推定13歳
美里嬢の手紙

新潟に転校していった美里嬢からの手紙だ。

いきなり
TO 植木美奈子様

しかし、私の苗字は植木ではない。
私の好きな植木君の苗字を私の名前にくっつけると言う
乙女ならではの悲しい自己満足だ。

う、うらやましい!デートだと?
そんなことして、まわりにひやかされん?
うちらひどいの。
私の名前を信也君が
“美里ちゃん”ってちゃん付けしただけで  
“あつい“ってひやかされちゃって・・・。

この流れで読むと、
まるで植木君とデートするかのような書き方だが
どう思い出そうとしても、
私に植木君とデートした記憶はない。
私は誰とデートすると自慢していたのだろう。

もう、乙女の妄想で嘘までついたんじゃなかろうか?

この後、クラスメイトの仲良しを
男女合わせて13人
フルネーム、住所つきで紹介している。
住所を書くくらいなら、それぞれの特徴や
性格を書いてくれればいいものを
そのことについては一切触れていないので
手紙の真ん中は、まるで名簿のようになっている。

この他の人は最低よ!
武田なんて、ペンを借りただけなのに
「人のを勝手に使うな!」って
すっごいマジで怒るんだよ。
私はその時知った、あいつが人間だということを。

ペンを貸さなかっただけで、
300キロ以上離れた友達にまで
人間以下だと悪評を広められてしまった武田君を
気の毒に思う。

けどね、先生に言われたんだ。
7組の女子は男子に興味ありすぎだって。
だから最近はおとなしくしてる。

おとなしくしていなかったらどうなのだろう?
先生が興味ありすぎだと思うその行為に興味がある。

三神先輩は、すごくかっこいいよ。
モテるし、自覚しているから。写真見るだけでもいい!
今度写真送ってあげようか?
絶対誰もがいいって言うと思う。
学校でも1番モテるんだ。


300キロも離れたかっこいい先輩の写真を
見せてもらってもどうにもならないのだから
送るだけ無意味である。
かっこいい事は美里嬢の話で十分わかったので
無駄な手間はかけなくていい。

この間、中野とサポーター買いに行ったら、
中村先輩に偶然会ったの。
目が合っちゃって恥ずかしかった~!!
でもね、中村先輩は彼女いるって噂。
日野先輩は女嫌いで彼女いないかと思ったら
ちゃんといるの・・・。
やっぱり先輩は駄目だ!
同学年じゃなくちゃ。
同窓会で会えないし。

いったい何人気になる人がいるのだろう。
知らない名前がじゃんじゃん出てきて、
まるで話しについていけない。

しかも何十年後かの
同窓会の心配する意味がわからない。

美奈子、植木君にプレゼントあげなよ!
絶対喜ぶよ。

それじゃね~。
植木君と仲良くね。

By
野口美里
三神美里
中村美里 
日野美里
本木美里

どれでもええよ♪

よくない!
どれでもとか言われている
先輩たちのことを少しは考えろ!
しかも、嫁に行く気マンマンでちょっと怖いじゃないか!

多分、最後の本木はシブガキ隊の
モックンだと思われるが、
彼女にとっては、
かっこいい三神先輩もモックンも同じ存在で
憧れの域を超えないのだろう。

植木君と仲良くねって、書かれているのに
植木君との大切なデータは、
私の頭の中で失われていることが怖い。


実は、大人になってから
私は電話で植木君と電話で話したことがある。
2年位前のことだ。

私が子供の頃、
時々他に好きになった人がいたとはいえ、
5年以上は好きだった植木君。

私の友達が偶然植木君に会い、
一緒に飲んだらしい。
そして電話がかかってきたのだ。

いくら昔のこととはいえ、
植木君は、思いを遂げずに会うことがなくなった、
私の大切な思い出の中の人である。
こうして15年以上経った今でも
植木君は私の中に強く残っている。

もしもし?

あの頃と変わらない、懐かしい声。

元気なの?久しぶりだね。
聖子ちゃんカットの美奈子ちゃんでしょ!



当時は恥ずかしくて話すことも出来なかった彼と、
私はいろんなことを話した。
もちろん、彼が8月生まれの獅子座だということも、
中3の修学旅行で風邪をひいて
最後の日のすき焼きが食べられなかったことも、
私が植木君を好きで好きでたまらなくて、
ストーカーのようだったことも
全部冗談ぽく話して、私たちは笑い合った。

なんだよ、言ってよー。
って植木君は言った。

言ったよ!
いや多分何度も言ったぞ!

やっぱり妄想だけが先走って、
植木君には伝わっていなかったのだろうか?
ならば、私の手紙の中の
植木君への思いは何だったのだろう。
手紙を読むたび自分に教えてあげたい。
もっとアピールしなくては、
自分という存在が植木君に残ることはないということを。

その後、植木君とは連絡をとることはなかった。
友達から
植木君から美奈子の電話番号教えて欲しいって
言われたんだけど教えてもいい?

と電話をもらったが断った。

あんなに好きだった植木君。
でも、今の私とあの頃の私は違う。
もちろん、懐かしさがこみ上げて、
会ってみたい気もしたけれど、
私の中の植木君の姿は、
野球部で頑張っていた、
あの頃の植木君のままであってほしい。
そして、私自身もあなたの中で
聖子ちゃんカットの私であって欲しい。


あなたは永遠に変わらない、
私の大切な思い出です。