これと言って用も無く、何年経っても「通り過ぎるだけの道」というのがあります
県庁所在地に向かう時に通る、郊外の抜け道がありました
それが、そういった「縁の無い道」のひとつだったのです
その道沿いに一軒の雑貨店がありました
いつも気にはなっていながら、何年もそのままに前を通り過ぎるだけでした
気になった理由は、その店の看板なのです
「松平商店」
姓名に興味のある私は通る度に…
「徳川家が出た、あの松平家の流れか?」
「いや…ここら辺りは旧外様領だし…」
と、あれこれ推量を重ねるだけでした
それから何年も経った頃、その近辺の地形調査の依頼があったのです
通い始めて何日目かのことでした
その店のことを、ふと思い出した私は
お茶の時間に、飲み物を買いに行ってみてはどうか、と思い立ちました
そして、その店まで歩いて行ったのです
案内を乞うと、中年の男性が出て来ました
案に相違して、普通の地味なオジサンです
代金を支払いながら、尋ねてみました
「つかぬ事を伺いますが…」
「おたく様は、何か、そのぅ…」
「三河松平家の流れを汲んでいらっしゃるのでしょうか…」
御主人は、私の目を見てニヤリとしました…
「そう、お訊ねの方が多いのですが…」
「実は『松平』と書いて…」
「『マツヒラ』 と訓むのですよ…」
そう種明かしを終ると
御主人は、呵呵と笑いました


