火曜日雨の日のブログ

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 佐藤賢一『アメリカ第二次南北戦争』読了。小説「宝石」に2004~05年にかけて連載され、06年に光文社から刊行された。ブッシュ大統領の2期目の政権がはじまったタイミングである。
 以下で内容に触れる。




 作中時間2013年1月、アメリカ初の女性大統領であるマクギルが、テキサス州ダラスで(!)、遊説パレードの最中に(!)、ライフルで暗殺された(!)。実行犯と目される人物は即座に、逮捕されたが、冤罪の疑いがぬぐえない。
 自動的にくり上がり、大統領の座についた黒人の副大統領ムーア(黒人で最初の大統領になる!)は、銃の法規制にのり出す。これに反発した南西部諸州が「カウボーイ暴動」という反政府運動を起こし、それがそのまま内乱に発展する。テキサス、ヴァージニア、ウェスト・ヴァージニア、ノース・カロライナ、サウス・カロライナ、ケッタッキー、ミズーリ、カンザス、テネシー……などの16州が「アメリカ連合国」を結成し、13年4月には独立を宣言。アメリカ合衆国は東海岸と西海岸を残すのみとなり、「リンゴの皮」と連合国から揶揄された(つまり正確には北軍VS南軍という構図ではない)。
 とはいえ、基本的には「同朋同士」であり、それぞれの国民は友人、親きょうだい、親戚に銃をむけるには抵抗があった。そのため、無人飛行機からの大都市の空爆は回避され、核ミサイルのスイッチが押されることもなかった。そして、15年には休戦協定が結ばれ、一応、「かりそめの平和」が実現していた。

 主人公の森山悟(モリヤマ・サトル)はジャーナリストの身分を騙り、休戦中のアメリカに渡航し、内部状況をリサーチする任務を負った内閣官房室職員である。「凄腕の義勇兵スナイパー」である結城健人(ユウキ・ケント)を案内役に、空手の達人のイタリア系アメリカ娘ヴェロニカを道連れとして合衆国から連合国への旅をつづける。
 途中、連合国側のテキサス州ダラスで、州副知事秘書マーガレットからマクギル大統領暗殺の秘密を打ち明けられる。
「護衛の白バイ警官は狙撃場所から逃げ出した不審人物を目撃しています」
「いったい、何者ですか」
「ニンジャです」
「…………」




 マーガレットによると、暗殺事件の数年前アメリカで中国系アメリカ人が著した『アメリカ史』というペーパーバックがベストセラーになったという。その本には建国以来、アメリカ人が東洋人(あるいはモンゴロイド)を殺戮しつづけていたという趣旨の史観が述べられている。まずは、大陸の先住民族(インディアン)、西海岸に到達したら、太平洋を渡って日本と戦争し、広島、長崎に原爆を落とす。その後は朝鮮半島で戦争する。それからベトナムでベトナム人を殺戮する。
「次は、中国だ。アメリカ人は中国と戦争するつもりだ、という内容でした」
「中国? ニンジャは日本が産地ですよ」
「え? 日本って、中国の一部でしょ」
「…………」





 調査をつづける一行は、ニューオーリンズへ。「ニューオーリーンズ」はフランス語に直せば、「ヌーベル・オルレアン(新オルレアン)」。開戦当初、この街で合衆国軍を鼓舞した少女は「オルレアンの乙女」=ジャヌ・ダルクの再来と呼ばれた。
 十七歳のこの少女、ジョーン・ロメリーはしかし、2011年の「プレイボーイ7月号」のヌードグラビアに登場する「ミス・ジュライ」であることが暴露され、権威・聖性は失墜。ネオKKKにより教会に監禁されていた。
 ひょんないきがかりで、モリヤマはフランスの諜報員ファビアンの活動を援助し、この偽聖女の救出に一役買うことになる。だがその結果、和平協定は決裂。アメリカはふたたび内乱状態に逆戻りする。
 ネオKKKによるリンチ、混乱の銃撃戦からフランスの軍用ヘリで救出されたモリヤマはファビアンに食ってかかる。
「世界はアメリカ内戦のおかげの特需景気でうるおっている。このまま天国を謳歌したい。だから、地獄はアメリカだけに押しつけようという理屈か!」
「サトル、それはいささか大げさでは」
「大げさじゃない。どんな戦争でも、地獄に変わりはない」
「ま、いいじゃないですか」
「なにがいいんだ?」
「だって、死ぬのはアメリカ人なんですよ」
「…………」





 佐藤賢一、えぐいなー。最後、ちょっと解決していない(説明不足な)部分があるが、読後感は悪くない。06年発表の小説だからか、SNSもYouTubeも出てこない(すでに存在していたはずだが)。内戦下のアメリカを避けて、国連は拠点を東京に置いており、ドイツと日本は新常任理事国として世界情勢に積極的に関与する設定になっている。いずれにせよ、いまが読みごろの物語である。
 ただ残念ながら、リアル書店では見かけないような。文庫化されているはずである。