西成人は皆、個性的である。


患者さんに接していると、この「西成の地」に来るまでには、きっと私達には想像もてきない出来事があったであろうと想像できるのである。


病棟では酔いも醒めているので、普通にコミニケーションもとれるし、一緒に笑いもできる。中には気難しい人も入るが、トラブルを招くようなこともさほどない。


やはり入院していたいという気持ちがあるから、素直である(きっと見せかけだと思うけど)


しかし救急外来は違う。殆どが酔っているから本性が出やすくなる。


とにかく皆、怒っている、うそをよくつく、怒鳴り散らす・・・・反抗的・・・・


やりにくいったらありゃあしない・・・(-з-)


でもですね~そんなことに負けては入られない。


治療をすすめるためには、感情を出してもいられない。笑い飛ばすぐらいの根性でこの人達と付き合わなければここではやっていけないのである。


毅然とした態度をとりながらも、彼達の機嫌をとりつつなだめつつお互いの折り合いをつけながら、治療を進めていく。


皆慣れたものであるが、その中でもどうもやりにくい患者さんがいる。


笑い飛ばせず、その人のペースに巻き込まれてしまい、震えるぐらいに腹が立った患者さんを今でも覚えている。


50代の男性で田村さん・・・・彼はホームレスであるが、いつも背広にネクタイ、革靴という出で立ちで救急車から出てくる。もちろん泥酔。


髪の毛もいつもきっちり刈り上げて小奇麗であるが、体には墨が入っている。


知的レベルも変に高い。プライドもある。


根性はねじれきってて、私達を召使のように思ってる。


点滴をしようとしたら、「毒でも入ってのとちゃうやろな~」「ほらぁ~失敗すんなよ~」「ちゃんとやらんか~」とか奴隷のように罵倒するのである。


「おまえらと一緒にすんなよ~」と、とにかく私達に当り散らす。


もう入る間ずーーーーーと私達に文句を言い続けるのである。


プライドがやたらと高くて、自分がホームレスであるということを受け入れていない。


とっても非常識な話を常識的な話にすりかえて話をするのだ。すごい話術である。


それに大風呂敷を広げて、やたらと景気の良い話をするのだが・・・・お金は一銭ももっていない。


高齢のホームレスを狙ってカツアゲをしているらしい・・・・田村さんが帰ってから、隣りに寝ていた患者さんが、毛布から顔をそっと出して「アイツ皆の嫌われもんやで~心が腐っとるんや・・・」と話をしてくれた。


「こんなベットで寝かせやがって!部屋あげんかい!!」と怒るのだが、泥酔でアルコール臭プンプンでは病棟には上げることができない。


点滴をして酔いが醒めてからと言うのだが、田村さんは短気で点滴も一本終わるのを待てないのである。「もうええ!」といい自分で引き抜いて帰ってしまう。


3日に一回はこのやりとりで、救急車から田村さんが出てくるとウンザリ・・・・・。(;°皿°)


「また今日半日、田村さんの罵声を聞きつづけなあかん(°д°;)・・・・」となる・・・・


きっとこの調子で生きてきたのだろう・・・と想像できる。誰も信じていない。笑うことといったら人の不幸な話とか、自分の自慢話・・・・悲しい人である。


私はある時から、彼の言葉を一切耳に入れなくする技を身につけた。


でないと私が病気になりそうで・・・・


ある夏の暑い日に救急外来のクーラーが故障して、蒸し風呂状態で業務をこなしていた事があった。


大阪の夏は暑い。湿気が高く、具合が悪くなりそうである。


それでもお構いなし救急車がやってくる。


私達のへたれ具合を他所に、ホームレス達はその暑さをもろともせず、蒸し風呂状態の酔い覚ましの為に備え付けてある簡易ベットの部屋でグーグー寝ている。


さすがアオカン軍団である。こんな暑さに負けてない・・・・感服・・・・感動(☆。☆)


そこへ田村さんを乗せた救急車がやってきた。


田村さんは歩けるのに、救急車のストレッチャー(担架)から降りようとせず、乗ったまま診察室へ・・・・4人かがりで診察室のベットに移動させる。


あきれるスタッフ一同(@ ̄Д ̄@;)・・・・・


ドクターが「はーい田村さん今日はどうしましたか?」と聞くと、ギョロと目を開けて「暑い!!」


「あ~ごめんね~今日クーラー故障してて、明日にならんと直らへんねん」


「あほか!こんな暑いとこおったら汗出て、酔いが醒めるやろ!!」とすくっと立ち上がって、私達病院スタッフ、救急隊員の間をすり抜けて帰っていった。


私は思わず、「笑えるな~田村さんには・・・涼みにきはってんな~」とボロッと言うと皆険しい顔で私をにらみつけた( ̄^ ̄)。


「私に怒ってもな~ははははっ」とその場から立ち去ったのである。


それから田村さんは救急車に乗してもらえなくなったらしい・・・・・今度救急車に乗れる時は本当に病気になった時である。


もちろんうちの病院のブラックリストにもその日に掲載されたことは言うまでもない・・・・


うちのブラックリストに掲載されてしまうと・・・・よほどの重症(意識がないとか・・・)でないともう入院はできない。診察は一応はするが・・・・


この件から私は田村さんと会うことはなかった。