オジキが 亡くなった。
まあ、拙宅の 家系と しては
ご多分に もれず 酒で 身を
持ち くずして しまった
ひとで、ちっちゃい ころの
記憶を たどると ぼんやり
脳裏に うかんで くるのが
当時、地元 とは ちがう 町に
住んでいた 自分たち 家族の
とこで なぜか いち時期
いっしょに 暮らしてて、
3、4歳 ぐらい だったかなあ、
ある日 そんな オジキが
つれて きてたと おぼしき
小さい こどもが どうした
理由か 帰って 来ず、迷子
よろしく 近所 さがして
まわって みて いたところ
けっこう つよく 雨
振ってきて、なら どこか
軒先の ある 雨つゆ しのげる
ところに いるはず だって、
ちかくの どぶ川の 橋げたの
ところ のぞいて みたら
びしょびしょに なって
泣いてる その子を みつけて、
へっぽこ さんの 着ていた
上着か なんかを 傘 がわりに
生意気 にも なにごとか
声 なんか かけながら、
クソガキ ふたり、田畑 通りの
田舎道、雨に ぬれながら
手を つなぎ つなぎ 家に
帰って いくって 情景と、
そのあと オジキが 泣き
ながら 幼い へっぽこ さんに
礼を 言いつつ なん度も
あやまって いた ことと、
そっから また、たぶん
数年後、その 町の 繁華街
って いうか 駅裏 とかの
さびれた 飲み屋 街の
暗い 高架 下の、いまで
いえば 日本 版の スラム街
みたいな うら 寂れた
トタン 造りの ぼろい
安 アパート なんかが
いくつも いくつも 建ちならぶ
なんとも セピア カラーな
その 一室で、日暮れどきに
しても なお 暗い、いまで
こそ 万年 床と わかる、
部屋の まん中に 敷き
っぱなしと なって いた
みた目にも 湿気を 含んで
やたらと 重た そうな
ふるぼけた ひと組の 布団と、
その まわりを わざと
囲って いるの かって
ぐらいに そこいら じゅうに
なん本も 放置 されている、
空いて いるのか 飲みさし
なのかも 判然と しない
日本酒の 酒瓶、それに、
その
臭いね。
一歩 踏み出す ごとに 酒と
おしっこの すえた 臭いとが
かわる がわる ガキンチョ
だった へっぽこ さんの
鼻まで 届いて くる ほどで、
ちょっと 街まで 行こう
とかって なに気に おふくろに
つれて こられた からとは
いえ、なんで この 部屋に、
自分が 入って こなきゃ
なら ないんだ? って、
怒り とかって 気持ちじゃ
なくて、こども ながらに、
えらく 不思議 だった
ことを おぼえてる。
そのあと 部屋へと 帰って
きた オジキと おぼしき
人物と おふくろ とが
なにやら ケンカ している
ような 言い争って いる
ような 光景が ぼんやり
ながらも 記憶に あるけど
そこまで いくと、ふたりの
姿が ただの 真っ黒な
おとなの かたちを した
影絵 みたいに なって
しまって、なんだか よく
わからない。
けど まあ、
この 歳に なって 推察
するに、いち時 地元を
はなれて 暮らして いた
幼き ころの 我が家の
もとに 当時から うちの
オヤジと 気の 合って
いたらしい 母方の オジキが
こどもと ともに 転がり
こんで きて いたんだ
ろうけど、その理由 までは
わから ないけど、いつしか
そんな オヤジの もとをも
蓄電 して 町の 片すみで
ひとりで 暮らして
いた ものを、おそらく
職場 からとか その
アパートの 管理人さん
あたり からとか、まあ、
クレーム つくような 生活
態度 だったが ために、
おなじ 町に 暮らしてる
妹って ことで、親族 代表
みたいな 感じで おふくろが
会いに 行った もの
なのか いさめに 行った
もの なのかって ところ
あたり らしく。
あの 部屋じゃ
当時 すでに、
とても 家族と いっしょに
なんか 暮らして いな
かっただ ろうと 思うん
だけど、
いや、
逆 なのかな?
あれこれ あって、家族と
いっしょに 暮らせ なく
なって いたから こその、
あの部屋 だったり したのかも。
その後 うちの 親も 離婚して
離れたり また いっしょに
暮らして みたり、それでまた、
こん度は 家庭内 別居
みたいに なって そのまま
数年、オヤジが 部屋で
ひとり 孤独死 みたいに
死んで いたりで とても
ひと言 なんかでは
386で自作ギターアンプとかピグノーズアンプの改造とか ~ 日々更新? at the1969 ~
説明も できない ような
家庭 環境へと へっぽこ
さんちも どんどん 変容
しては いくんだ けれど
まあ そこは それ。
そののち アル中認定 され
たのかな? どうやら
オジキは そのまま あっちの
町の 病院 兼 厚生 施設
みたいな ところで 住み込み
って 条件で 働かせて
もらい ながら 日々の
生活 させて もらって
いた らしく、年に 数回、
うちの おふくろに 連絡
とって ふらっと 地元に
足を 運んでは、墓参り
だけ 済ませて おふくろに
いくばく かの カネだけ
わたして 帰って いってた
らしいんだ。
いやあ でも、
そんな 生活が
数十年 とかには
なるんじゃ ないかなあ。
で、基本 内緒で ずっと
カネ もらってた おふくろが
それを 知られ たく
ないあまり、身内は もちろん
自分ら とも なるべく
会わせたく なかった ってな
理由も あって、その あいだも
へっぽこ さん、オジキとは
ずっと すれ違い って
感じ だったん だけど
いち応 ずっと 家にいた
ヨメさん なんかは なん度か
ぐらいは ふつうに 会って、
応対 程度に 気軽に 話も
したり しては いた
らしいん だけど、たぶん
あの カネって、自分ら
夫婦にも とか、うちの
Aさん Bさん たちにも
小遣い わたして やって
くれって、あずけて
いった分 なんかも、含まれ
てたと 思うんだ。
全部、
打って
呑んじゃった
らしいん だけどね、
うちの
ばばあ。
あたらしい ところでは
かかりつけ だった 医者から
けっこうな 量を 融通
して もらって いた 睡眠
剤を 知ってか 知らずか
酒と いっしょに やたらと
キメて いたり なんかも
していた よう なんだけど。
で、
去年の 暮れ だったか
今年の 最初 だったか
いち応 医療 機関でも
あるし、疫病の 調査 とかで
やたらと くわしい 施設内
検査が はいった ときに
オジキに がんの 兆候
みつかって、うちでは
しっかり した 精密 検査が
できない から おおきい
病院に 一時 転院の
手続き をって その
施設から 連絡が 来て、
姉 夫婦は いま できそこ
ないの うちの ばばあで
手いっぱい だからって
ことで 自分ら 夫婦が
様子見 がてら 急遽 その
町まで 走ったん だけど、
へっぽこ さん、思えば
その ときが、ガキの ころ
以来の、オジキ への
顔見せで。
酒も 断って ひさしい
からか すごく 温和な
表情 してたん だけど、
あれえ、
こんな 顔 してたっけ?
なんて
思っても みたりで。
あの ときと おんなじで
かるく あやまって
いっぱい
すまなんだな、
ありがとよう
って
言ってたなあ。
住み込みって いっても 施設の
給料 だから そんなに カネ
あるわけ ないのに そこの
病院代 なんかも ちゃんと
自分で 支払い しててねえ。
打って 呑んで、
医者代 どころか 自分の
葬式 費用も 一切 のこして
いなかった どこぞの ばばあと
くらべたら
よほど 身ぎれいで。
その後、いち応 今後の
オジキの 対応 窓口
なんかを 自分に 移して
数か月、どうだろ、半月 ほど
まえに なるかな、ようやく
戻れて いた その 施設で
クラスター 発生、オジキも
陽性 では あった らしいん
だけど すこぶる 元気で、
逆に 隔離 されて 部屋
帰れない からって ぷりぷり
怒って いた ほどで、病院
側でも とくに 気に
かけなきゃ ならない 様子も
ない ままに 隔離 期間の
2週間も 無事 すぎて、
自分 たちでも ああ 悪化
までは しな かったんだ
なって ひと息 ついて
さらに 10日 ほどが
経ったころ、
容体 急変の 知らせが 来て。
わりと 早かったなあ。
なんか 内規で きまりが
あって、いま 30分 しか
延命 措置とか できないん
だって。
後遺症。
お昼ごはん 食べて いつもの
とおり うつらうつら お昼寝
してたら
その まんま。
いち応 死因は 心筋 梗塞。
おそらく クラスター 罹患で
血栓 飛んだ ものだと
思うって。
家主が ちんばで その日の
生活 だけで 精 一杯な
へっぽこ さんち、そう
なると まず おカネに
こまって しまう とこなん
だけど、オジキ、いち応
自分に なんか あった
ときの ためにって こと
だったのか、手もとに
10万 ほどの 現金 用意
して くれて いたから
それで のこりの 病院代
清算 して 残金と なった
数万円で どうにか まかなえ
そうな 安い 焼き場屋さん
その日の うちに さがして
手配して
連絡 したけど
身内
だれも
来なくてねえ。
翌日 焼骨。
ヨメさんと ふたりで
骨 ひらって。
みんな それぞれ 似たような
年寄り かかえて いるから
ただで さえ 身重な うえに、
よその 町での 葬儀って
なると
なかなかねえ。
基本 住民票を 登録
している 市区町村で
焼き場の 手続き しなきゃ
ならない らしくって。
で まあ、
オヤジの 件も あっての
ことか へっぽこ さんちは
姉 夫婦が ばばあの 面倒
みてくれ てるから 身軽
では あるし、それでも、
ガキの ころ、世話に
なって いたで あろう
恩義 なんかも へっぽこ
さん、いち応 感じて
いたりも するし。
経過は どうでも
たぶん
生まれた ときは
みんなで もって
あたらしい 身内の 誕生を
祝福 して くれてた ろうし。
あのころ 以来、オジキの
家族は 一切 音信 不通って
聞いて いるので 連絡
さきも わから ないしで
今回の 件も まったく
知らせ ては いない。
ってか、
どうにも 知らせ ようも
ないんでねえ。
けどねえ。
病院で 管理 して
くれてた オジキの 通帳に
まだ 50 万ほど おカネ
入ってて、カードが ない
からって いうんで 直接
銀行 届けて 窓口で
対応 して もらうしか
なくってさあ。
もう 案の定、
骨肉 発生。
みんな 年寄り 抱えてて
葬式待ち してるから、50も
あれば 助かるじゃ ない?
もちろん、幾十 数年 ほどが
ところは 疎遠で あった
へっぽこ さん、最後と
いえど オジキの ために
転院 とか 葬儀の 手くばり
できたって だけで 満足
だし、そんな オジキの
貯めた カネ、たのまれ
たって 受け取って いい
ような 意味合いの もの
なんかじゃ ないわけ だしさ。
骨肉 なんかに かかずら
かる気も
さらさら ないし。
ただねえ。
銀行の 貯金って 名義人
死んで 「遺産」 って
なると もう その 時点で
相続対象 なんだ そうで、
手続き 自体、筆頭 相続人と
なる 当人と しか、銀行と
しても 対応 する ことが
できないん だって。
説明 受けると
その 相続 筆頭人、
なんと、
ガキンチョ 当時の へっぽこ
さんが 雨の なか
ふるえる 手を ひいて
帰った あの
迷子ちゃん。
で、これが また、
相続 拒否 しない 限りは
どんな 理由が あろうとも
相続 権利の 筆頭は まず
実の こども なんだって。
やあれ こまった。
どやって 探し出しゃ
いいんだ?
そりゃあ へっぽこ さん達
なんかより よっぽど 思いは
あるだ ろうけど、数十年、
一切 接触 ないって ことは
うらみの 方が 強い かも
しれないじゃ ない?
市役所の 担当 さんは
わりと そこで ケンカに
なったり するんで すって
言ってた。
相続拒否 するに しても
しないに しても 戸籍
だとか 裁判所 だとかで
手続き 煩雑 だからって。
けど まあ ちょっと
戸籍 だけでも たどって
あの子を 探し 出せ ないかと
現在 思案中。
とりあえず、何年 何十年
かかっても、せめて 無事に
逝ったこと ぐらいは
伝えて あげたいし。
お骨は その 焼き場屋
さんの 納骨 堂と、
だれにも 言わな かった
だけで、
オジキ、
じつは 生まれ 育った
この 地元に ほんとは
ずっと 帰りた かったの
かもって、
ファスト フレットの 缶々に
灰だけ すこし
もらって きました。
なにしろ 遺骨って いっても
焼きたて だから ガラスの
瓶 とかだと 熱さで
割れるって 話だし、だからと
いって 陶器の 小坪を
売ってる ような お店
なんかに こころ 当たりも
ありゃ しないし、その点
この ビニール 容器に
なるまえの ファスト フレットの
缶々 ならば 熱には
強いし、へっぽこ さん、
買うたび ふるい 缶に
中身 入れかえて つかって
きたから 空き缶 自体は
新品 だし
いくつか 数も たまって
きてたしで。
宗教 的には ただただ
自然 界に 感謝する
古代の 神道 みたいな
ものを 勝手に 信望
している へっぽこ さん、
仏壇 なんかは 一切
家に 置いて ないけど
オヤジと 猫 ばーちゃんへの
お詫びと 感謝 みたいな
気持ちから ふたりの
線香 台だけ 用意して
朝晩 薫じて いたり
するんだ けれど、ファスト
フレット、いったん オヤジの
とこに 間借り して。
死亡診断書 みたら オジキも
86歳で、まあ、みた目の
とおり 仕方 ないよな
ってな 思いも あるから
とくに 死因に 不平は
ない けれど、もすこし
まっとうな 生き方 させて
あげられ なかったのか
なって いうのが まあ、
正直な 気持ちで。
うん、じつは
こういう ことが
いま 実際 日本中で
起こって るんだよね。
明日は
わが身。
いや
そうか、
せっかく なんだし、
ファスト フレット
迷惑じゃ なければ
あれも あの子に
おまかせ して みようかね……?