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ウーゴズ・ブログ|kumaのブログ(アート編)

美術館向けの展覧会企画に携わってきたKuma氏が語るアートのつれづれ。

ジェームズ・サワビー「イギリス産植物誌」から

ガーデニング大国、ボタニカルアートの本場として知られる英国の植物愛好熱は、大航海時代から脈々と続くものです。18世紀半ばにキューガーデン(王立植物園)が設立されるとそれは最高潮に達しました。世界中から植物を集め品種改良などをおこなったキューガーデンはイギリス植民地政策の中で重要な役割をになったのです。

18世紀~19世紀前半の写真の無かった時代、一流の画家、彫版師、刷師たちの協業で、様々な植物を細密に記録した植物図譜が作られました。ボタニカルアートの始まりです。銅版画に手彩色仕上げにより精密に美しく描かれた図譜は、現在では美術品としてコレクターの蒐集の対象となり、インテリアとしても取り入れられて、大切にされ続けています。

気に入った1点を身近においてじっくり鑑賞するのも良し、ヨーロッパのインテリア雑誌などでよく見かけるように、複数の植物画を2、3段掛けにするのも雰囲気があって楽しいものです。

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ここでご紹介する作品は、当時のイギリスの著名な植物画家のひとり、ジェームズ・サワビーによる『イギリス産植物誌』の中からの一枚です。Thicket Roseという一重のバラですが、近年のカラー印刷とはひと味もふた味も違うアンティークな雰囲気が、お部屋のインテリアに上品な落ち着きを加えてくれること間違いなしです。ローズヒップも描かれ、ボタニカルアートの典型となっています。

額縁マットのマーブル模様の装飾もクラシカルな雰囲気を醸し出しています。ボタニカルアート入門に最適な作品です。
フローラの神殿」には3種類のパッションフラワーの図が含まれている。全部で29の植物画のうち、3図までがパッションフラワーというのはいかにも多い。なぜだろう?彼はよほどパッションフラワーに惹かれていたのだろうか・・・

実は、当初ソーントンは「フローラの神殿」を約100図の植物画で構成するつもりでいたのだが、あまりにも懲りすぎたがために財政難に陥り、29図までしか刊行できなかった。この無計画、計算性のなさ。目先のことに注力しすぎる性格。ソーントンの血液型はきっとB型だと思う。

話が横道にそれたが、仮に100図だったとしても3図というのは多すぎる。ソーントンはパッションフラワーの劇的な名の由来(キリスト受難の花)、毒々しいまでに特徴的な花の色と形に魅せられ、惑わされたに違いない。「ピクチャレスクからゴシックにおよぶ美学を植物学のイコンにもちこんだ」(荒俣宏、アラマタ図像館4「庭園」164頁)ソーントンにとって、パッションフラワーたちはいかにも蠱惑的な「フローラの神殿」の雰囲気づくりに欠かせない重要な配役だったのだろう。。


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さて、本図のパッションフラワーは英名ウィングド・パッション・フラワー(Winged Passion Flower)という。ウィングが「翼」だから、ウィングドは「翼のある」ということになるが・・・どこに翼があるんだろう?そう思ってよくよくこの絵を眺めてみたがどうにもわからない。調べて見たら、本図ではよくわからないが、「翼」(よく)とは、茎の端にうすくせり出したつばさのようなもののことらしい。ムササビが飛ぼうと手を広げた時、手と後ろ足をつなぐ膜のようなものが見えるが、まああんなものなんだろう。もちろんもっと細いものだが・・・まあいいや。この絵を絵画として鑑賞するには関係ないことだ。

ところで、本図でもっとも印象的なのは花弁の赤だ。血の色を連想させるほどに鮮烈な赤だ。そして、その赤をさらに際立たせるのが大きな特徴的な葉の濃い緑色。補色効果がすばらしい!

そして、編みかけの毛糸のセータの袖口のような、あるいは派手な色に染め上げられたドレッドヘアーのような部分(副花冠)の青と白のまだら縞模様がこれまた鮮やか。奥の方からちらっと頭を出している雄しべの黄色がここでも補色効果で効いている。

この絵でソーントンが表現したかったことを一言で言えば、それはきっと「受難の花」にあらわれた鮮やかなまでのキリストの血の色だったのだろう。






現在南青山のウーゴズ・ワークショップ&アルケミーで開催中の展覧会。《1800年頃のイギリス植物画展 ~ソーントン・カーティス・サワビーの活躍した時代》の会期を5月31日(木)まで延長します。延長会期中は各日曜日および5月17日(木)を休廊とさせていただきます。なお、ご要望により、5月18日と25日の金曜日は午後8時まで開廊いたします。これまでスケジュールの合わなかった方、どうぞお越し下さい。

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