ストコフスキーのストラヴィンスキー《火の鳥》

 

Igor Strawinsky

Игорь Фёдорович Стравинский

L'Oiseau de feu》/《Жар-птица》

”Der Feuervogel” Suite

 

 

 

  今日採り上げるのは、ストラヴィンスキーの《火の鳥》組曲版です。

 

  《火の鳥》は、ロシアの作曲家イーゴリ・ストラヴィンスキーが作曲したロシアの民話に基づく1幕2場のバレエ音樂、及び其れに基づくバレエ作品で、音樂はアンドレイ・リムスキー=コルサコフ(ニコライ・リムスキー=コルサコフの子息)に獻呈されています。

  オリジナルのバレエ音樂と3種類の組曲が有り、オーケストレーションが大幅に異なっている外、組曲版では一部曲名が異なる部分も有ります。

  

  セルゲイ・ディアギレフが1910年のシーズン向けの新作として、此の題材に由るバレエの上演を想い着きます。當初は、ニコライ・チェレプニンが作曲を擔當する事に成っていたものの、不明な理由に由り手を引いてしまいます。『魔法にかけられた王國』作品39(1912年出版)の一部に、此の時にチェレプニンが作曲した音樂が含まれています。繼いで1909年9月にアナトーリ・リャードフに作曲を依頼したもの、此れとて上手くは行かず、リャードフの怠け癖に由って作品が出來上がらなかったと云う逸話が有名な樣ですが、實際にリャードフがディアギレフの依頼を引き受けたという証據は殘ってはいません。ディアギレフは外にグラズーノフや、ソコロフにも依頼した樣なのですが何れも上手くは行かず、1909年の公演で《レ・シルフィード》の編曲を依頼した若手作曲家のストラヴィンスキーに作曲を依頼し、ミハイル・フォーキンにストラヴィンスキーと相談し乍ら臺本を作成するよう指示します。フォーキンは指示通りにストラヴィンスキーと相談しつつ臺本を仕上げ、程無く並行して作曲していたストラヴィンスキーも脱稿したと云います。依頼を受けてから半年餘りでした。

  初演は1910年6月25日にパリ・オペラ座に於いて、ガブリエル・ピエルネの指揮に由り行われています。

 

  物語の簡單な粗筋は以下の通りです:

  

  イワン王子が火の鳥を追って、魔法の國に迷い込みます。
  其處でツァレーヴナ王女に戀をするのですが、彼女は「カスチェイ(不死の魔王)の魔法」由って捕らわれの身と成っていました。

  イワン王子は「火の鳥の羽」を使って、カスチェイの弱点を見つけて退治します。するとカスチェイの魔法が解け、王子と王女が結ばれてエンディングと成ります。

  ※ 尚、詳しい粗筋に關しては、後日バレエ版を採り上げる際に改めて紹介させて頂く事と致します。

 

  組曲版は1911年版、1919年版、1945年版の3種が存在していますが、手頃な管弦樂の編成と規模故に、實演で最も演奏機會の多いのが1919年版で、「魔王カスチェイの兇惡な踊り」での有名なトロンボーンのグリッサンドが、練習番號38では削除され、練習番號39では導入されていると謂うのが特徴である樣です。

 

  此の1919年版の樂曲構成は以下の通りです:

 

  數字は全曲版での該當部分を表わしていますが、曲の長さが異なる部分も有ります。 

  • 1・2 序奏
  • 3 火の鳥の踊り
  • 4 火の鳥のヴァリアシオン
  • 10 王女達のロンド(ホロヴォード)
  • 18 魔王カスチェイの兇惡な踊り
  • 19 子守歌
  • 22 終曲

 「序奏」から「火の鳥のヴァリアシオン」迄は切れ目なく演奏されますが、其れ以降の曲もアタッカで演奏する指揮者が多い樣です。「魔王カスチェイの兇惡な踊り」と「子守歌」の間は、切れ目なく演奏する方法と、「魔王カスチェイの兇惡な踊り」で一旦終止させる方法とがあり、どちらの方法もスコアに印刷されているのですが、一般的には切れ目なく演奏する事例が多い樣です。

 

  今日紹介させて頂くのは、レオポルド・ストコフスキーの指揮するベルリン・フィルハーモニー管弦樂團に由り1957年5月に行われたセッション録音です。

 

  此れはストコフスキーが《ペトルーシュカ》抜粋版と共にBPOを指揮した唯一のステレオ最初期に於ける録音で、古い録音ではあるものの、豔やかで華麗なサウンドの殆ど時代を感じさせぬ音樂と成っています。何はともあれ、オケが物凄く、思わず其のパフォーマンスに壓倒されてしまいます。グリューネヴァルト教會での録音であるだけに、音場が深く、豊かな殘響を伴ったサウンドもプラスに働いていると云えましょう。又、金管の扱い方一つを取って看ても、ストコフスキー獨自の響かせ方が健在で、而も各樂器が明瞭に聽き取れる等、ストコフスキーサウンド其の物に成っていると謂う點に於いて、BPOの對應力の素晴らしさが感じられます。斯くたる古典的な現代曲も樂しく聽かせる術を心得ていると謂うのがストコフスキーの真骨頂である事は確かでありましょう。

 

  演奏メンバーは以下の通りです:

 

  Leopold Stokowski (Dirigent)

     Berliner Philharmonisches Orchester

 

(1957.05)

 

(1957.05)