家や空間、片付けは、"その人"だ。
その人に触れる機会になってしまう。家や空間や、"その人"やその人に関わるモノに関与する事で伝わってくるものがある。
そして"その人"たちも、訥々と今までについてを、話してくれる。
わたしはある奥様のご主人様が嫌いだった。奥様から聞く、ご主人様の言動、行動が妻を人と思っていないような、わがまま放題の5歳児のような、ことごとく人格否定と逃げの姿勢から来る攻撃性で、妻を苦しめていた。
"モラハラ夫"が服を着て歩いていた。
たまに見かける、境界線を侵してくる夫たちは一体何を求めているんだろう。
母親と同じように愛して欲しいのだろうか。
妻の興味関心が自分に向いてないことに腹を立てているのだろうか。
自分が優遇、優先されていないことに憤りを感じているのだろうか。
これが国と国との話であれば、完全に領海侵犯だ。相手の領域に土足で踏み込むどころか、武装して来やがってる事に気づかないのだろうか。
「此れより、フタフタマルマル、夜間攻撃を開始する。オペレーション俺流っ!」
俺流の誹謗中傷、罵詈雑言が降ってくる。
"俺の生き方戦車"に乗った45歳男児が、"俺の考え方ミサイル"や、"俺のいうことを聞け放射器"で攻めてくる。
はじめは戦っていた。
だがいくら戦っても戦いは終わらない。攻撃をやめてくれといっても俺流攻撃をやめない。夫の帰宅時間が疎ましくなる。愛は憎しみになり、憎しみは無を呼ぶ。そして情すらもなくなる妻。
夫側からしたら正当防衛か、もしくは自分の言うことをきかない妻への報復なのかもしれない。
意識はどんどん散ってゆく。
そんな気持ちが、自然と空間に表れていくから不思議だ。
例えば、
・部屋の隅っこにホコリが溜まっていたり、巾木の上のホコリなんかは目に見えない。
・排水溝が臭ってても気にならない、もしくは気にはなっているが対処をするまでの行動につながらない。
・気持ちが満たされていないのが、モノに表れて足すこと(増える、増やす)に行動をとる。増えると、増えたものを収納しておくナニカをまた増やす。(棚とか)
こんな風に視覚や嗅覚からどんどん鈍っていく。感覚に意識が行き渡らなくなるからだ。
きっとわたしに連絡をくれるお客様の何人かは、自分の感覚が鈍っていくことに限界を感じ始めた人なんだろう。
ある日の作業中、件のご主人様が帰ってきた。調子があまり良くないらしい。
わたしはご主人様には会いたくなかった。単純に気を使うし、私たちの作業にあーだこーだ言われたくなかったからだ。ふだん、家の事を考えてない人が思いつきであーだこーだ言うのはとても無責任だと思っていた。
わたしは深く深呼吸した。腰に手を当て、息を吸って吐いて自分の位置を確認した。
何にも影響を受けないよう、自分の位置を確認して、挨拶をして、すぐに作業に取り掛かった。
私たちの作業している脇でテレビをつけたり、お酒を飲んだりするご主人様になるべく影響を受けないようしっかりと空間を見て思考に集中する。ただ、この空間を良いものにするためだけに存在した。
奥様が気遣っているのがわかる。
ただそれにも影響されないよう存在する。
時折手伝ったり手伝わなかったりするご主人様を気にせずにただ淡々と手を動かした。
14時を過ぎた頃、ご主人様が、「そろそろ休憩を、、、」「お茶を出したりしないと、、、」と、奥様に声をかける。
「そんなのはいいんだって!私たちは私たちのペースがあるから」と返す。
少し静かになるが、やはりご主人様は休憩して欲しい。お茶を飲んで欲しい。
わたしを客人と思ってくださっているらしく、おもてなしをしたいようだ。
いつのまにか家をでて、いつのまにか帰宅していてお茶請けを買ってきてくださった。
「甘いものとしょっぱいもの。。。」
「三時の休憩を。。。」
「あったかいうちに食べて欲しいなぁ」
ボソボソとおもてなしの言葉を置いていくご主人様にとうとう私たちも折れて、同じテーブルについた。
行列ができる和菓子屋さんの羊羹と、人気の鶏肉屋さんのからあげを買ってきてくださっていた。
奥様はお茶を淹れてくれて、わたしはその日初めてまともにご主人様の目を見た。
嬉しそうだった。
同じテーブルについてくれたことがただ嬉しいのだ、彼は。地元の話や身の上話を他愛もなくする。時折、羊羹と唐揚げを勧めてくれる。奥様にも「一緒に座って。。。」と、とにかくテーブルを囲みたくて仕方がないのだ。
少しゆっくりとした時間をすごし、また作業に取り掛かる。
実はその日、あまりやりたくない作業を後回しにしていた。
テレビの移動だ。
ご主人様はテレビが大好きらしい。テレビが無いと息ができないくらいらしい。
前からテレビの位置やテレビ周りのことはわたしも奥様も気にはなっていた。でもなんとなく取りかからずにいた。なんとなくの気持ちの大部分を占めている"ある事"にうっすら気づいてはいたが、気づかないフリをしていた。
その日も気づかないフリをしていた。なんなら、わたしが帰った後にやって貰えばいいかな。とも思っていた。
時間が迫るにつれて、わたしともなく奥様ともなくなんとなくテレビを動かし始めた。
テレビ周辺のホコリが結構溜まっていた。
ホコリ
神棚から落ちてきた榊の葉っぱ
こんがらかった配線
よくわからない部品
これだ。
これが嫌だったんだ。
目に見えるホコリや配線も嫌だけど、そこに意識を向けようとしないまま滞留したエネルギーに触れたくなかった。それは、ご主人様が大好きなテレビだから。ご主人様の感情の琴線に触れることをしたくなかったんだ。
奇しくもテレビの上には神棚があった。
神様を祀っている真下にホコリとエネルギーが滞留していた。
もう一気に片付ける。
奥様が必死に取り掛かっている。声を出して一つ一つ確認しながら、その声は自分が飛んでいかないように、ここをどうにかするのはわたしだ!と言っているようにも思えた。
自然とご主人様の体も動く。
わたしはサポートしていただけ。
わたしがここだ!と思ったその場所を2人が一生懸命に整えて綺麗にしている。
「ああ、今日はわたしはご主人様に会うためにここに来たんだなぁ」と感じた。
ある程度断捨離が進み身動き取りやすい空間になったこの家に、"主"の意識を向けるために来たんだなぁと感じた。
ふだん家の事を考えてなくても
無責任にあーだこーだ言っても
それでもこの家の主なのだ。
主の意識を呼び起こし、家の隅々に息を吸わせる事が大事なんだった。
わたしは一日、自分が影響を受けないよう下半身に力が入りすぎていたようだ。でも、テレビ周りをきれいにし、夫婦が協力して空間を整えているのをみて、やっとハートを感じられれようになっていた。
ハートで感じるご主人の"不器用さや優しさ、昭和の男だなぁ、でもほんと悪い人じゃ無いんだなぁ。会えてよかった。"と、すごく満ち足りた気分だった。
駅まで送ってくれた奥様に、その話をしたら、奥様は苦笑いをしながら、
「ほんと、悪い人じゃないんだけどねー」
と言っていた。
ご主人様が今まで奥様に言ってきたりやってきたことは消えない。
そう簡単に許せるような事ではないと思う。
いつだってまた俺流の攻撃が始まるともわからないが、、少なからずその日夫婦は一つの作業を行った。巣を作る作業を共に行った。
わたしはそれを見る事ができてよかったと心から思っているし、帰りの車の中にご主人様が用意してくれた柿のお土産も嬉しかった。