久しぶりに釜ヶ崎の話を一席
テンツクツクツクテンツクテン♪
背が私の肩くらいまでしかない、子泣き爺のような妖怪男・・・・今林里美さん。
フルネームで覚えるほど忘れられない患者さんの1人。
彼はもうこの世にはいない。
夏の暑い日のこと、今林さんは本日3回目の救急搬送・・・・救急隊はかなり怒っている。
通常しつこく何度も救急車を呼ぶ場合には、救急隊も大変なので軽症であっても一時入院という形をとることが多い。
彼達ホームレスは入院させるまで、何度も救急車を呼ぶことがある。
「西成だけ、救急車呼ぶのん電話代いるようにしたらええちゃうのん!!(`m´#)」と言いたくなるほどに不用意に何度も呼び続ける。
それに拍車をかけて泥酔しているから性質が悪い。
それにこの今林さんは昨日退院したばかり。
以前にも書いたことがあるが、西成のホームレス達が医療を受けるために、使う法律「行旅病人及行旅死亡人取扱法」というものがある。
この法律・・・・インターネットで調べると、ちょっとやそっとで理解できる代物ではない。
一般人に分かるように作られていない傲慢な法律で、無闇に使うなよ!・・・・という国の意志がありありと見受けられるのである。
要するに住む所も家族もない人でも、国がお金を出して(税金です)医療を受けられるよ♪という法律なのである。
それにもし死んでもちゃんと埋葬して、お寺に葬られるから心配しないでというものです。
また話は横道にそれるけど。
この法律を使って医療を受けて、指定された期日まで入院した場合(生命保険みたいな感じね)には日用品として30000円が国から支給される。
それははじめ病院が預かる。
そして患者さんが入院中に必要だったオムツとかタオルとかテッシュとか下着とか・・・・そういう日用品のお金を一時病院が立て替えているものがあるので、それを差し引いて、退院するときに手渡して帰ってもらうのである。
入院が長引いている場合には2回支給されることもある。
一ヶ月分として3万円支払われるからである。
それが目当てのホームレスは多い。
検査とか採血とか・・・・毎日の点滴とか。。。皆、自由人だからとっても嫌なのである。
別に病気を治そうなんて微塵も思っていないし・・・・・。
しかし文句一つ言わず受けているし、聞き分けもとってもいい。
それはこの日用品の30000円が出るまでの辛抱だと思っているから。
退院許可が出ていないのに、この日用品代30000円は支払われると、勝手にいなくなってしまう人が多々いる。
「脱院」というやつ。脱獄の病院版。
しかし「脱院」すると次回入院しにくくなるということを学習しだすとそれもしなくなる。
「抑止力」というのは知的レベルが低くければ低いほど、効果を示すものだと実感した。
先回許可なく脱院したホームレスが救急搬送されたときには、とりあえず治療はするが落ち着いたら帰ってもらうことを3回繰り返す。(ちゃんと理由は伝える)
先回勝手に帰ったでしょう。と・・・・・病院の規則を守れない人は入院させられません。と・・・
3回目になると彼達はかなり低姿勢になってくる・・・・それを確認してから、かなり値打ちをつけて入院を許可する。
そういう段取りをしっかりと踏むことで、よい関係性をいつまでも保てる。
現在老人介護施設や病院などで介護者や看護者による虐待というのが、問題視されているが、不思議なことに私が勤めていた病院では、とっても患者さん本意の姿勢をとっていた。
皆基本的にホームレス達にとっても優しかった。
態度の悪い人はこちらも毅然とした態度を取るが、一般的な常識の範囲であるならば患者さんの言い分はしっかりと譲歩して聞き入れ、できる範囲で叶えてあげれるようにする病院であった。
退院後の生活の相談も受けていて、真剣に考えている人には一生入っていられる施設の斡旋もした。
そしてどんな患者さんでも受け入れた。
どこの病院も受け付けない西成のブラックというのがある。
ブラックリストに載っているホームレスであるが、これが判明すると搬送を拒否される。
しかしうちの病院は基本的に全て受け入れる(入院はさせないけどね)救急隊員は皆、うちの病院を重宝してたし、とっても好意的だった。
そして病院の職員は、自分の家にある古着を持ってくる。
ホームレス達の服はどうしょうもなく汚れていることが多く、院内に持ち込めない・・・・・不潔すぎて・・・・虫もいたりすることも多々あるし・・・・で、大概了承を得て破棄する。
だから退院した時に着て帰る服を用意しておくのである。
私もかなりたくさん病院に持っていった。
西成を歩くと、私の服を着て寝ているホームレスを何度も見かけたことがあった。
職員の知り合いやら親戚やら、皆処分に困っている洋服というのは山ほどあるみたいで、喜んで持ってきてくれた。
慣れたホームレスは病院で用意されることを期待して、すごい簡単に「捨ててええでぇ~」というようになる。
もし破棄を拒否した場合には大きなビニール袋にいれて裏のカレージ脇に保管し、帰る時に渡す。
が・・・・とてもじゃないけど着れる代物ではないことがこの時(酔いから醒めて)にようやく分かる。
ビニールの中で服は発酵し、異様な匂いを放ち、虫達が孵化していることもある。
何週間という清潔な入院生活に慣れた、ホームレスは「こんなもん着れるか!!!!」と怒ることもあった。
「これ着っとたんやろ!!(`m´#)」
「着とらん・・・・(-.-”)」
「ほかしたらあかんいうのは、〇〇さんでしょう!!」
「言うとらん・・・( ̄д ̄)」と抜けぬけとおっしゃるのですよ。
そう・・・西成人は忘却の国の人なのですよ・・・。
人間を取り巻く環境というのは、本当に大事やな~と・・・
この病院での10年間は、人間を見せてくれた。
私の心は色々なものに対応できるキャパを身に付けた場所でありましたのですよ。
今林里美さんの話から、えらく横道にそれましたね・・・・それはまた次回
続く。