鉛のように冷たい指先に白い息を吹きかけた。
僅かな熱を感じるのは一瞬で、痛いほどの寒さが骨の芯まで締め付ける。
朝日はまだどこか世界の果てにいて、駅構内の白々しい光が余計に冷寒を際立たせる。
電車を待つ人はまばらで、携帯を覗きこむ人や本を読む人、ぼんやりと駅前のホテルの灯りを眺める人など、それぞれがそれぞれの行為に没頭しつつ、妙な気だるさと連帯感を共有していた。
僕は手のひらをじっと眺め、自らに刻まれた運命を読み解こうと縦横に走る皺を視線で追う。
それはとても無意味な行為で、その明白な無意味さが僕を安心させてくれる。
まっさらな1日の始まりに相応しい、漂白された時間の過ごし方。
右手を眺め、飽きると左手へ。
左手を考察し、また右手を読みなおす。
どこにも行かない、消費されるだけの時間。
ダウンジャケットの右側のポケットに違和感を感じた。
読みかけた右手をポケットに入れると指先に震える携帯が触れた。
取り出して目の前で開く。
メールの受信を示す画面が明滅していた。
過去からの手紙。
陳腐な表現が思い浮かんだのは、見覚えのあるアドレスを、まだ何となく覚えていた自分への自嘲だったのかも知れない。
『元気にしてますか?』
問いかける画面に「ああ」とか「まあ」とか曖昧に答えたかも知れない。
虚ろな僕はただその画面を眺めて、無意味な言葉の意味を探していた。
遠い遠い過去からの手紙は、僕にその意味を届けることも出来ずに、僕もまた返す術も持たず、朝の空虚な時間に融けていく。
彼氏がいる女の子とセックスする。
それって倫理的に最悪なことのように思うけど、倫理より欲望を優先させる僕には最悪も最高もないみたい。
『彼氏とどっちがいい?』なんて聞いてみるのも、それを聞いて自らの雄を誇示したいわけじゃなく、ただ目の前の彼女が浸りたい世界を演出してるだけ。
女の子が全てを棄てて性欲を充たすことに集中している瞬間。
汲めども尽きない快楽に自我を奪われ、淫らな言葉と動きと熱に融ける。
僕はそこに関わっていたい。
生の人間に触れる喜びは何ものにも替えがたい魔力を持っているのかも。
例えば、ある女の子のお話。
高校を卒業したばかりの、アルバイトと専門学校に追われる日々を送る普通の女の子。
大好きだけど時々喧嘩しちゃう彼氏がいて、不安と期待が毎日順繰りに彼女に触れていく。
彼女の密かな楽しみはインターネットという巨大な建物の隅に書かれた、落書きみたいな日記を読むこと。
そこには性と衝動が稚拙な気取った文章で描かれ、時折、際どい写真や動画なんかも張り付けられている。
ルイス・キャロルなんかが好きな彼女は、その中にお気に入りの書き手を見つけた。
その書き手の文章が特に優れてた訳じゃない。
ただ、独特の熱と独特の冷たさ。そんなものが同居しているのが、意外に気持ちよかっただけ。
彼の日記を読むうちに、彼女はいつの間にか彼の日記に出ている自分を想像してしまう。
見えない指が身体を這い、見えない角で穿たれる。
そこには熱と冷たさが渦を巻いて彼女を待ち受け、一度呑み込まれたら、あとはただ深い快楽の闇へ。
若い好奇心は倫理を越えて、ある日、突然、彼にメッセージを送ってしまう。
『あなたの好きな漫画、私も大好きです』
他愛のない言葉を掛けるだけでも、彼女の胸の動悸は早鐘のように鳴っていた。
だって彼女には分かっていたから。
この他愛のない言葉が、やがて訪れる淫靡な時間を連れてくる切っ掛けになることを。
しばらくすると返事がきた。
『そうなんだ!面白いものね、あの漫画』
返ってきた言葉も他愛ないものであったけど、二人にだけは違う意味にしか見えなかった。
そう。誘ったのは彼女。
オーダーが入れば料理人は料理を始め、ウェイターは食事を運ぶ。
客の彼女はただ喰らうのみ。
一週間もしないうちにお互いの予定を合わせ、逢った瞬間からお互いの粘膜を擦り合わすことに意識を集中させていた。
それって倫理的に最悪なことのように思うけど、倫理より欲望を優先させる僕には最悪も最高もないみたい。
『彼氏とどっちがいい?』なんて聞いてみるのも、それを聞いて自らの雄を誇示したいわけじゃなく、ただ目の前の彼女が浸りたい世界を演出してるだけ。
女の子が全てを棄てて性欲を充たすことに集中している瞬間。
汲めども尽きない快楽に自我を奪われ、淫らな言葉と動きと熱に融ける。
僕はそこに関わっていたい。
生の人間に触れる喜びは何ものにも替えがたい魔力を持っているのかも。
例えば、ある女の子のお話。
高校を卒業したばかりの、アルバイトと専門学校に追われる日々を送る普通の女の子。
大好きだけど時々喧嘩しちゃう彼氏がいて、不安と期待が毎日順繰りに彼女に触れていく。
彼女の密かな楽しみはインターネットという巨大な建物の隅に書かれた、落書きみたいな日記を読むこと。
そこには性と衝動が稚拙な気取った文章で描かれ、時折、際どい写真や動画なんかも張り付けられている。
ルイス・キャロルなんかが好きな彼女は、その中にお気に入りの書き手を見つけた。
その書き手の文章が特に優れてた訳じゃない。
ただ、独特の熱と独特の冷たさ。そんなものが同居しているのが、意外に気持ちよかっただけ。
彼の日記を読むうちに、彼女はいつの間にか彼の日記に出ている自分を想像してしまう。
見えない指が身体を這い、見えない角で穿たれる。
そこには熱と冷たさが渦を巻いて彼女を待ち受け、一度呑み込まれたら、あとはただ深い快楽の闇へ。
若い好奇心は倫理を越えて、ある日、突然、彼にメッセージを送ってしまう。
『あなたの好きな漫画、私も大好きです』
他愛のない言葉を掛けるだけでも、彼女の胸の動悸は早鐘のように鳴っていた。
だって彼女には分かっていたから。
この他愛のない言葉が、やがて訪れる淫靡な時間を連れてくる切っ掛けになることを。
しばらくすると返事がきた。
『そうなんだ!面白いものね、あの漫画』
返ってきた言葉も他愛ないものであったけど、二人にだけは違う意味にしか見えなかった。
そう。誘ったのは彼女。
オーダーが入れば料理人は料理を始め、ウェイターは食事を運ぶ。
客の彼女はただ喰らうのみ。
一週間もしないうちにお互いの予定を合わせ、逢った瞬間からお互いの粘膜を擦り合わすことに意識を集中させていた。
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