車の横にいた嫁さんが静かに泣き出した



「いや…まだ決まったわけじゃあないから」



そう言ったが、僕もドキドキしていた






木橋から電話が来た



たまにうちを利用してくれる木橋



また疲れが溜まったか?






「おくやみ欄にさ、勇作の名前が喪主で出ていて、亡くなったのが龍くん14歳になってんだよ。おさむ、勇作の子供の名前分かる?もしかして勇作の子供?そうだとしたら本人に聞けないし…」



勇作の子…



2人いて…下の子がそれくらいの年齢になる…






連絡は回ってきていない



連絡がきやすいのは、地元で商売している僕か木橋のところが多い



僕も木橋も分からない






正直に、同姓同名の知らない勇作が喪主であればいいと思った







この年齢になると、年に1回さえも会わない友人が多くなる



その中でも勇作とは誰も連絡を取ってなかった






木橋と手分けして分かる人がいるか連絡してみた



勇作の長男だった



勇作の子供が亡くなった



きっと仲間うちで一番子煩悩だろう、勇作の子供が亡くなった






僕はよく家庭を大切にする男みたいに言われますが、僕なんかよりずっとずっと家庭人だった勇作



結婚して付き合いがパッタリ無くなり、葬儀くらいしか合わなくなった勇作



何よりも家庭の時間を大切にしてきたからだ






家族を守るため必死に働き、残りの時間は大切な家庭に費やしてきた勇作



そんな勇作の14歳になる龍くんが亡くなった






僕の大切な大切な友人の、大切な大切な大切な子供が亡くなった



勇作に死なれるよりショックだった



勇作の辛さを想像すると、悲しいなんかではすまされない恐怖感で胸がドキドキする






沢山の「死」を経験してきていますが、大切な友人の大切な子供が亡くなる経験は初めて



何事も経験しないと分からないとは、こんな時に味わってしまう



友人を亡くすより辛い







家庭人である男は、家庭を築き守る事が誇りであり勲章



自分の命と引きかえにでも守れる家庭がある事は、何よりもの宝物



自分の命なんて自分の為にあるのではなく、家族の為にあるもの



家族が悲しまないようにする為、家族が路頭に迷わない為に使う命



その宝物であり勲章である一部を失った喪失感



それを思うと身体が震えてしまいます



泣けてしまいます








これを読んでくださっている皆様



どうか今一瞬だけでも



龍くんの御冥福



そして勇作がこれからの人生



自分を責め続けないよう祈っていただけないでしょうか?







勇作へ



読んでるか?



勇作



本当に悪いんだけど、「自分の娘を失ったら…」なんて想像すらしたくないんだ



そんな怖い想像なんてしたくもないんだ



だから勇作



おまえの表現すらできない気持ちは、分かりようがないんだ



分かるわけないんだ



だから集まった皆は何も言えなかったんだよ



分かるわけないくらいの苦しみを、いま勇作は味わっている



「お悔やみ申し上げます」という言葉すら軽く聞こえ、ただおまえの背中をバンバンと叩く事しかオレにはできなかったよ



何も言えなかったよ



勇作がまたあの日のように屈託なく笑える日々がいつか訪れるよう



皆、心から祈ってる



皆、待ってるから