●2016年7月中旬

待ちに待ったような、来てほしくなかったような、市民病院の受診日。

「また悪い結果を突き付けられるのでは」という恐怖心と、「早く自分の病気を正確に知って、次のステップに進みたい」という探究心のようなものがせめぎあっていた。

この日は母親に同行してもらい、病院まで車で20分の距離を運転してもらった。

その間母と何を話していたかはあまり覚えていない。

親達には癌の可能性を伝えてはいたが、「そんなわけないじゃん良性でしょ」という反応で、深刻な空気になることは一切なかった。

なので私も助手席でポケモンGOをしながら、「まあ何とかなるでしょ」と思考停止することにした。

市民病院に着き、産婦人科で受付を済ませると、いよいよ現実味が帯びてきてそわそわし始めた。

特に中待合室で待っている時間は何とも言えない嫌なもので、これはこの先永遠に慣れる気がしない。

十数分の間を耐え、ほぼ予約時間通りに呼ばれた。

担当医が男性であることはすでにわかっていたので、何となく抵抗感を覚えながら診察室のドアを開けた。

まだ30代くらいの、若い医師だった。

お互いに軽く挨拶をしたときの感触で、少し緊張感は和らいだ。

物腰が柔らかで、優しそうな先生だった。よかった……。

受診に至るまでの経緯を、軽く確認していく。

下腹部の張りや微熱、吐き気の症状から「何故婦人科にかかったのか」というようなことを問われ、「ネットで調べたら、卵巣腫瘍の症状が当てはまっていたので」と答えた。

後になってこれは失敗だったかもしれないと思うが、その理由はまた別の記事にでも。

短い問診の後、早速経腹エコーをすることに。

私の腹を見た先生（後の執刀医＆主治医）は、「あー……本当……結構……（大きい）」みたいなことを呟いた。なんかすみませんという気分になった (´・ω・`)

今度はエコーの見方を勉強してきたので、自己診断を確定すべく画面をガン見した。

やはり大きな黒い円が映し出されている。

……あれ？　綺麗な円形だ。この間のは何かの間違いだったのか？　と、希望が湧いたのも束の間。

先生が軽くプローブを押した瞬間、円の端にもやもやしたものが現れた。

同時にエコー画像が止まり、充実部に線が引かれていく。

その様子を見ながら、一瞬頭が真っ白になった。

（またしてもうろ覚えですが……）

…………え？　なんか……充実部でかくない……？

画面に表示された数値を見るに、充実部はどうやら7cm×4cmほどあるらしい。

ヤバイヨヤバイヨ。頭の中は出川状態だった。

この日まである程度落ち着いていられたのは、前回のエコー像では充実部分が比較的小さく映っていたためでもあったように思う。

完全に素人考えなのだが、充実部の大きさ＝進行度だと思っていた私は、急に死が間近に迫ったように感じられ、

「これ……ヤバいやつですよね……？」

そう聞かずにはいられなかった。

先生はあくまで柔らかい物腰のまま、

「すぐに死ぬとか、そういうものではないです。そんなに悲観的になるものではありません」

と言って宥めてくれたものの、その優しさがむしろ病状の悪さを隠すためのものであるように思え（完全に疑心暗鬼でしたｗ）、いっそ事実を突き付けてくれ！　という思いで口を開いた。

「でも、私、ネットでいろいろ調べてきちゃったんですけど、こういうのは悪いものだって……」

「まあ確かにこういうモコモコしたもので、悪性のものはあるけど……」

やっぱり……L(・o・)」ｵｰﾏｲｶﾞ

「でも卵巣腫瘍には良性と悪性の他に境界悪性というものもあります。これはどちらかというと境界悪性かなぁと思います」

嘘だ……だってネットで見た境界悪性のエコー画像は、もっと壁在結節が小さいものだったもん……（※）と、思いながらも口には出さず、とぼとぼと診察台を下りて椅子に座った。

卵巣腫瘍は手術して取ってみてからでないと良悪の診断を下せないらしい。

まずは手術日を押さえることになり、一か月後にその日が決まった。早い展開になかなか気持ちが追い付かなかった。

それから、この後MRI検査と血液検査（腫瘍マーカー含む）をすること、二週間後に結果を説明すること、その日は親も連れてきてほしいことを話され、「その時がいわゆる“告知”ってやつか……」と思いながらひたすら頷くしかなかった。

他に「あまりネット等は見てはいけません」と諭されたが、普段からネット中毒の私には無理な話で、すでに右手が疼いていた。

「……良性の可能性もありますから」

診察の終わり際、先生が申し訳程度に呟いた言葉に、気持ちが軽くなる……ことはなかった。

（※後で調べたところ、充実部が大きくても境界悪性のものは見つかりました。）

⑥市民病院初診