夏の測量で、熱中症でしょうか、何度か倒れたことがあります。
山地の自然公園の中でしたが、無風で体温も上昇し、水分も不足したのでしょう。
他の作業者に手を引かれ木陰に入ると、私は横たわりました。
上下とも汗に濡れた服は、まるで水に浸かったようです…
暫くすると、大きな黒いアゲハ蝶が2匹、私のズボンに止っているのに気付きました…
よく観ると長い吻を伸ばし、ズボンの汗を吸っているのです…
彼等には、人の汗であれ、果汁の如き有機養分、或いはミネラルの補給源であったのでしょう…
私は思いました。
この自然の中で、人知れず亡くなったら、無数のアゲハ蝶やその他の昆虫が、横たわる私の身体に群がり集まることでしょう…
人は、自然の中では単なる生命の一種類であり、ある意味平等に処されるのだと…
意志を失った後は、ただの「養分」に過ぎないのだと…

(写真はお借りしました)
或る年、河川脇の道路が台風で崩壊し、その崖の形状を水面下まで計測することになりました。
足場が無いので、ロープにぶら下がりながら水面まで降ります。
対岸からは測距儀が、私が構える反射プリズムの位置を計測し、高低、距離関係を記録しているのです。
やがて私は胸まで河に浸かり、計測が終るのを待ちました。
河水は淡い黄土色です…
プリズムは小さいので、身動きせずジッと待つのです。
右手はプリズムを持し、左手ではロープにしがみついていました…
すると、捲れた私の剥き出しの脛を、盛んに突付くものがあるのです…
暫くすると今度は、まるでムカデかゲジゲジが、足を攀じ登って来るかのような感触を覚えました…
でも身動きは出来ません…
水面近くまで登って来ると、漸く正体が判明しました…
それは無数のテナガエビだったのです…
そして脛を突っ付いていたのは、ハヤの仲間の川魚だったようです…
私が、この河水の中に没するなら、日ならずして彼らの餌と成り果てたことでしょう…
河川に限らず、山地の険阻な山道も、私に取っては脅威なのです。
道路…平地では当たり前のインフラですが、それを欠いた自然の中で、生命は極めて不安定なのです…
私は常に不安と無力感を覚えます。
自然の中では「人間の尊厳」など何の力も持たないのではないか、と感じるのです…