。


「まったく想像できない・・・。オーナーがハネムーン旅行をお客さんに勧めていたなんて。っていうかちょっと気持ち悪い・・。」


「メイちゃん・・、それはキツイわ~。こう見えて結構人気あったんやで?スーツなんかパリっと着てやなぁ。」


たしかに、前にオーナーと話している時に33歳と聞いた記憶があるし、よく見れば決して外見も悪くはない。どちらかと言えば整っているほうである。ただ、彼の話し方や、時おり炸裂するオヤジギャグからはハネムーンというロマンティックな世界に身を置いていた人間にはどうしてもイメージが結びつかなかったのだ。


「ふ~ん。人はイメージだけで判断しちゃダメね。 そうだ、じゃあオーナー、私たちのハネムーンを一緒に考えてくれない?さっきオーナーの言ってた『旅行を自分で作る』っていうのもすごく興味あるし。」


芽衣からの依頼にオーナーは答えた。


「せやな~、別にええけど一緒に考えるていうか、メイちゃんの質問に答えながらアドバイスをするっていうかんじやろなぁ。何て言うん?アドバイザー・・・っちゅうやつやな。 おおっ!カフェオーナーの個人旅行レッスン!これイケてるんちゃう?なんかオシャレな風を感じひん?なぁメイちゃん。」


芽衣は相談したことを一瞬後悔しながらも、気を取り直してオーナーに聞いてみた。


「早速なんだけど、まず方面からなかなか決まらないの。イタリアなんかいいな~って思うし、やっぱりパリには行きたいし、スペインなんかも魅力的だし・・・。それからデザイン家具も好きだから北欧なんかも気になるし。」


「せやね~。」


オーナーは時計を見ながら空返事をすると、閉店の時間が近づいていることに気付き、いつものように淡々と店を閉める準備に取り掛かった。


「あとね~、彼のほうはサッカーが好きでどうせヨーロッパ行くんだったらサッカーの試合も見たいって言ってるし、スイスの雄大な景色は必ず行ってみたいらしいんだ。」


「せやね~。」


店の入口のドアにぶら下げている金属製の黒いプレートをひっくり返して "CLOSE" にし、店の中へ戻ってくるとまた空返事で芽衣に答えた。


「でもね~、やっぱりハネムーンはロマンティックにビーチリゾートで二人っきりの時間も素敵だな~なんてことも話してて、この前パンフレット見てたら定番のハワイや南の楽園のタヒチもいいし、あとモルディブだっけ?あそこすっごくよかったぁ・・・。」


うっとりした目でひたすらいろんな国の名前を連発する芽衣に、オーナーは変わらず


「せやね~。」


と繰り返すだけだった。


全く反応のないオーナーの態度にちょっと腹を立てた芽衣は言った。


「ちょっとアドバイザーさん、私たちのハネムーンはどこにすればいいのかアドバイスちょうだいよ~。」


店じまいを一通り終えた店長は、自分用のアイスコーヒーを手際よく注ぎながらゆっくりと答えた。


「レッスン1いくで。」


突然の言葉に芽衣は少し戸惑いながらも、黙ってうなずいた。


「旅行の方面を結局どこにすればいいか分からんようになることは意外とよくあんねん。興味ある国をワ~って喋り倒して、最後は何もまとまらずにまた今後・・・ってな。ほら、さっきのメイちゃんみたくな。」


芽衣は返す言葉もなかった。それがちょっと悔しくて言い返した。


「だからそうならないようにする方法を聞いてるの。」


するとオーナーは言った。


「まずは自分達のハネムーン旅行のためのキャパを整理するこっちゃ。」


オーナーはアイスコーヒーを一口飲んでから答えた。


「キャパ?」


少し困惑した芽衣の表情を見てオーナーは続けた。


「キャパシティーや。どういえばええかな・・・、旅行のために費やすことのできる許容範囲っちゅうところかな。」


「許容範囲?」


「せや。ハネムーンっていうてもそのためにいくらでもお金も時間もかけれるわけやないやろ?そしたら、仕事とか生活環境とか考えたら自然と旅行のために使える金と時間の許容範囲が出てくるやん?まずはこれをしっかり整理することやな。」


ちょっとクロウト的な秘密の方法なんかを期待していた芽衣は、意外なほど当たり前の答えにやや拍子抜けしてしまった。


「そんな当たり前のこと?」


芽衣の言葉に、オーナーはストローをくわえたまま上目使いでうなずき、それからこう続けた。


「これがなかなか出来へんねん。びっくりするくらい。 みんなハネムーンっていうロマンティックな言葉の魔法にかかって、自分らの足元も見んと豪華な旅行に申し込むんや。そして後になって何でこんなにハネムーンにお金をかけたんや?って首ひねってんねん。」


オーナーの言葉を聞きながらも、芽衣はまだどこか信じられなかった。


「そんな風になるのかな~。私たちも・・。」


芽衣はつぶやいた。


「ちょっと気をつけたほうがええかもなぁ。例えばな、はじめにハネムーンの相談してて一人あたり30万円の予算でツアーを考えてるとするやろ?それでも全然問題ない内容のツアーやで。でもそのパンフレットのとなりのページにごっついロマンティックで豪華なホテルの写真があるとするやろ?そしてそのツアーが35万円やとしたら、結構な数のハネムーン旅行者がそっちに変えてまうねん。たった5万円って思うみたいやけど二人で行くんやから10万円の予算アップやで?10万円あったらウチの自家製ブレンド何杯飲めるっちゅう話やで、ホンマに。」


「そっか・・・ハネムーンだと一人の予算アップは結局その2倍になるもんね。」


「そうなんや。でもな、そんな当たり前のことがあまり気にならんようになってしまってるんや。オレ思うんやけどな、その大きな原因は結婚式にあるわ。」


「結婚式に?なんで?」


芽衣はその意味が分からずに聞いた。


「結婚式ってな、たぶんメイちゃんもそうやろけど、ごっついお金かかるやん?単位が普段の生活にかかる費用とは2ケタぐらいちゃうやん?そうすると、なんやかんや色んなオプション料金の追加で元々200万円が220万円になったりしても、『でもまあしゃーないよなぁ』なんて言いながらそんなこと繰り返してるわけや。つまり、元の費用がデカ過ぎて5万円なんて5千円くらいに感じてしまうんやないかな。要するに金銭感覚のリミッター外れてもうてん。せやからハネムーン旅行の時にもその感覚のまま決めて10万円なんて大したことないように思ってしまうって、オレ思うわ。」


芽衣は自分の挙式費用が初めの基本プランにどんどん色んなオプションが追加し、結局50万円近くアップしていることを思い出していた。


「なるほどね・・・。それはたぶん、当たってると思う。」


芽衣は少し自分の声が小さくなっていることに気付いた。


「まあ、しゃあないけどな~。ハネムーンやもんなぁ。浮かれて当然かもしれんわ・・・。 オレなんかこないだの定額給付金が振り込まれとっただけで浮かれてパチンコ屋に行ったら3万円やられてもうたし・・・。なんかオレ、ちっちゃいわ・・。ちっちゃすぎるわ・・。」


一人で落ち込むオーナーに、芽衣が言った。


「オーナー、じゃあまずはしっかりと予算と時間、つまり仕事を休める日数を確認すれば、旅行方面が決まってくるっていうことなのね?」


気を取り直したオーナーは、残ったアイスコーヒーを一気に飲み干して言った。


「そのとおりやな。メイチャン、今日はもう遅いし、彼氏さんとそのへん相談してからまた来週末にでも来たらどうや?その時に続きをまた話したるわ。」


オーナーはそう言って時計の針を中指で叩いてみせた。


「そうね。ちょっと彼にも確認してまた週末に来ます。」


その言葉に安心したオーナーはそそくさと自分も店を出る準備を始め出した。


「今からどこか行くんですか?」


芽衣が聞くと、オーナーは答えた。


「今日の朝な、ズボンのポケットからナント1万円出てきてん。すごいやろ?めっちゃうれしかったわ~。せやから今からちょっとパチンコ屋行ってくるわ。」


浮かれるオーナーに言葉を返す気にもならなかった芽衣は溜息とともに無言で席を立った。



次回、LESSON 1: 旅行方面の決め方② につづく。



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「オーナー、私、11月に結婚するんです。」



突然の一言に、オーナーは注ぎかけていたコーヒーを思わずこぼしそうになった。



「それは・・・おめでとさん。あまりに突然でちょっとビックリしてもうたわ。」



昼さがりの午後、神戸の港を見下ろす高台にあるカフェ「Le Cafe Voyage」がその小さな店をオープンしたのは去年11月。

百貨店に勤める大野芽衣が毎週末のようにこのカフェに足を運ぶようになったきっかけは、会社からの帰り道の途中に出来たこの店が大好きな曲のタイトルと同じ名前だったという簡単な理由からだった。



10人も入ればいっぱいになる小さな店内は落ち着いたモダンな雰囲気で、テーブルや椅子にはオーナーのこだわりが感じられた。そして不釣り合いなほど大きな窓の外には、おだやかな神戸港の景色を眺めることができ、その居心地のよさに興味本位だった芽衣もいつの間にか週末になるとこのカフェに足を運ぶようになっていた。



「メイちゃんが結婚かぁ・・。で、たまに一緒に来る彼?相手は」



カフェに来るようになってしばらくしてから、芽衣が時折一緒に連れてくる男性のことをオーナーは覚えていた。



「うん、そう。覚えてくれてたんだね。彼のこと、どう思う?」



「いや・・ええんちゃうかなぁ。」 慌ててコーヒーがこぼれていないかを確かめるオーナーの言葉は上の空だった。



「もう、オーナー適当に応えてるでしょー。せっかくいつもお世話になってるから一番最初に教えてあげたのに。」




芽衣がこの店に通うようになったもう一つの理由が、このオーナーとの出会いだった。

少し人見知りする芽衣のことを知ってか、オーナーは最初、芽衣との間に必要以上のコミュニケーションを図ろうとはしなかった。

そんなある日、仕事で大きなミスをして落ち込んだ表情でコーヒーを飲んでいた芽衣に、突然白い皿が差し出された。その一見何なのか分からない食べ物に芽衣が戸惑っていると、



「ドライトマトのオリーブオイル漬けや。漬けてみたんやけどどう?イケてる?」



とオーナーは芽衣の落ち込んだ様子など全くきにすることなく、まるで家族にでも話しているかのように自然に芽衣に言った。



一瞬驚いた芽衣はどうしてよいか分からず、とりあえず一つを口に運んでみた。



「あ・・・おいしい。」



その濃厚な旨みに思わず笑顔になった芽衣に、



「せやろ?せやろ?やっぱオリーブオイルやわ。このシチリア産やりよるわぁ~。」



と独り言のようにまくし立てながらオーナーはカウンターに戻っていった。



ドライトマトのオリーブオイル漬けは当然ながらコーヒーには全く合わなかったが、オーナーのぶっきらぼうな優しさを知った芽衣は、以前にも増してカフェへ足を運ぶ回数が増え、いつの間にか自分からオーナーにいろんな話をするようになっていた。



「でもよかったなぁ、メイちゃん結婚できて。うれしいな~。なんかオレ、親父みたいな気分やわ。」


「オーナー、ありがとう。本当に。」


いつもと違い真面目な表情で言う芽衣に、柄にもなく何故か恥ずかしい気持ちになったオーナーは意味もなくコーヒーカップを拭くような仕草をしてみた。


「せやけど、これから大変なんちゃうん?いろいろ準備が。」 オーナーが聞いた。


「うん・・そうなの。あたりまえだけど初めてのことだから分からないことが多すぎて。でも、時間はゆっくりまだまだあるし、ウエディングプランナーの担当の人が丁寧に教えてくれるから大丈夫。」


「そら安心やな。それなら結婚式はうまいこと行くに間違いないわ。おぉっ!そうや、引き出物にウチのコーヒー豆を配ったらどうや?”挽き”出ものだけに!! どやコレ、参った?」


しょうもないオヤジギャグに苦笑いを返しながら、芽衣は続けて言った。


「でもね、オーナー。ひとつそれよりも気にしていることがあって。」


「何なん?」 オーナーは予想外の手厳しい反応に一瞬うろたえながら応えた。


「ハネムーン。どうしようかと思ってて。彼とも話はするんだけど、お互いに旅行はすごく楽しみにしているんだけど、結局いつも話がまとまらなくて・・・。」



オーナーはコーヒーカップを丁寧に拭きながら、少しだけ間を置いたあと言った。


「そうかぁ、なかなか一緒の国に行きたいと思うことは珍しいかもしれへんな~。旅行会社とか相談に行ってみたん?」


「うん、一度行ってみたんだけど、結局二人の行きたい国がまとまっていないから、『方面が決まったらまた来てください』って言われちゃって・・・。」


「なるほどなぁ・・。」


芽衣はオーナーの表情がいつもと少し違うような気がしたが、その訳は聞かなかった。


「でもあれやろ、街中のパンフレットとか見てたら結構いろんなツアーがあるやろ?」


オーナーの言葉に、芽衣はコーヒーをスプーンでかき混ぜながら答えた。


「もちろん見たよ。でもね、自分達の好みに合うようなツアーがなくて・・・。やっぱり100%ピッタリ気に入るツアーなんてないのかな・・。」


するとオーナーはすこし微笑みを浮かべながらこう言った。


「メイちゃん、希望通りのツアーがないんやったら自分で作ってまえばええやん。」


予想もしないオーナーの言葉に芽衣は少し戸惑いながら言った。


「旅行を・・・、作る?自分で?」


「そう、自分でつくるんや。ほら、東急ハンズとか行ったら書いてるやろ?"D I Y"って。あれやがな。Do It Yourself 、つまり『自分で作る』っちゅうことやな。それと一緒や。ウチの勘太郎の犬小屋は作れて、旅行を自分で作れんわけないやろ?」


オーナーは帰ったお客のコーヒーカップを淡々と片付けながら答えた。どうやら勘太郎とはオーナーの飼っている犬のことのようだ。


「それってつまり、旅行内容を自分達の好きなようにゼロから作り上げるってことですか?」


芽衣がそう聞くと、オーナーは片付け途中のコーヒーカップからスプーンをつかみ、それで芽衣を指さすようにして言った。


「ビンゴや。」


ますます困惑した芽衣は、


「旅行は犬小屋と違ってモノじゃないから、自分で作るって言ってもイメージが湧かないな・・。」


と言った。

オーナーはコーヒーカップを洗いながら続ける。


「街中のパンフレットのツアー、あれだけごっつい色んなツアーあってもなかなか自分達の希望通りのものって見つかれへんやろ?でもみんな旅行はその中から自分達の希望に一番合った、・・・ちゃうな、一番希望に近いツアーを選らばんとしゃあないって思ってんねん。でもそれはあくまで既成のパッケージツアーであって、自分達にとって100%完璧なツアーであることはほとんどないわけやな。」


「うん、そう。だからこうして悩んでるの。」


芽衣はコーヒーを口に運びながら応える。


「やったら、旅行の行程をゼロから好きなように組み立てたらええねん。つまり、オーダーメイドっちゅうヤツやな。」


その少し早目の口調や外見からは意外なほど、オーナーはコーヒーカップを丁寧に洗いながら続けた。


「今、メイちゃん座ってる椅子あるやろ?それもオーダーメイドやで。この店の雰囲気に合うように、このカウンターに丁度合う高さになるように作ってもらったんや。テーマはズバリ、『チョイ悪モダン』や。どやコレ、参った?」


「オーダーメイドの旅行かぁ・・・なんか楽しそう。」


オーナーの言葉を完全に無視しながら、芽衣は”オーダーメイドのハネムーン”という言葉に何かワクワクするものを感じていた。


「人間の価値観なんて人それぞれやろ?それに完璧に当てはまる既存のパッケージツアーなんて無理やで。本当に自分に合うものは、自分で作り出すしかないねん。まあ、人生と一緒やな・・・。」


”オーダーメイドのハネムーン”という言葉にいろんな想像をしながら上の空で話を聞いていた芽衣を見て、オーナーは何を勘違いしたのか、


「あ・・、今オレ、深いこと言ってもうたわ・・・。ちょっと『人生喫茶店』になっとったな、この店。メイちゃんもそのうち分かるからあまり深く考えんでもええで。」


と言い、満足そうな表情でまたカップソーサーを洗いだした。



我に帰った芽衣は、ふと疑問に思いオーナーに聞いてみた。


「それにしても何でそんなこと詳しいの?毎日ここで働いてていつも旅行に行ってるわけじゃないだろうし・・・」


芽衣の質問に、洗い終わったコーヒーカップを拭きながらオーナーは


「なんでやろなぁ~。」


と答えた。


はぐらかすような受け答えに、芽衣は


「オーナー、もしかしてこのカフェやる前は旅行会社に勤めてたりしてね。」


と冗談のつもりで言ってみたが、オーナーはちょうど吹き終わったコーヒースプーンでまた芽衣を指さしながらこう答えた。


「またビンゴや。」



次回、LESSON 1: 旅行方面の決め方① につづく。



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