推定15歳
洋子嬢からの手紙


彼女はこの時も3番が好きなようだ。

この手紙では、重大な事実が発覚している。
3番の好きな女の子の名前が、
クラスのおしゃべりな男子「慎介」によって発覚したのだ。

その事を聞かされた洋子嬢。
手紙には怒りと悲しみが、怖いほどに書き連ねられている。

慎介を呪い殺したいとまで書かれてあり、
友達の好きな人を無駄にばらしただけで呪い殺されては
慎介も、とんだとばっちりだ。
洋子嬢の怒りの矛先が、どう考えても間違っている。

行き場のない気持ちに整理を付けられず、
この手紙はすべて支離滅裂な文章になっている。

この手紙で彼女はいくつか、3番への熱いポエムを書いている。
私があなたに告白しても、あなたは彼女のことが変わらず好きですか?

みたいな、相当強気な発言を交えたポエムも書いている。

本当に傷心の女だとは思えない。

私のポエムも恥ずかしいが、洋子のポエムも相当恥ずかしい。
しかし、いくつか勝手に公表することにする。

あなたのその
遠くを見つめるような目で
私を見つめてください。
あなたを思うと、夜も眠れない
あなたって、罪な男ね


いまどき、というか、当時でさえ
罪な男なんていう表現は、厳しい表現だったはずだ。
すっごい昔の演歌みたいで震える。
自分を好きにならないことを犯罪だとしているあたり、
まだ傷心ではない上に傲慢なことがわかる。


いつもベランダでお星様に言うの
そうするとあなたの顔が映るの
きっとあなたは私のお星様なのね



そのお星様(3番)は、泉ちゃんという女の子が好きなようです。
好きな男の子をお星様に例えてしまうあたり、
突っ走ったロマンティックさを感じる。

見えないものが見えるようになるのは危ない。
お星様ではなく自分をかえり見て欲しい。


3番は結局、気の多い洋子嬢の一時の流れ星になって消えてしまうが、
このポエムの後には、「3番のバカー」と14回大きな字で書かれている。

思い通りにならない恋愛に行き詰まり、
行き場のない怒りが「馬鹿」と「どうしてよー」で延々と表現されている。
ボキャブラリーの乏しさに、読まされる方は苦しい。

15歳じゃなくても、上手くいかない恋愛のもどかしさや怒りは
いくつになってもある。


この当時の「好き」は、今の好きとは違うけれど、
私たちはその、誰かを好きな気持ちに一喜一憂し、
相手の一言で天国になり地獄になっていた。

愛とは何か。
まだそのツラさも喜びも知らなかった、遠い日の私達。

人を好きになると、苦しくなる。
その人は自分じゃないから、自分の思い通りになることはない。
だからこそ、相手の心に沿うことが、きっと大切だ。