推定17


アキラくんからの手紙





31日と日付が書いてある。

この膨大の量の手紙の中で日付が書いてあるのが珍しい。

内容が内容だけに、決意を示すべく日付を書いたようだ。

ご丁寧に、AM233です。と書いている。

寝ずに書いたものだ。

手紙の内容によると、私はアキ君に、別れを切り出したらしい。

しばらくブレイク期間を持ちたいと、

アキラ君と電話で話した次の日に書いた手紙のようだ。



あれから美奈子との今までの1年について考えていました。

今の状態では、やり直しても長い付き合いはできないだろうね。

俺にとって美奈子の存在はとても大きかった。

電話では、やり直しても50%しか美奈子のこと

好きになれないって言ったけど、あれは・・・

本当は、100%大好きです。

1年でも、10年でも、死んでも電話待っているからね。

気持ちがまとまったら電話ください。

美奈子を一生愛しています。美奈子は俺だけをずっと見ていて欲しい。

だから俺の愛に答えて欲しい。



そろそろ恥ずかしいのでこの辺にしてほしい。

この後の手紙にも、別れたくないという気持ちが

延々と書き綴られており一生分言ったのではないかと思うほど

“愛している“の大安売り状態だ。

安いよ安いよ~、金利も手数料も僕が負担するよ~



俺はこんな終わりかたはしたくない。

美奈子もそう思っているだろ?

俺が美奈子の一生を握っているとしたら

俺はもう一度たりとも美奈子を後悔させたくない。

俺は一生、美奈子の事だけは嫌いになれないし

美奈子だけを愛している。



もうね、愛しているとか好きとか言い過ぎです。


私はアキラ君が好きだったはずなのに、

なぜかその気持ちも、二人の付き合いもマンネリ気味になってしまった。

ひたすら優しく、私だけを好きだといってくれているアキラ君に、

物足りなさを感じたのだ。

贅沢である。

私の気持ちが離れたことを感じると、アキラ君は私を束縛するようになり、

私はそれが窮屈で外へ刺激を求めた。

私はアキラ君を心から信頼していたし、彼もそうだった。

そして、彼は私を嫌わないだろうという絶対的な安心感があった。

家族に対して持つ感情と同じものがあったのだ。

だから喧嘩しても、どんなひどいことを言っても、

自分がどんな態度をとっても

彼に嫌われ、彼を失うのではという不安を感じたことがなかった。

今思えば、彼と付き合っている間、

私は、ずっと安らかな気持ちだったように思う。

その絶対的な安心感は、

私の恋するドキドキした気持ちを消し

私たちを男と女ではなく家族にしてしまった。

アキラ君が好きなのに、ときめかなくなったことが、

このブレイク期間の原因だ。

ずっと男と女でいたいなら、

嫌われてしまうのではないかという

謙虚さみたいなものを持ち続けることは絶対に必要だと思う。

私の友人で、旦那様と5年間セックスをしていない夫婦がいる。

もう、旦那様とセックスするのは気持ち悪いらしい。

よく、男の人で自分の妻とセックスできなくなる男性がいる。

奥さんは母親と同じ感覚で、女ではないと。

家族としては必要だけれど、

女としては必要じゃないなんて口に出したら総攻撃されそうだ。

というか、私がする。

彼女はそういうことを言う男の人の気持ちがよくわかるという。

彼女にとって旦那様は必要な保護者で、

変わらぬ無償の愛をくれる大切な相手ではあるが、

男ではないらしい。家族なのだ。

「お父さんとはセックスしないでしょ」

確かにそうだが、そんなに信頼できる相手を旦那様に出来るのは

羨ましく思う。


31AM 3:41今日はこのまま寝ません。

いえ、寝てください!

最初の手紙から1時間、実況中継で手紙を書いているのが笑える。

この1時間、今まで私と交換した手紙を読み返していたと書いている。


まだ1日しか経っていないのに、1年にも感じる。心が涙でいっぱいだよ。
本当、今すぐに会って抱きしめたい。

こんなことが、もう二度とありませんように。

美奈子の笑顔が1日も早く見たい。

1秒でも早く電話をください。

俺は付き合い始めたときから、

ずっと永遠に美奈子を幸せにすると決めていたよ。

だから俺のところに戻って欲しい。



もういい加減、うっとおしいというか、ウザイ。

好きな人からの手紙なら嬉しいかもしれない。

しかし今、私はアキラ君を好きではないので

読み返すと非常にうっとおしく、

時々ストーカーちっくに思える部分もあって

申し訳ないがちょっと気持ち悪い。


しかも、もうこんなことが二度とありませんようにとか
早く電話をくださいとか
よりを戻すことを前提に手紙を書いていることが

大変腹立たしい。


彼女が時間をおきたいと言っているのだから、

黙ってほっといてやれ。
男ならすがりつくんじゃない!

当時の私はこの文章をどう思ったのだろうか。

この頃、好きな人に「幸せにするよ」と約束してもらうことは

乙女の憧れのセリフだった。

この一言で、2週間ぐらいは天国気分だったであろう。

しかし15年以上経った今

誰かに幸せにしてもらおうとするのは、

いい加減やめたほうがいいと思っている。

待っていても、自分の望む幸せをひたすら与えてくれる人はそういない。

幸せな未来にたどり着くには、

今この瞬間の、自分の積み重ねが大切なのだ。

誰が作るものでも、してもらうものでもない。

自分が選んでいく自分の人生。

自分のことは、きっと自分にしか幸せに出来ない。

この後、アキラ君とはもう一度やり直すことを決め、

私たちはその後2年半付き合ったが

結局別れることとなり現在に至る。