さあ、ではようやく本題に入っていきたいと思います。
精神分析学では、実際どのような治療技法が用いられるのでしょうか。
前回も言いましたが、このカウンセリングの目的は患者が自分の『無意識』の中にあるものに気づくように誘導することです。
フロイトさんは最初の頃は、催眠療法という方法を用いていました。
これはもともと、彼の先輩である内科医が使ってた手法らしいです。
名前の通り、患者に対して軽く催眠をかけて行うもので、催眠にかかった人は「過去の耐えがたい体験」などを語りやすくなり、その後症状が改善していくということが多かったようです。
しかし、催眠はかかりやすい人、かかりにくい人がいるらしいんですね。
また、催眠中は自分の「欲望」や「耐え難い過去」について語っても、それが解けた時に覚えていないなんてこともあったらしく、「それじゃ意味ねーじゃん!!」となることもしばしば。
そこで、フロイトさんは幾らか試行錯誤をしたのち、『自由連想法』という方法を確立しました。
『自由連想法』は、患者を寝椅子でリラックスさせて、そのひとの心に浮かぶ感情、考え、記憶などをそのまま全て話させるというものです。
「こんなこと言って良いんだろうか」とか、「こんなこと言ったらまずいかな」とかはありません。
とにかく、患者さんは「思い浮かんだことの全て」を話すことを要求されます。
治療者の側は、そこで話された内容に関する守秘義務を負い、どんな内容の事であっても患者さんを批判せずに、話しを続けさせます。
これによって、普段は開くことのない「心の地下室の扉」が少しだけ開きやすくなるのです。
いやでも待ってよ!!
これ、中々難しいことだと思いませんか?
試しに、部屋に誰も居ないのを確認してから、あなたもやってみると良いかも知れません。『自由連想法』を。
どうでしょうか。
僕はこれ、ほんとに続かないんです。
何も考えられなくて喋れなくなるっていうよりは、色々考えちゃって喋れなくなるんですね。
「全てを話さなきゃいけない」のに、結局思い浮かんだことを「取捨選択して喋っている自分」がいることに気付くんです。
じゃあ、何によって取捨選択しているのか。
それは『倫理観』や『理想の自分像』によってなのです。
僕に限らず、おそらく多くの人には「口に出すのに抵抗のある言葉」というのがあると思います。
人によってそれは「性的な言葉」だったり、「特定の人物の名前」だったりと色々でしょう。
「性的な言葉」の場合は『倫理観』が「そんな言葉、思い浮かべるのも汚らわしい!!口に出すなんて論外だ!!」と言って、抑圧してるかも知れません。
また、「特定の人物の名前」の場合は、その人のことを思い出したくない、思い出すのは『理想の自分』を誇示するためには不都合だとされているために、その名前を口に出すことに対して抵抗があるのかも知れません。
例えば、元恋人の名前だったりは、それを思い出すことによって「自分がフられた」という過去が連想され、「素敵で魅力的な自分」という『理想像』を崩してしまうのです。
で、実際の患者さんも、思い浮かんだことを全ては話せないことがほとんどです。
少し話すと行き詰まって、「何も思いつかない」といったり、遅刻や欠席を繰り返したり、何も解決していないのに「もう治った」と言い張ったりと、治療に対して『抵抗』をし始めます。
さあ、では治療者はどうしましょう?
自由に話してくれないなら、打つ手無しなのでしょうか?
そんなことはありません。
治療者は、患者さんの『抵抗』の仕方を分析するのです。
どういう種類の話しをした時にあとが続かなくなるのか。遅刻や欠席をする前のカウンセリングでは何を話していたか。特定の話題を避けようとしていないか。などなど…
そして例えば、患者さんが家族の話題を避けているようにふるまうのであれば、治療者は家族のことを思い出しそうな質問をしたりします。
「ご家族はどんな方ですか?」といきなり訊ねるというよりは「そういえば出身はどちらなんですか?」とか、「小さい頃は何をして遊んでいましたか?」とか、遠回しに家族を連想させるような質問の仕方をするかもしれません。
そこでも、家族のことはかたくなに話さなかったり、次の回で遅刻や欠席をしたり、急に怒り出したりするのであれば、その人は家族との記憶を「心の地下室」に閉じ込めてしまっている可能性が大です。
それが分かったら、患者さんが拒絶してもなんでも、治療者はその話しをさせようとします。
すると、最初は嘔吐するほど拒絶的だった患者さんも、次第にぽつぽつとその話をすることが出来るようになってくるそうです。
「親に思うように愛してもらえなかったこと」「罵倒された記憶」などが語られるかも知れません。
そうして、少しずつ「地下室の中身」に気付けるようになると、多くの症状も消えていくというのです。
さあ、ここまでフロイトさんのカウンセリング手法をめちゃくちゃ省略しながら見てきたのですが、実際に現在この『自由連想法』をそのまま用いて治療する例はごく僅か(むしろ無いかも知れない)らしいです。
では、今はもう、精神分析学はまったく無意味なものなのでしょうか?
そうではありません。
フロイトさんが行なった『自由連想法』は、確かに今現在そのまま使われてはいませんが、この精神分析学が考える「こころの構造」は、今も多くのカウンセラーが人を診るときに参考にしています。
そして、『自由連想法』という手法は、『言葉の力』というものがどれだけ大きいかということを今も僕たちに示してくれているように思います。
結局のところ、自分の『認めたくないところ』『許せないところ』を「これも自分なんだ」と受け入れていくためには、『言葉』によってその『嫌なところ』を自覚することから始めなくてはいけないということ。
今はその言語化させるまでのプロセスが、フロイトさんの当時とは大きく異なりはしますが、彼が確立した『自由連想法』は、自分の『無意識』を言語化するための手法の元祖として、今も沢山の人々に影響を与えているのです。
現在のカウンセリングでも、非常に言葉が重要視されます。
それこそ「言葉」が「薬」であるかのようです。
その基盤となったのが、この精神分析学だということもできるでしょう。
それでは今回はこれにて!!
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ユングや、アドラーといった人たちもフロイトの理論を基盤にして、さらに独自の理論を展開させていますが、これらを総じて『精神力動理論』と呼びます。
それについては、ここでは詳しく説明するつもりは無いので、興味ある方はご自分で調べてみて下さい!!