あるパテェシエが言った。。


「あたり前の事が難しい」「細部にこそ神がやどる」


そのパテェシエは業界ではかなり有名な人で、コンクールでも世界一にもなったことがある腕前のお菓子職人なのだ。


しかしその人は現場主義でメディアには殆どでない。厨房が彼の自己実現の場所なのである。


以前彼は一流ホテルで働いていた。一流ホテルに勤められたことが嬉しくて皆に自慢したらしい。


その時に付き合っていた彼女に言われた。


「それであなたはそこで何ができるの?」


答えることができなかった。修行の身である。何もできない。彼は我に帰ったのだと言う。


そしてフランスに渡り過酷な修行時代に入る。


フランスの有名店に何年も交渉してやっとの思いで入り、期待して厨房に入った。でもその店には何も特別なものはなかったのである。でも毎日たくさんのお客さんが買いにきて、味を絶賛する。彼が食べても本当に美味しいと思う・・・


なぜなのか・・・・そう当たり前のことを毎日毎日欠かさず手を抜かずやる、当たり前を毎日積み重ねる・・・


当たり前を積み重ねると特別になる。


沢山のラズベリーの中から粗悪なものを1個1個丹念に抜き取る、全てをミキサーにかけてソースにしてしまうのだからそんなものは分からない・・・・だが、毎回一つ一つ見て抜き取る。


混ぜる、捏ねる、冷やす・・・こういったことも毎回同じように行なう。


絞り袋にいれて、クリームを搾り出す時も氷水で手を冷やしてから搾るのである。温かい手だとクリームが分離するかららしいが、微妙な変化であって、ドロドロと分離してしまうわけではない、素人にはわからない程度でも、必ず完璧な状態で物を作っていくのだ。


「あたり前を貫けるか」


レシピは楽譜と一緒なのだそうだ。やる気と経験で出来上がりが違う。


自分の生きる目的は今の現場・・・目の前にある、現実にある。今一番何が大切なのかは目の前を見ろと・・・・


彼は最後に言った


「ぼくは永遠の未完成でありたい」と・・・