推定15
洋子嬢との交換日記


3ヴァレンタインデーの頃だ。
試験は終わったものの、
合格発表まで落ち着かない気持ちが書かれている。

洋子嬢は
あー、早く発表終わってくれないかな。
それで、合格が決まった人は
もう学校に来なくていいことになればいいのに。」

叶わぬ願いが相変わらず好きだ。

そして私は、

月曜日が発表なんだ。
合格しているか不安で、
落ち着かないよ。
もう駄目だったらN町で働くよ。」
N町は、私の住んでいる県の、
夜の繁華街の名称で
卒業したら水商売をしようかな、
と冗談で言っているのだ。
水商売に対してそれほど抵抗もなかったし、
半分冗談だったが、まあそれもありかなと思っていた。
担任と2人でした進路指導の時には

学校も規則も嫌いだし、勉強しても楽しくない。
だからそのうちN町で働くから、先生飲みに来てよ

担任は、ひと通り杓子定規な進路指導をした後、
じゃあ、美奈子はU高校とS高校に絞って受験な。
それで駄目だったらN町な。」
笑って言っていたが、
美奈子は社交的だから、
客商売はきっと向いていると思うぞ。
と付け加えた。

この時は冗談だったが、
私は自分の明言どおり?
20歳の頃、N町で2年半ほど働いたことがある。
ホステスの仕事は大変だった。
お客様を、最高にいい気分にさせてもてなすのが仕事。
私のいたお店はクラブで、
お客様の年齢層も高く、
合コンの延長のようなつもりでいては
勤まるお店ではなかった。

外見だけでなく、内面の美しさ、教養、
機転の速さ、細かい気配り、記憶力、センスのよさ。
本気でやろうと思ったら、どんな仕事もそうだと思うが、
ホステスは、女のプロだ。
中卒の、若さ以外に何も持たない世間知らずの子供が、
勤まる世界ではない。

もちろん、その世界で若さは最大の評価をもらえるが

いつか無くなるものにしがみついてやっていける世界ではない。
いろんなことから逃げることしかできなかった無力の私は、
何をしてもやっぱり逃げ出したであろう。
駄目なやつは、何をやっても駄目だ。


洋子嬢は、
3番にヴァレンタインデーに
チョコレートをあげようか迷っている。

絶対直接渡せないよ!
あげても、もらってもらえなかったらどうしよう!
あのさ、朝自転車のカゴに入れてきちゃう
っていうのは駄目かな。
今は名前を言えませんってメモ残してさ・・・
あーでもあげるっていうだけでドキドキしちゃうよー。
もし私が男だったら、ヴァレンタインデーは
何個もらえるかって絶対ドキドキしちゃうよ。」

なんで、私が男だったらって、
ありもしない仮説が出て来るんだか
本当に不思議でしょうがない。
もう、どうでもいいから、まともに渡す方法を考えて欲しい。

その後も洋子嬢は
自転車戦法か、
優子に3番のかばんを持ってきてもらって入れちゃうか、
(勝手に)宅急便で送るかの3つなの。
匿名で、っていうの駄目かな。

全部だめ、どれも駄目、却下!
絶対に、自転車戦法も、かばんに勝手に入れるのも
宅配便なら尚更、
匿名じゃ、怖くて食べてもらえないに決まっているし、 

 

私なら絶対に食べない。
噛んだ瞬間爆発、ドッカーンとか、絶対に怖い。
日記を読むと、
ただでさえ3番にとって洋子は"OUT OF 眼中"
匿名じゃなくても捨てられるかもしれないんだぞ。

もしも私が男なら、とか言うなら、

自分が匿名の贈り物された時の事を考えて欲しい。
戦法とか、もうどうでもいいから、
いさぎよく直接渡せ。

そして私は誰にチョコレートを渡すのかといえば、

カズちゃんという男の子のようだ。
ヴァレンタインデーにカズちゃんに電話して
外に出てきてもらい、チョコを渡す計画だ。
勇気ある自分に乾杯!

チョコを渡す前日、

爪磨きで爪をピカピカに磨いたよ
と書いてある。
進学のために勉強はしないくせに、
チョコを渡す指先のことは考える。

 

そういうことばかりにぬかりがない。
その次のページには、
肝心のヴァレンタイン当日の実況が書かれている

ヴァレンタイン当日 
PM3:00
カズちゃんに電話をしました。

美奈子:「あの、渡したいものがあるので、
      ちょっと出てこられませんか?」
カズ:「あ、じゃあ近くにセブンイレブンがあるでしょ?
    そこの駐車場でいい?

そして自転車でカズくん登場!

美奈子:「あ、あのコレ・・・」
カズ:「ありがとう」
受け取ってもらったよ~。

キャー、乙女の恋。

好きな人にチョコレートを渡すなんて、
本当に恥ずかしくて一大決心だった。
当時は、好きな人を思うことが純粋に楽しかったのだ。

私とカズくんは、その後どうなったんだろう。

そんなのばっかりだ。