推定17歳
薫からの手紙


どうもありがとう。
ドリカム大好きになったよ~。」

薫とは友達の友達みたいな感じだったので
あまり仲良くなかったが、
CD
の貸し借りをしたようで、
私が貸したCDのお礼の手紙をもらっている。

お礼の手紙に加え、きちんとCDを返してくれて嬉しい。
世の中には貸したものを返さない、
「お前のものは俺のもの」的な
“ジャイアニズム”を持ち合わせた人間が多い。

そういう人間は、貸したものも借りたものも忘れているので
貸し借りにうるさい人の気持ちがわからない。
私は貸したものも借りたものもきちんとしなくては嫌なので、
子供の頃友達に貸した「スーパーマリオ3」のソフトが
いまだに返って来ないことも覚えているし、
7
年前、九州に転勤する友達が、
最後にうちに遊びに来た時に忘れていった靴下も
きちんと袋に入れてとってある。

捨てていいよ、使っていいよ
を本気にしないのだ。
送るわけにもいかないし、
裕子、頼むから引取りに来てください。


当時私は、プリプリとドリカムが大好きだった。
特にバラードが当時の私にメガヒットで、
泣いては聞き、聞いては泣き、
恋する乙女には欠かせない必需曲ばかりだった。

今で言えば浜崎あゆみのように、
この二大アーティストは乙女のカリスマだった。

カラオケで「M」は500回以上歌い
「未来予想図Ⅱ」1000回は歌った。
今もアカペラで熱唱できる。
時々鼻歌として自然に歌っている時さえある。

この曲をカラオケで歌い遠い目をする女は、
どんなにごまかしたくても「三十路越え」間違いなしだが、

何か?


忘れたくても忘れられない。
それほど歌っていた。
当時の曲を聞くと、その時の思い出が蘇る。
曲が、こんなにも自分の記憶とリンクするとは、
子供の頃にはわからなかった。

若い頃は“懐メロ“なんて無関係だったのに、
父が石原裕次郎の「ブランデーグラス」を
母が美空ひばりの「悲しい酒」を聞いて、
遠い目をする気持ちが今はわかる。

しかしその遠い目の理由は、怖くて聞けない。
いや、聞かないのが礼儀だ。



今週はずっと彼氏とケンカしているから、
ドリカムの歌詞がすごくよかった。」

薫はとても綺麗な子だった。
目鼻立ちの整った美しい顔立ちに
陽に焼けない白い肌とサラサラの髪、
食べても太らない体に長い足。

念じても願っても努力してもお金を払っても手に入らないものを、
産まれた時からすでに持っていた。

少女漫画でよく、美女を表現するにあたって、
背中に薔薇を背負わせたり、
キラキラした星を目の中に書いたりするが
それももちろん備わっていた。


明子とは小学校から友達だったんだ。
明子面白いでしょ!
仲良くなると、もっと面白いよ。
今度うちの地元においでよ。
友達いっぱい紹介するから!」


明子は私の友達で、
この子を通じて薫と知り合った。
ムーミンが神様にお願いして人間になったみたいな子で、
薫とは正反対だったが、
かわいらしく誰からも愛されるキャラクターだった。

でも時々、ものすごく恐ろしい毒を吐き、人をバッシングしていた。
想像して欲しい。ムーミンの口から
「死ね、殺せ、犯せ、生きている価値がない。」などの
通常では口にすることのない腹黒い単語が吐き出されるのだ。

そのギャップが当時は面白かったのだが、
今となっては、たとえムーミンでも友達になりたくない。


明子と薫は高校から車で40分くらいの場所に住んでいて
電車通学だった。
私は高校から自転車で10分の距離に住んでいて、
普段の生活でも電車に乗ることは皆無に等しかったので、
電車通学の「定期」とか、「時刻表」はとても羨ましかった。


でも、今思えば通勤や通学に時間がかからないことは、
本当に素晴らしい条件のひとつになる。
「面倒なことを嫌い、楽なことをこよなく愛す」
なんの生産性も考えていなかった私が電車通学だったなら、
通学の大変さに、1ヶ月と経たないうちに退学していただろう。


この手紙で書かれている彼氏とは
私が薫と出会った頃からすでに付き合っていて、
ケンカしながらもいつも仲良く一緒に帰っていた。

薫の彼氏は、生物学的に言えば「女」に所属する。
制服があったため、薫の彼氏は学校ではいつもジャージだった。
だから外見は男の子にしか見えず、言われるまで気がつかなかった。

薫の彼氏は女の子にとても人気があった。
当然、ヴァレンタインデーには、漫画並みにチョコレートが殺到する。
男か女か、そんなことは関係なく、
人間的な魅力がとてもある人だったのだ。

薫の彼氏とは、ほとんど話をしたことがなかったが
卒業して3年くらい経った頃、
買い物にいったお店で、偶然薫に再会し、
その時もその彼氏と一緒だった。
彼女たちはずっと付き合っていたのだ。


薫の彼氏はますます男らしくなっていた。
ちょっと心が揺れるぐらいに。