太田伸之氏のブログから③
前回は私がJOSEPHと仕事をしていた時代の彼の仕事ぶりについて、プロとしてのバイヤーについてお話しをしましたが、JOSEPHを通して見た日本のバイヤーのあり方について今回は書いてみましょう。
JOSEPHに限らず、インターナショナルに知れ渡ったお店はオーナー自らがバイングに立ち会い、自らの責任でオーダーをするとお伝えしましたが、日本のそれは逆のイメージがあります。
まだ個人オーナーが自らショップに立っているようなショップは自らの責任でオーダーをしているのですが、海外に比べるとそういったオーナーは少ないように思え、往々にして百貨店や大手グループのバイヤーさんがセクション分けをしてバイイングをする傾向が強いようです。
それらのセクション分けすること自体に問題はないのですが、総合的に店作りを見られる人がまだまだ少ないように感じています。
オーダーという仕事は、基本的にはオーナーでないと出来ない仕事なのです。
私がヨーロッパの幾つものブランドを担当している中で驚かされた日本人バイヤーの一人に、某大手の社員の方がいました。
その方は一人でヨーロッパにバイイングに来て、黙々と商品を見て、モデルに服を着せたものを写真に撮ってはなにやらレポート用紙に書き込んでいるのです。
展示会開催中、朝から晩までコツコツと仕事をしているのです。
我々サイドのスタッフが商品説明をしようとしても大丈夫ですとの一点張り。
マイペースでお仕事をしていました。
いよいよ展示会最終日にそのバイヤーさんにオーダシートを下さるようにお願いしたところ、今日までのレポートを日本に持ち帰って上司と相談してから最終オーダーをファックスで送りますとのお返事。
その場にいたスタッフ一同「????」状態です。
詳しく事情を伺うと、その会社では全てのバイヤーさんはオーダーをその場で行う権限がなく、バイヤーの方々は色々なブランドの展示会に行って、展示商品の詳細をレポートし写真を撮って報告書の形にまとめ、日本にいる上司と相談してがオーダー内容を決めるというシステムとのことでした。
商品に触ることもモデルさんに着てもらったものを見るでもなく、自分のスタッフが書いた報告書と写真でオーダーを入れる上司さん。
それで本当に良いお店を構成することが出来るのでしょうか。
出来たとしたら神業です。
でもバイヤーの方が、例え上司がオーダー内容を決めるにしても、もしそのシーズンの売上が悪いとそのレポートを書いたスタッフの責任になるのだそうです。
なんとも不思議な日本のバイイングシステムです。
まさか何処でもこんなシステムを取っているとは思いませんが、オーダーをすることの真剣味が余りに無い会社もあるものだと驚かされました。
加えて驚かされたのは、日本のお店に方へ伺って販売スタッフの方達からお話しを伺うと、商品説明も何もなく今シーズンはこれを売って下さいと本社から一方的に言われ、オーダー担当だった人もその上司もシーズン中一回も売り場には顔を出すことがなく、ただただ売り上げ報告書を見て一方的に文句を言われるばかりなのだそうです。
こういったことが日本の全てでは無いことを祈りますが、逆に、いかにファッションの扱いが酷いのかと言う良い例でもあると思います。
太田伸之氏が売り場の検証が如何に大切なことであるかを問うブログを読んで、今まで3回にわたりバイイングと売り場について私なりに申し上げたいことを書いてみました。
太田伸之氏のブログから②
ご存知のようにデザイナーは年に2回、(或いはメンズ、レディース両方なら年4回)先ずショー形式で新シーズンの作品をプレスとバイヤーに発表し、そして翌日或いは翌々日からバイヤーの為の展示会を行います。
予め全てのバイヤーのアポイントを取り付け、それぞれのスタッフが担当するバイヤーの来訪を待つのです。
Josephは必ず、私が何をしていようとショールーム会場へ着くと私を呼んでオーダーを付けるためにコレクションの紹介と説明をさせました。
それは他のアメリカやイタリアのバイヤーも同じでした。私、或いはセールス担当者と先ずコレクションを一渡り説明を聞きながら見渡し、それからラックをオーダーテーブルの所へ用意し、自ら、或いは自分のスタッフや我々セリングチームに手伝わせて荒選びをします。
あるシーズンのサブテーマが10ヶあったとしても必ずしも全ては選びません。自分の店の顧客に合ったチョイスをしていきます。
その折に顧客の顔が見えているオーダーと、自分が売りたい商品を分けて行きます。
顧客の顔が見えているオーダーは余り数が入りませんが、自らが来シーズンはこれを売りたいと惚れ込んだ商品はかなりの数量をオーダーしていきます。
とは言ってもクリエーターの商品故に何百枚、何千枚というオーダーではなく、多くても50枚程度です。
彼等を見ていていつも感心させられたことは、自分の必要なもの、欲しい物がハッキリと分かって選択していることです。
こちらサイドがどんなに薦めても、それが自分の店にとって必要でなければ振り向きもしません。
例えどんなにそのブランドが気に入っていても、欲しくない物はハッキリと「いらない」と言う、そこには自分のお店に対するプライドと顧客に対する頑固までなプロとしての意識があります。
日本に限らず海外からパリにセリングを志しに来るデザイナー達は申し合わせたように、例えばパリのエクレルール(L'Eclaireur)やコレット(Colette)が買っていくように、或いはオーダーを付けて貰えるようにして欲しいとの注文が入りますが、彼等は自分達が何を買うべきか、自分達のお店に合う商品とは何なのかを良く知っているので、幾らデザイナーが売りたがっても彼等の琴線に触れない商品は振り向きもしません。
他のバイヤー達の右へならえバイイングではなく、自分達のお店の為に頑固なまでにオーダー内容を見極めるのが本当のプロフェッショナルなバイヤーなのです。
彼等はお店を沢山増やすことを余り好まないし、海外に進出することも積極的には行おうとしません。
Josephに関して言えば、ロンドンに始めは1店、それから少しづつ増やしてロンドンにもう1店、パリにも1店、ニューヨークに1店、次にロンドンにも何店舗か増やし、パリにも2店目のショップを増やしましたが、基本的にはJoseph本人が自分の目の届く範囲に店があることが条件でした。
彼の1日はショップで始まりショップで終わると言っても過言ではありませんでした。
彼に言わせれば、ショップが自分のセレクトした商品を世間様に見せられる唯一の舞台であり、その舞台が何時も自分の気に入った素敵なお店でなければならない、誰が何時見ても直ぐにJosephの手が入っている(ウィンドウが完璧であること)と思って貰えることが大切なのだと言っていました。
もしお店がグチャグチャになっていようものならスタッフに雷が落ちて、彼はジャケットを脱ぎ捨てて直ぐにお店の整理とウィンドウ作りを始めたものです。
アポがあって約束の時間に遅れると横で私は焦っていても、先ず俺の店が完璧でなければならないと言う信念を持っていました。
フランチャイズ化の話もありましたが、やはり最後には自分の目が届かない、或いは自分の意志が通じない人との仕事を好まず、駄目になったケースがありました。
自分がバイイングした商品を自ら各店舗を走り回ってセリングをしていたJosephには頭が下がることが幾度となくありました。
私が1997年にJoseph Japanを作り、その責任者になれたのは、Josephの頑固さに惚れ込んだ私の気持ちが通じたからでしょう。
そして、その辺りの経緯については後日に譲ることにしましょう。
太田伸之氏のブログから①
先日経済産業省が進めるクールジャパン機構の社長に就任した大田伸之氏が「大田伸之の売り場に学ぼう」というブログを運営されています。
今日はまず、私のブログを読む前に大田氏のブログを読んで頂きたいと思います。
≪ http://plaza.rakuten.co.jp/tribeca512/diary/20131123/ ≫
(2013年11月23日 Vol.700 定数定量をなめたらあかん)
このブログで大田氏はもの凄く分かり易く「定数定量」について説明されており、ブログの中でも「定数定量をなめたらあかん」と言われています。
このブログを読んで感じたこと、それは正に日本のバイヤーの欠点部分です。
大田氏は“定数定量の意識がないアホバイヤーが”と手厳しく言われていますが、日本の百貨店であろうが大きなセレクトショップのバイヤーであろうが、オーダーの仕方が余りにおかしい。
幅広く安全牌を狙ってのオーダーはメリハリがなく顧客に飽きられるであろうし、変に絞ってもこれまた顧客を無視した商品構成になってしまいます。
しかし日本のバイヤーの多くは(個人で小さくやっているお店は除く)ただ売ることだけのバイイング、売れ筋狙いですが、多くの場合バイイングした本人が何処まで自分の買い付けた商品をしっかりとフォローしているのか疑問に思うことがあります。
日本の大手のお店では本当にバイヤーが自分の買い付けた物を丁寧に見ているのでしょうか。
私にバイイングと店頭で売るということが何かを学ばせてくれたのは、私がYohji Yamamoto Parisに居たときのバイヤー達です。
特にロンドンのJOSEPH Shop オーナーだったJoseph Ettedgui氏、ニューヨークCHARIVARIiのオーナであったSelmaWiser夫人、ロスMAXFIELDオーナーのTommy Perse氏、ミラノのBIFFIオーナーのBiffi夫人, ボストンのAlan Bilzerian氏等々から学ばせてもらいました。
と言っても教えてくれとお願いした訳ではなく、彼等のオーダーの仕方が日本のそれとは違うと日本人スタッフ達が言っているのを聞いて、その違いを教えてもらいながら、80年代を代表するバイヤー達の買い方をジックリと見せて頂いたのです。