推定15

洋子嬢からの手紙

 

 

クラスのお金持ちの子の家を見に行ったと書いている。

 

とても大きな家で驚いたらしく、その感想が書かれてあり結構笑える。

 

「大きな家で掃除が大変そうだよ。」

 

そんな庶民ぽい心配をしなくても、

掃除はお手伝いさんがやるに決まっているので、心配はいらない。

 

双子なのに、自分の部屋が別々にあるらしいんだよ~

と書いている。

 

まったく貧乏くさい発言だが、実は私もそう思った。

 

実際大人になってから、偶然その子の家の前を通りかかった事がある。

体育館のような家のガレージに、

ドイツやイタリアの高級車がずらりと並んでいた。

 

男の子兄弟の家だったから、車の趣味もさまざまだ。

欲しいものを欲しいままに手に入れる生活は

彼らにとって当たり前のことだ。

 

この双子には1つ年上の姉がいて

その姉は、私が幽霊部員として所属した、テニス部の先輩だった。

 

かけたパーマが気に入らないからといって早退したり

買い物へ行くから部活へ来なかったりする人だった。

お嬢様は無敵だ。

 

テニス部でお金持ちのお嬢様というと

「エースをねらえ」のお蝶婦人、

竜崎麗華のような縦巻きゴージャス美女をイメージするが

その先輩は、お蝶夫人には程遠いと言うしかない容姿を持ち

“自分に甘く、他人には厳しく”という信念のもと、

後輩いじめに熱心な人だった。

 

テニス部の後輩からは一番嫌われており、

尊敬も信頼もされていなかった。

 

どこにでも見当違いに先輩面するやつはいる。

 

 

お金持ちの双子を羨ましがった後は、

おまじないが成功せずに怒っている。

 

当時私たちの間では、おまじないが流行っていた。

 

この手紙にも書いてあるが、

シャーペンの芯を、自分の名前と彼の名前の数だけカチカチ押して、

ノートに書いたハートを長い芯で塗りつぶし続け、

芯がなくなったら思いが通じる。というもの。

 

二人分の名前の芯の長さは案外長く、

上手くいくことはほとんどなかった。

 

この手紙で洋子嬢も一度も成功しないと嘆いている。

 

でも、もし成功しても、塗りつぶした達成感が手に入るだけで、

思いが届くことは絶対にない。

 

他にもおまじないはたくさんあった。

白い紙に、目のない鳩の絵を書いて川に流し、

その時好きな人と両思いになる事を心で強く願う。

そして、願いが叶ったら鳩に目をあげることを約束するのだ。

 

その後、両思いになったら必ず紙に書いた目を同じ川に流してあげると、

その人と永遠に結ばれる。というおまじない。

 

かわいそうだから、最初に鳩の目も一緒に流してあげなさい!

 

それから、好きな人の名前を金色の紙に書いて、

好きな人の家の方角に貼っておく。

すると、相手が自分の夢を見るというおなじない。

私は半年ぐらい貼り続けていた。

ある意味呪いである。

 

おまじないなんてするくらいなら、ラブレターを書けと思うが

当時の乙女は、好きな人との妄想を

果てしなく繰り広げるのが主で

実際に付き合ったり告白したりという行為は

二の次だったのかもしれない。