「 嵐の予感 」⑩


たまたまそこにあった 真四角の木材の角で、全体重を支えたらしい。

いつもは無いのに。…

ちゃんと しまっておけば良かった。…

おびただしい血は ごめんだ。6年前の妻を 思い出す。即死だった。

病院へ運ぼうかと思ったが、救急車を呼んだ。

彼女を抱いたまま、胸の鼓動だけが 大きく高鳴った。「 このまま、死なないでくれ!」

自分の無力さに 憤りを感じた。

「 俺が愛する女性は、何故 消える?」


「 痛い。… 」微かに 声が聞こえた。

「 由美、俺のことが 解るか?」

彼女の目は ぼんやりしていたが、コクンと頷いた。

力が抜けそうな程、安心した。


以前にも お風呂場で 倒れていた事があるらしい。

しかも、後ろ向きに。

その時は 何事も無く、自分で気付いたとか。…

今日は、俺が居て良かった。

この背中の傷は、どうするんだ?

幸い、縫う程ではなく、外科に通院する事になったが、背中に 大きな傷跡が出来てしまった。

生きてさえいてくれれば、傷跡なんて どうでも良い。

彼女の顔色は、心無しか 青白かったが、唇は ピンクだった。トロンとした瞳。

俺の目と焦点が合うと、微笑んだ。

「 びっくりしたわ。」

「 俺もだよ。痛む?」

「 まぁね。」彼女が 手を差し出した。

力強く握った。 「 痛いわ。」 彼女は 笑った。

「 消えないでくれ。」

「 私は ここに いるわ。」

「 一生、側に 居て欲しい。」

彼女は 優しく微笑んで、俺の頬を 撫でた。

彼女の手の温もりが 嬉しかった。


窓から外を見ると、桜が 満開だった。

暖かい日差しだが、風は 冷たい。

チラホラと 花びらが舞っていた。

桜の花は、パッと咲いて パッと散る。

その内 川面が 花筏でいっぱいになるだろう。


「 桜の花が 満開で 綺麗だよ。」

「 みたいね。」

「 葉桜になっても良いから、今度、一緒に 公園にでも行って ゆっくり観ようよ。」

「 良いわね。毎年、一緒に 観ましょうよ。」

「 そうだね。」

満開の桜と 暖かい太陽が、2人を祝福するかのように、輝いていた。