『イニシエーション・ラブ』/乾くるみ | こだわりのつっこみ

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 「私、今日のことは一生忘れないと思う。・・・・・・初めての相手がたっくんで、本当に良かったと思う」
 「初めての相手・・・・・・だけ?」と聞くと、彼女は微笑んで顔を左右に振った。
 「ううん。二度目の相手もたっくん、三度目の相手もたっくん。これからずっと、死ぬまで相手はたっくん一人」
(p114より)

 
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今回は乾くるみさんの作品、イニシエーション・ラブです。

裏表紙に「必ず二度読みたくなる」と絶賛されたミステリーと書かれている通り、かなり読後感はぞぞっ汗とするものでした。

あらすじです。

奥手な大学生の
木夕樹は、人数合わせのために参加した合コンで、成岡繭子という歯科衛生士と知り合い、恋に落ちます。
繭子の方も、夕樹が気になったのか、何度か合コンのメンバーでの遊びを通じて徐々に仲が良くなっていきます。
繭子は夕樹の「夕」の字がカタカナの「タ」に似ているからということで、彼をたっくんと呼び、たっくんは繭子のことをマユと呼ぶ。
さらに共通の趣味が読書だったので本を貸し借りしたりと2人の仲は接近。

一人暮らしをしているマユの寂しさを埋めていくように、たっくんはマユの中で大きな存在となり、やがて2人は付き合うことになるのでした。

ここまでが前半です。

では以下はネタバレ含むので、いやな方は見ないで下さい。







イニシエーション・ラブ (文春文庫)/乾 くるみ
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~2回目 2011.3.30~

さて、後半です。

社会人となったたっくんは、会社の異動命令により、マユとは遠距離恋愛になってしまいます。
もちろん最初はたっくんは無理をしてでもマユと会う時間をつくり、お互いの関係は良好でしたが、徐々に雲行きが怪しくなっていきます。

もちろん、距離の関係もありますが、他の原因として、石丸美弥子の存在が。
新入社員として入社していることもあり、同じく異動で不慣れなたっくんと意気投合。
さらにかなりの美貌の持ち主。
そんな美弥子はたっくんに告白。さらに、マユという彼女がいても構わないという態度。
マユのことが気になりつつも、徐々に美弥子の存在が大きくなり、とうとうたっくんは美弥子と一夜をともにしてしまいます。

それ以降、ずぶずぶとその関係は続き、互いを名前で呼ぶような仲にまで発展。
が、マユとの仲もなかなか切れずにいるたっくん。
しかし、その結末はあまりにもあっけないものでした。
マユの家にいたたっくんが、思わず「美弥子」と間違えて呼んでしまったのです。

マユとの関係は終わり、たっくんは美弥子と正式に付き合うことになったのでした。


さて、あらすじはここまでです。

ここまでだと、あまりにも普通の恋愛小説、マユがあまりにも可哀想だと思われるでしょう。
しかし、この結末はあまりにも恐ろしい。

実は、
前半のたっくんと、後半のたっくんは、別人物だということです。

前半のたっくんは、鈴木夕樹。先に触れたように「夕」が「タ」に見えるのでたっくん。
後半のたっくんは、鈴木辰也。「たつや」なのでたっくん。
この後半のたっくんが辰也という名前であるということは、最後の2行目で明らかになります。
「あれ、今までの何だったの!?」という感じで脳が揺れました。
確かに前半のたっくんと後半のたっくんは性格が違うし、よく考えてみれば就職先などが違うのですがね。。。

細かい時系列は、まとめられているサイトが他にもあるので省略しますが、簡単にいうと、

①後半のたっくんとラブラブ。
②後半のたっくんが異動、遠距離に。
③しばらくしてマユと前半のたっくんが知り合う。
④2人のたっくんと同時進行。
⑤後半のたっくんとの別れ、前半のたっくんとお付き合い開始。

となります。

そう。
何よりもマユが恐いガーンビックリマーク

冒頭で紹介した、引用はその恐ろしさをより引き出しています。
これは、前半のたっくんとの初体験後のピロートークですが、
二度目も三度目もたっくんというところが、確かにうそはついてはいないかもしれないけれど、一人のたっくんを指していないことが暗に示されているように感じます。
もしかしたら鈴木辰也の前にも別のたっくんがおり、さらに鈴木夕樹の後(もしくは同時?)にも別のたっくんがいるかもしれないということまで広げられそうな恐ろしい言葉。

それは、後半のたっくんとの付き合っている最中に、マユが妊娠をする場面でも感じさせます。
たっくんは避妊をかかさなかったために、その妊娠に疑問を持っています。
前半のたっくんともその時は関係を結んでいなかったので、「相手はだれ?」という謎が読者にも残ったままになっているのです。

また、この小説には国鉄→JRの移り変わりの時期や、「男女7人~」などを通じて時間的なトリックを用いており、なかなか整理して読むと面白いかもしれません。
そして、各章のタイトルが、内容に合わせて昭和に流行したヒットソングを使用しているところも面白いです。

ただ、注文をつけるとすれば、背表紙のあらすじ
「最後から二行目(絶対に先に読まないで!)」とは書かない方が良かったのではないか、と思います。
ダチョウ倶楽部の「押すなよ、絶対に押すなよ」のごとく、見てしまいたいという気持ちに駆られてしまうからです。
というか、そもそも最後から二行目を読んだ所で、本文を読んでいなければトリックは分かりませんしねむっ



総合評価:★★★
読みやすさ:★★★★
キャラ:★★★
読み返したい度: