推定15
洋子嬢からの手紙

中学3年の、秋の文化祭の話題だ。

結局お化け屋敷に決まっちゃったね。
あんまり面白くなさそう。」

意見は出さないが、口は出す。
プロ野球を応援しているオヤジのようだ。
金は出さないが、口は出す。

3組は映画撮るんだってよ。
3
組は男女仲いいもんね。」

映画といってもビデオカメラで撮影し、
教室のテレビで放映しただけだが、
確か、事件に巻き込まれて失踪した生徒を、
クラスメイトが救出するという、
中学校3年生が考えた脚本にしては、
なかなか素晴らしい内容で
文化祭では異例の大盛況だった。

対して私のクラスのお化け屋敷は、
教室をカーテンで仕切り、
まったく似ていないゲゲゲの鬼太郎や、
ゴーストバスターズのキャラクターなどを
紙に書いて貼っただけで、
唯一立体的なものといえば、
天井から吊るしたゲゲゲの一反もめんと

黒いマントをかぶった脅かし役の男子生徒だけだった。
やる気も努力も感じない、
悲しい作りとなっていたことを思い出す。


みるからに“やっつけ仕事”で、
水木しげるに申し訳ない。
真っ暗にする意味さえわからない


昨日はごめん。
お母さんがうるさくて、話もできなくて。
部屋に電話が欲しいって言ったらダメってさ。
聞かれたくない話もあるって言ったのに、
聞かれたくない話ってなんなのって怒られちゃうし。」

彼女の家も、居間に電話があった。
彼女の部屋に電話を繋ぐことができたので、
居間の電話を自分の部屋に持って行き、
繋ぎなおして私と電話していたのだ。

当然母親にみつかり、電話はその場で没収。
話もそこそこに、あわただしく電話を切ったのだ。

子供にとって、親は絶対だ。
いくら違うと思って主張しても、
それは子供のわがままで、
親への反抗にも、ある程度限界があった。
家庭ルールの決定権は、すべては親にある。

私はその自由奔放な性格ゆえ、
人の決めたルールに従えない欠点があった。
協調性に乏しく、世間知らずな私は、
一人でも生きていけると本気で思っていた。
親の決めたルールが窮屈でしかたがなかった私は、
愛されて育った過去を捨て、それに気付きもせずに
家出のように家を出てしまった。
自らがルールで、誰に怒られることもない。
初めて手にした自由が本当に嬉しかった。

家出して両親からの連絡を拒み
友達の家に入り浸っていたが、

半年後、ようやく両親に会いに行った。

当然怒られると思っていた私に両親は
子供の自立を支えてあげることは親の務めだから。」
といって、
アパートを借りて
生活用品を揃えるだけのお金を渡してくれたのだ。


これからは自分でしっかりやってみなさい。
でもここは美奈子の家だから、
帰ってきていいからね
。」

親の世話にならないこと、
それが自立だと思っていた。
しかし、親を安心させられる自分であること。
それが本当の自立なのだ。

大人になってからの両親は、
私が決めたことに反対したことはない。
たとえ親の考えと違うことを私が決めても、
それが世の中から否定されるようなことでも、
私を信じ、どんなときも味方になってくれた。

反対し批判することは簡単だ。
しかし、信じ、見守り、待つことは
本当に愛していなければ出来ない。

美奈子が幸せなら、私たちはそれでいい。
たとえそれが悪いことだとしても、
私たちが反対したら、
美奈子は一人ぼっちになってしまう。

親はいつでも自分の子供の味方なんだよ。

もしかしたら、私をそこまで愛してくれるのは
両親以外にいないのかもしれない。

私は誰かを、こんなふうに愛せる時が来るのだろうか。
そんな時が来ることを願いつつ・・・。