ある日、私の郵便ポストに入っていた「不在通知表」。

これは、宅配便を配達しに来た配達員が、

不在だった家に入れて行くものだ。


私はいつも居留守なので、

間違いなく不在通知書で再配達だ。


不在通知書には、配達員の名前が書いてある。

その配達員の名前に、私は見覚えがあった。

高校の時、少しだけ付き合った彼だった。


彼の名前は珍しいため、

同姓同名の別人だろうとは思わなかった。

彼とは中学が同じだったが、話しをしたことは無かった。


彼は一言で言えばとてもクール。
すっきりした目鼻立ちで、かっこよかったので
女の子には人気があった。

高校1年の時に友達を通じて再会し、
私は、また更にかっこよくなっていた彼を

好きになってしまったのだ。


一目惚れなんて、今では絶対出来るものではない。

異性に求める条件が、年齢と共に複雑になってしまい、

たくさんのハードルを越えなければ

人を好きになることは出来ず、
外見だけで恋に落ちることはありえない。


自分のことを棚にあげて、求める条件だけは厳しい。

相手の外見よりも、銀行口座の残高の方が、

どちらかと言えば気になるのが現実だ。

誰かと絆を強くする前に、神経だけ図太くなってしまった。


私たちは高校の頃、友達の家にみんなで良く行っていた。

その友達の部屋は離れになっていて、

いつでも出入り自由、その家の主がいなくても、

誰か必ず友達がいる溜まり場だった。

時々彼の家にも行ったが、
私と彼は、その友達の家でいつも一緒に遊んでいた。


誰が主なのかわからないくらい、
それぞれ皆、その部屋に溶け込んでいた。

 
彼と付き合いだしてから1ヶ月くらい経ったある日、

私は溜まり場で彼と隣同士で並んでコタツに入り、
彼は壁に寄りかかりながらテレビを見ていて、

私は体育座りをしながら一緒にテレビを見ていた。
私の左隣には、いつも溜まり場で会う、

彼の友達の洋介君が座っていた。

すると、コタツの中で私の左手に洋介君の手が触れた。

私はぶつかったのだと思って手を引っ込めたが、
洋介君はすぐに私の左手を、ぎゅっと握り締めた。

彼は相変わらずテレビを見ている。
洋介君は、私の手を握りながら、

顔はテレビの方に向けたままだった。

私は強く握られたその手を振り払うことが出来ず、
コタツの中で、洋介君とずっと手を繋いでいた。

私は彼の隣で、他の男の子に手を握られていたのに、

嫌な気持ちがしなかった。
洋介くんは、福山雅治にちょっと似ていて、

背が高くて頭もよかった。


そんな彼だから、女の子によくモテていて、

自分に自信もあったからか強引なところがあった。

そんな風に強引なところがある洋介君が、

私は少し好きだったのかもしれない。
このぐらいの年頃の娘は、

少し強引な男に弱いものなのだ。


彼は、
私と洋介君が手を握っていることに気がついていない。
テレビを見ていても、

握られている自分の左手に全神経が集中してしまい、
内容なんてよくわからなかった。

3人はそのままテレビを見ていた。
静かに、長い時間が過ぎた。


彼がトイレに行った時、


私: 
洋介、手離して。」


洋介: 「嫌?」


彼の隣で他の男の子に手を握られていたなんて、
すごくドキドキした。


洋介君は私の左腕を引き寄せて、

キスしようと顔を近づけてきた。

その瞬間



ガチャ



とドアが開き、彼が戻ってきた。