オ まとめ
以上のとおりであるから,本件マンションの購入,取得及び公金の支出については,何ら取得目的が認められない。
それゆえ,本件マンションの購入,取得及び公金支出は違法である。
(3)本件マンションを取得した価額が著しく高額で,違法であること
ア はじめに
仮に(2)の原告らの主張が認められず,本件マンションを購入する何らかの目的が認められたとしても,特に購入することで総合体育館の建築計画が有利になる要素はなかったことを踏まえると,著しく過大な価額で購入されたのであるから,違法である。
地方財政法4条1項は「地方公共団体の経費は,その目的を達成するための必要且つ最少の限度をこえて,これを支出してはならない。」と定め,地方自治法2条14項は「地方公共団体は,その事務を処理するに当つては,住民の福祉の増進に努めるとともに,最小の経費で最大の効果を挙げるようにしなければならない。」と定めている。特別区の長たる大田区長はこれらの原則に従って事務を執行する義務を負う(地方自治法138条の2,283条)。すなわち,土地取得の必要性との相関関係によって,土地取得価額が高すぎる場合には,違法となる。
以下のとおり,本件マンションの購入(取得)目的に対して,本件マンションを購入した価額はいずれも著しく高額であり,違法であることは明らかである。
イ 更地価格で購入すべきであったこと
そもそも,土地を利用することのみを目的に当該土地を購入する場合,更地として評価し,更地で購入することが原則である。仮に,建物を含む価額で購入することが認められる場合があるとしても,それは建物価額を超える具体的効果が明らかになっている場合に限られる。
そうである以上,具体的な効果が何ら明らかとなっていない本件マンションについては,本件マンションの敷地の価格のみで算定した価額で購入すべきである。
それゆえに,更地価額で購入せず,建物価格を含む価額で購入したことそれ自体が違法である。
ウ 更地にする費用を差し引いていない点で違法である
本件においては建物を利用する計画はまったくなく,購入後ただちに更地として利用することが予定されていた。
そうである以上,大田区にとって本件マンションの価格として適正な価格は,更地にするための費用を差し引いた価額であるべきである。
解体工事の費用を考慮せず,5億1452万6550円で購入した契約,財産の取得及びそれに基づく公金の支出は,著しく高額であり,違法である。
エ 著しく高価な価額で購入しており違法である
本件マンションは,昭和54年に新築されたマンションである。大田区が本件マンションを購入するまでに,分譲後約30年が経過している。
そのため,仮に建物付きで本件マンションを購入することが認められるとしても,本件マンションの建物価額は相当程度減額しているものと考えられる。
このような状況を反映して,当該マンションの市場取引価格が形成されており,本件土地が大田区総合体育館に不可欠なものではなかったことからも,これと著しく離れた高価格で購入する合理性は全くない。
本件マンションを全体として購入した場合でも,当時の市場価格は3億2000万円程度の価額であった。
それゆえ,本件購入価額は適正な価額と比べて著しく高いのであり,違法である。
オ 補助金の返還相当額を差し引いていないこと
本件マンションのうち,104号室及106号室は東蒲田一丁目町会が所有していた。これに関連して,昭和59年3月23日付けで,大田区自治会町会館建設補助金交付要綱に従って,大田区は東蒲田一丁目町会に補助金として823万円が交付されている。
上記補助金は,東蒲田一丁目町会が,町会館等を建設等するための,補助金である。町会館の売却のように,補助金が交付された目的どおりに使用されなくなった以上,この補助金については返還を求めるべきである(補助金等適正化法22条参照)。
このように,大田区は,本来であれば,東蒲田一丁目町会から,本件マンションのうち104号室及び106号室を購入する際に,上記の補助金の返還として,相当額を差し引いた金額で購入しなければならなかった。
しかし,実際には,大田区はこのような処置を採らず,東蒲田一丁目町会から104号室及び106号室を購入した。
これは,補助金を差し引かなかった点で高額な買い取りとなっているのであり,この点で,違法である。
カ まとめ
以上のとおり,何ら必要性がないのに,本件マンションを5億1452万6550円で購入する契約を結び,本件マンションを取得し,公金を支出した行為は,適正な価額から著しく高い価額でなされたものであり,地方財政法4条・地方自治法2条14項に照らして,違法なものであることは明らかである。