さて・・・・・最強に汚れている・・・だが状態が悪いので洗えないという場合にはもう最悪である。


シラミだらけで血圧計も巻けない・・・・・気が遠くなるような悪臭・・・・・なんだしらないがハエ・・・・が舞っている。


でもとにかく、ルート確保(点滴)しなきゃ~血圧測らなきゃ~熱熱熱・・・体温計・・・脇まで到達できない・・・耳の中・・・ギャー~~~シラミで埋め尽くされてるぅーーーーー(┳◇┳)


スタッフ達も自分自身を守らなければいけない・・・・そんな状況である・・・精神状態がいつもと違う感覚になり、ハイパーテンションで脳波がビンビンくるのだ。


忘れもしない・・・そう・・あれば7月の終わり暑い暑い夏の出来事であった。


西成では夏は熱中症、冬は凍死・・・もしくは低体温障害で運ばれる患者さんが多くなる。


私達の感覚で言うと、まだ低体温障害の方が安心していられる。温めて栄養状態を良くしてあげると回復が早いし、症状が複雑ではない。ダメージがあまり深くないのである。


しかし熱中症は体液の循環の問題やたんぱく質の変異などで、突然に心停止することがある。それに脳障害やけいれん、体温中枢がやられてると体温調節ができなくなる。


極度の脱水状態であるが、水を入れればいいということでもない、輸液管理(点滴)が難しい。


急変しやすいので、私達は熱中症の患者さんを受け持つとかなり神経質になるのである。


もう日勤も終わりに近い、夕方搬送連絡が入った。


「熱中症、意識障害、意識レベルⅡからⅢ・・・男性、かなり汚染されています・・・・アルコール臭あり・・・」


意識レベルはⅠ~Ⅲまであって、それぞれがまた3つに分類されている。


Ⅱは刺激すると覚醒する状態で、Ⅲは刺激をしても覚醒しない状態を指すが・・・ここいらでは泥酔していることが多いので、意識レベルⅢ-300(痛み刺激に反応しない)と報告はあっても、あまり緊迫した状態にはならない。


患者さんを診てからでないと信用できないのである。


話は横道にそれるが、入院したいが為に意図的に意識レベルを落とす人がいるのである。


バシバシと刺激してもなんの反応もない。しかし色々と検査するが異常が見られない・・・で経過観察で入院した途端に、ぱちくりと目を開けて「メシ出るんやろ?」と言うのである。


こればっかりは感心するばかり・・・・すごい根性・・・・!( ̄- ̄)ゞ




で、話を元に戻します。


私はとりあえず、おもむろに長靴に履き替えて、ビニールのエプロンとピンクのゴム手袋をし、救急車の到着を待ち構えた。


他のスタッフが「主任さん私達が洗いますから」と長靴の取り合いになる。


まあスタッフ達は気を使って言ってくれるのだろうが、「私がやりたいの!」と頑な私を見てドクターも事務員も笑っている。。。そう私はやりたいのだ・・・・


変でもなんでもいい・・・私がやりたいのだ・・・


それはどんなに昇進しても最後まで変わらなかった。


そう・・・これは私の趣味だったのである。要は変人・・・・


救急車到着・・・・さすがの私も絶句Σ( ̄ロ ̄lll)・・・救急車の扉が開いた途端、ムワッーーーと悪臭の襲撃にあった。

救急隊員達は転がるように降りてきた。怒っている・・・


全身から湯気が出てるかのように、体が熱く意識も確かにない・・・


何でも食堂の裏路地にあるクーラーの室外機の前で酔っ払って寝ていたらしい。見るところ若い。


深夜からそこで寝ていたらしいが、その頃は食堂が閉まっているのでクーラーは動いていない。


食堂が開く朝の9時頃からクーラーが作動し始めて、室外機から熱風が吹き出し始めたのを気付かずに、その前で寝ていたらしい。


その日の暑さはひどく、カンカン照りの真夏日であった。


そんな中、丸一日、室外機から出る熱風にあたったまま寝ていたのだから、そら脱水にもなるし、体温も上がるはず。


少しでも寝返りうったらよかったのに・・・・と思うが、そうもいかなかったのだろう・・・・・


それもぎょうさん(たくさん)服着てるし・・・「このクソ暑いのになんでこんなぎょうさん服着とるんや!!」と事務員も怒っている。


とにかく皆、なんか怒らないと気がすまないのである。気持ちは分かる・・・このニオイちょっと今の日本では嗅ぐことはできない匂いである。


暑いから発酵しているようなニオイもするし・・・・


体温を計りたい・・・血圧計りたい・・・点滴しなきゃいけない・・色々と緊急に処置をしたいが、腕の服をまくることすらできない。


たくさん着ていることと、絶対に裏にシラミが入るからである。ヘタにパタパタするとシラミが飛散するから危険である。

事務員がハサミで服を慎重に切り出した。ここの病院は事務員もヘルパーも掃除の人もこんな状況になると皆、出動することとなる。


やっぱり服の裏はシラミの絨毯・・・・・びっしりシラミが裏地にへばりついている。


とりあえず腕が出たので血圧測って、体温を測る。水銀が振り切った・・・・・42度???ほんま???


ヤバイ・・・


早よ点滴しな・・・


でもシラミだらけ、汚物が大量に付着している、皮膚に黒かび、頭は針金のような髪の毛で中もシラミだらけ。耳の中まで。。。。言えない・・・・・


でもこんな重症では洗えない。


上半身の服をやっとの思いで脱がせて、清潔不潔お構いなしに針を刺してルートを確保した。


針を刺す前にアルコール綿でとりあえずは皮膚を消毒したが、これこそ焼け石に水・・・・意味がない。


綿花は真っ黒で何度拭いても拭いても真っ黒黒スケ・・・・野戦病院並である。


人間とは本当にタフな生き物である。


さて今度は下半身の服を脱がせないといけない。


ジョキジョキ・・・・・ジョキ・・・・・ジョキ・・・・中から飛び出してきたのは・・・ハエ・・・


ハ、ハエェ~????


と恐ろしいほどの量の〇ンチ・・・・・とその中には〇ジ虫がモゾモゾ。生きてる人間のズボンの中で孵化しているし・・・・


ズボンの中にある大量の〇ンチには層があって古い層と新しい層に分かれている。


硬さや粘性、乾き度合いが層によって違いのである。地層と同じ・・・・アンモナイトは見つからなかったけど。


凄まじい悪臭と虫と汚物に私達は固まった。ドクターは後ずさりしている。


しかしいつまでも固まっているわけにもいかないので、私はモードを変えた。


これこそ無我の境地解脱である。


感情を消滅させ、目の前にあるものに立ち向かう勇気・・・を私に下さいと天を仰ぐ・・・私。(。-人-。)



切り替わると強いものである。


「ヘェ~初めてやな~ここまでは・・・」と私・・・


「この便の量、一回ちゃうな~」と私・・・・


だんだん平常心になってきた。



続く~