221・「はやぶさ」の帰還 ⑥

イトカワのサンプル採集にあたって、
日立グループには様々な課題が突きつけられた。

サンプルを大気にさらさないこと、また、
そのサイズがマイクロメートルという極小のものだということ。

しかし、この克服は多くの新たな技術やノウハウをグループにもたらした。
「サンプルを大気に触れさせずに観察するために使われた、

電子顕微鏡の雰囲気遮断(※外界の大気からサンプルを遮断する)システムは、
現在、さまざまな素材開発のための分析ツールとして産業用に使われています」(田中氏)。

例えば、リチウムイオン電池に使われる負極材料は反応性が高く
大気に触れると化学反応を起し、変質してしまう。

電池内部の反応状態を直視し、解明することで、
より高性能なリチウムイオン電池の開発につながる。
従来、大気下で、リチウムイオン電池の挙動を電子顕微鏡で観察するのは難しかった。

 ところが、電子顕微鏡の雰囲気遮断システムを使って、
アルゴン、窒素などの雰囲気下で密閉し実現すれば、リチウムは変質を起こさず、
その反応を観察することができる。

「リチウムイオン電池のほか、燃料電池、有機ELなど、
センシティブな材料の観察が、各企業、大学等の研究開発では現在増えています」と、

話すのは日立ハイテクノロジーズの鳥居久展氏である。

電子顕微鏡の雰囲気遮断システムによって大気にさらすことなく反応状態を解明し、
開発された素材は、これからの日本の競争力を高めてくれるに違いない。

 鳥居氏が続ける。「イトカワのサンプル解析には、
当社の集束イオンビーム加工観察装置(FIB)も使われています。

本装置でサンプルを断面加工、スライスして、
電子顕微鏡などでサンプルの解析を行うのですが、

こちらも他の産業への応用、開発に携わる多くの顧客で活用し期待されています」

日立ハイテクノロジーズのFIBは、100ナノメートル以下の
精度で物質を加工観察することができる。

また、サンプルの任意の場所から、マニピュレーション(操作)して
サンプルを摘出することも可能である。

  こうしてみると、はやぶさプロジェクトへの取り組みによって、
様々な 技術分野が刺激され、新たな技術やノウハウが生み出されたことがわかる。

先に挙げた科学的意義や社会的意義に加え、こういった技術的意義も、
はやぶさプロジェクトが生み出した大いなる成果だといえよう。

日本経済新聞 日立ハイテク PR より