毎日激しいことばかりでもなく、ほのぼのすることもないこともない・・・(どっちや!)


こういう表現になるくらい、とにかく毎日過酷極まりなく、私はいつもどこか具合が悪かった。


頭がすっきりすることはまずないし、セデス中毒であった。


まあそれはさておき、私の肝が座るきっかけを作ってくれた患者さんがいた。


室井さんという・・・・


彼は顔面打撲で救急搬送された。


左の目瞼が切れていて目頭から目尻にそってバスッと切れている。ただ傷は浅く表面だけ縫って投薬という処置となった。


アルコール臭もなく、歩けるし見た目は元気。外傷なので処置後は帰ってもらうことになった。


彼は放心状態で殆ど口を聞かなかった。


救急隊員から事情聞くと、「しのぎ」にやられたらしい。


「しのぎ」とは西成でホームレス専門に狙う暴漢である。


彼はショックでしばらく動けない状況だったので、処置後、廊下のベンチに落ち着くまで腰をかけてもらうことになった。

それからしばらくバタバタと救急車が何台か到着し、室井さんの事を忘れていた。


まあそのうち帰るだろう・・・・と思っていたが、ふと廊下を見るとまだ座っていた。


肩が落ち暗い表情で今にも泣きそう・・・・・


隣りに腰かけて「どうしたん・・・」と事情を聞く。


概略を説明すると、四角公園(彼のテリトリー)のベンチで読書していたら、突然に何者かに下から角材で振り上げられて殴られた。と・・・・


当然気を失い、彼の全財産であるちょっとばかりの荷物を全部持っていかれたと・・・・読んでいた本も持っていかれたらしい(痛ましい・・・・かぎり)


彼は身包みまでは剥がされなかったのでよかったけど・・・・と。もう着ている服と体以外は何も無くなってしまった。


大きなため息をつき、より彼の肩は落ちていく。


「酒は飲まんの?」


「飲まん・・・本を読むのが好きやから、酒飲むと読めなくなるし・・・」


と・・・・結構まともに話せる人である。


なんだか帰すのが心もとなくなってきて、私は「入院する?」と言ってしまった。


彼の表情はパッと明るくなり「お願いします」と頭を下げた。


まともな人もいたし・・・・・変に感動(´_`。)する私であった。


まあいずれにせよ、2週間程度で退院になる。その後はまた外での生活をがんばるしかない。それ以上のことは私達にはできない。


でも私はその時に思ったのである。


ちょっとした休憩場所でいいやんと・・・・・長い路上生活の中で少しくらいは安心して寝ていられる場所を提供するって感じでも全然いい。


食べる事も寝ることも心配のいらない、空調の効いた部屋で一時休憩してもらおう・・・・・と。


それでいい、と私は腹をくくった。


病院は病気を治すという前提の場所である。そういう風に教えられたし、治療という名のもと患者さんは制約された時と過ごす。それが当たり前・・・


でもここは違う、病気は入院するためのアイテムであるので治ってはいけない。


ここの病院は病気を治す所ではなく、安心して眠れてご飯を食べれる場所なのである。プラス看護師の優しい介護も漏れなくついてくる。


荒れすさんだ心が少しも和めたらえんやん・・・・・と


普通の病院とのギャップに苦しんだけど・・・・でも「ここは普通と違う」「ニーズが違う」でいいのだと思った。


それから楽になった。


室井さんに「警察に言うたん?」と聞くと


「そんなこと言うたら反対に怒られる」


「なんで?」


「やられる方が悪いんや!」と突っ返されるらしい。


「そらそうやな・・・・それを事件にしてたら全部が迷宮入りやし・・・毎日大忙しになるもんな・・・」


そんなことで事件にならない・・・・西成は治外法権や・・・・ということもこの時にわかった。


そう言えば・・・以前とんと(ドラム缶の焚き火)にくべられて焼け焦げになった人が運ばれたことあったけど。。。。。。警察はそっけなかったな・・・・・ような記憶が・・・・・