病院まで片道1時間ちょっとの道のり・・・・地獄のような車内だった。


後部座席の下に布団に簀巻きになった母を乗せ、私は小さい弟を抱き後部座席で暴れる母を見下ろしていた。


母は疲れることを知らずに放尿し暴れまくった。


危ないので弟を助手席に座らせ、一時間あまり母を押さえつけていた。力がない私は母の力に負けてしまい何度となく飛ばされて窓ガラスやドアに体を打った。


窓の外は朝の平和な通勤通学風景が広がる。


それを見ているととてつもない孤独感が私を襲ってくる。


自分が小さく小さくなる。涙も出てこなかった。やっとの思いで病院につき、男性スタッフ3人がかりで隔離病棟に彼女は収容された。


父も私も何も喋らない。弟は助手席で寝ている。帰る頃、昼近くになっていた。長い長い夜だった。帰りの車中フト空を見上げると大きな半円の虹がくっきりと見えた。


雨が降っていたのだ。それさえも気づかなかったようだ・・その虹を見た途端、涙が溢れ出てきた。


嗚咽がでてくる。大声を出して泣きたくなる・・・でも必死で歯を食いしばって堪えた・・父の手前があったのだろうと思う。


その頃はまだ父を本当の父だと思っていた。でもどこかでいつも気兼ねしていたのだ。


無意識ではわかったいたのかもしれない・・・・


歯を食いしばり、その虹を見ながら静かに涙だけを流したことを今でも虹を見ると鮮明に思い出す。


あの頃私は何を思い、何を考えていたのだろう・・・


あれからずっと考えることをやめてしまっていた。


孤独感は続き、どこかで私だけ違う・・・見ている世界が違う・・・と思ったいた。


そして諦めていたのだ。わけのわからぬ不安が私を襲う・・・そんな20代であった。


そんなある日、みずちの物語のきっかけを作ったM子がまた妙なことを私にいった。


「虹って龍の化身なんだって、だから虹って虫ヘンなんだって・・毒をもって人を害する【みずち】が虹になって現れる♪ぴちさまは虹なんだよ」


今思う・・・今もなお眼に焼き付いているあの時の大き虹は、四半世紀の時を経て蛟(みずち)となって私の目の前に現れた・・・・のだ。