イッセルシュテットのレーガー《ロマンティックな組曲》

 

Max Reger

《Eine Romantische-Suite》 Op.125

 

 

 

  今日採り上げるのは、マックス・レーガーの《ロマンティックな組曲》作品125です。

 

  此の曲は、ドイツの作曲家マックス・レーガーがヨーゼフ・アイヒェンドルフの詩に基づき、1912年5月から6月に掛けてマイニンゲンで作曲した管弦樂組曲です。

 

  レーガーは彼は1911年から1914年まで同地の宮廷樂團の音楽監督を務めていて、管弦樂曲の殆どが此の時期に作曲されていて、 彼は本作品をフーゴ・グリュータースに獻呈しています。

 

  初演は、1912年10月11日、其のシーズンに行われたロイヤルチャペルでの最初の交響樂コンサートに於いて、エルンスト・フォン・シュッフの指揮に由り行われています。
  因みに、アルノルト・シェーンベルクは、1920年に此の組曲を室内楽用に編曲しています。

 

 

  樂曲は3つの樂章で構成され、2つの緩徐樂章が鮮やかなスケルッツォを形作っています:

 

  1.  Notturno(ノットゥルノ)

 

      2.  Scherzo(スケルッツォ)

 

      3.  Finale (フィナーレ)

 

  此れ等3つの樂章は、ヨーゼフ・フォン・アイヒェンドルフの3つの詩、「夜の魔法」、「妖精」、「鷲」に對應する形と成っていて、レーガーは當初、樂章に詩と同じ名前を附けたいと考えていた樣で、似た樣なタイトル(「月夜」、「エルフェンタンツ」、「ヘリオス」)を考えましたが、最終的には中立的なタイトルを選択したと云います。

  

  今日紹介させて頂くのは、ハンス・シュミット=イッセルシュテットの指揮するハンブルク北ドイツ放送樂團に由り1967年9月に行われたセッション録音です。

 

  イッセルシュテットは、1900年にベルリン東部で200年續いていた舊家であるビール釀造所の息子として生まれたドイツの指揮者で、7歳の頃、實家の営むカフェに訪れた樂團に強い影響を受けてバイオリニストを目指します。音樂に造詣の深かった兩親はバイオリンを買い與え、9歳の時に家族でカール・ムックの指揮するワーグナーの《ローエングリン》をベルリン王立歌劇場で觀覽してより以降次第に音樂に魅せられて行き、中でも、家族コンサートで演奏したモーツァルトのクラリネット協奏曲からは生涯における音樂的な影響を受けたと語っています。

  又、指揮者と成った切っ掛けは、アルトゥール・ニキシュの指揮する振舞とその音樂の創造性に感銘した事が決定的であると語っています。

 

  ナチス・ドイツの敗戰後、1か月も經たない内に英占領軍のジャック・ボーノフ少佐が占領地域の北ドイツに於いてBBC交響樂團を模範にした管弦樂團の設立を模索し、非ナチ黨員であったシュミット=イッセルシュテットに其の任を託します。シュミット=イッセルシュテットは實現に向け、直ちに各地を廻って樂團員を召集しました。樂團に與えられた早急の指名は、ナチスの統制下で壓迫を受けていた作曲家の作品の掘り起こしと復權を行い、亦た放送用の音源コンテンツを提供できる体制を整える事に在った樣です。シュミット=イッセルシュテットは超人的な速さで此れを實現し、1945年8月にはメニューインを招いて第1回の演奏會を實現させ、此の時の演目はメンデルスゾーンのヴァイオリン協奏曲でした。尚、此の時點で北ドイツ放送 (NDR) と西部ドイツ放送 (WDR) とは未だ分割されておらず、1956年まではこの管弦楽団を北西ドイツ放送交響楽団 (Nordwestdeutscher Rundfunk Sinfonieorchester) と稱していました。シュミット=イッセルシュテットの統率の下、管弦樂團は飛躍的な進歩を遂げ、フルトヴェングラーやクナッパーツブッシュ、クレンペラー、シューリヒト等のトップクラスの指揮者を客員に迎えるに至りました。シュミット=イッセルシュテットと北ドイツ放送交響樂團は、1961年に西側の管弦樂團としては初めて當時の蘇聯を訪れ、モスクワとレーニングラード(現在のサンクトペテルブルク)で演奏會を行い、喝采を浴びています。其の他にも手兵たる樂團を率いてフランス・イギリス・北米などでの海外公演を實現させています。

  特に、モーツァルトを敬愛し、自らにとても近しい存在だと述べ、生涯をかけて其の音樂を吸収しようとしたと云います。其の他、ハイドン、ベートーヴェンやブラームス等古典。ロマン派の作品を主なレパートリーとするのみならず、同時代の音樂の紹介と普及にも早くから關心を寄せ、友人でもあったストラヴィンスキーを始め、ヒンデミットやブラッハー等を積極的に採り上げ、ハルトマンやラファエル等の作品を初演し、其の造詣の深い指揮者としてもドイツ内外で名を馳せました。其の音樂作りは、あざとさや外連味が無く、自然な息遣いと大らかな流れが特長であると云えましょう。

 

  此のレーガーの《ロマンティックな組曲》にしても然りで、激しい熱氣を漲らせると謂うよりも寧ろ整理整頓された感じがし、常に温和な格調が保たれています。そして、しっかりとした重く厚い響きが如何にもドイツ的で、斯うした點が正にレーガーの音樂にピッタリであると云い得るのではないでしょうか。

 

  演奏メンバーは以下の通りです:

 

  Hans Schmidt-Issrestedt (Dirigent)

    Sinfonieorchester des Norddeutschen Rundfunks          Hamburg

 

(1967.09.20-22)