西成事情3の続き


全裸で真っ赤に染まった今林さんがフラフラになって外来に入ってきた。


救急隊員は無口、目が怒っている。


今林さんは相変わらずの泥酔状態で目がうつろ。。。。。。


しかし様子が変・・・・・


「血とちゃう??(=◇=;)」


治療室は甘い香りが漂い・・・・今林さんを触るとベタベタしている。


シノギに襲われたのはいいが、取る金がない・・・取る金どころか服以外何もない。


腹いせに暴漢者達は身包み剥がして真っ裸にし、頭からカキ氷のイチゴシロップをかけたのである。


どうしてイチゴシロップなのかは不明。


耳の中も口の中(自分の体を舐めたらしい)真っ赤。


そして朝はウンチが一杯詰まってた、爪の中もイチゴシロップで真っ赤に染まっていた。


もう笑うしかない・・・・(`∀´)


本日2回目のシャワータイム・・・・・もう酔いは最高潮・・・・座ることもできない。


デロデロで転がりながらのシャワータイム・・・・


ピンクのゴム手袋に魚屋さんの白いビニールエプロンを再度身に付け・・・・ゴシゴシとカキ氷シロップが取れるまで今林さんを洗った・・・・「ムフフフッ・・・・・ムフフッ・・・・・」と自然の笑いが込み上げてくる・・・


「なんでカキ氷シロップなんやろ・・・・」いつも独り言が多い私。


「なあ今林さん・・・なんでカキ氷シロップかけられたん???」


泥酔の今林さんは答えない・・・・


どうしても聞きたい私。


「ねぇ~今林さーーーーん、なんでカキ氷シロップかけられたん~!!!」と耳元で大きな声で叫ぶ。


「主任さん・・しつこい・・・」とスタッフ達が苦笑


「しらん・・」と一言



それからまた空調の効いた快適な部屋でお休みタイム。


気持ちよさそうにグゥーグゥー寝ている。


しかし・。・・・・がぁ!!!



小一時間もすると、また暴れだす。


ベットから起き上がり、点滴を抜き血だらけにして「220円くれーー」とまた始る。


今回は220円攻撃に「セデスくれー」攻撃と「入院させてくれー」攻撃がバージョンアップして加算される始末。


うるさいったらありゃしない。


他の患者さんを診ていたドクターに詰め寄り「入院させてくれ」とすごんでいるが、全然恐くない。



ドクターはカルテを書きながら「入院のチケットこの間全部使ったから、もうないやろ?すやからできひんで」


「入院チケットって・・・・???」私


またもや暴言再来、大暴れ。


つまみ出される。。。。。。


「大人しくしてたら、ずっとおれんのに・・・・・なんで静かにしてられへんのやろ。。。。」


それから夜間・・・・何度も来たらしい。


そしてもう救急車に乗せてもらえなくなる。


歩いて病院にきても誰も相手しなくなり、そうなると病院の前で倒れたふりをして「助けて~助けて~ここの病院の人呼んで~」と叫びだす。



一般市民の通行人が善意で病院に運び入れる始末。。。。。。


みんな無口になり、まさか「こいつは嘘つきです」とも言えず。



とりあえず入院させることにした。



恐らく保険で入院費を請求するのは難しいと事務員。


重症であれば別だけど。


しかしこれ以上、同じ事を繰り返すこともできないので、病院負担で入院やな~と・・・なった。


そして彼は折角入院となったにも関らず、勝手にいなくなった。


不思議とそれから丸一日、彼は来なかった。


翌々日の朝、私は出勤し救急車来院名簿を確認した。


「今林里美」の名前があった。


「よかった・・・・救急車乗れたんや・・・・ん??」


目を横にずらすと「転院・脳内出血」という文字。


いつかはやられると思ったが・・・・


彼は泥酔状態で抵抗もできないのに、口だけは達者で他人にくってかかるからやられるに決まってる。


数人からボコボコにされて、顔がパンパンに腫れて今林さんと分からなかったそうだ。


意識不明で脳のCTをとるとかなりの広範囲で脳内出血してたらしい。ですぐ脳外科に転院。


夜勤の看護師も「いつかはな~しゃないな・・・」


それから4日後に彼が亡くなったと転院先の病院から連絡が入った。


彼は緩慢に自殺したのであろうが・・・・なんだかね・・・


こんな結末とは想像もしなかったから・・・・


付き合いも長かったし、憎めない人であった。


私は結構後々まで引きずった一件だったし、自責の念がしばらく離れなかった。


もっと方法があったのではないかとね・・・・


彼の運命であり、彼が自ら引き起こしたことであるはずだけど・・・・どうもこうもね・・・・


西成という場所は混沌としている。


正しい事がなにかということが、よく分からなくなる場所であり、一般社会や人間達の許容しきれないものが掃き溜められて、滞積している場所。



もしかしたら神様の国に一番近い場所なのかもしれません。