今回は漫画サンテを語ります。前作「まんがサガワさん」(オークラ出版)から1~2年後にまんだらけ出版より出版された本で佐川一政の過去作「サンテ」を漫画にして再構成したものです。フランスに実在する刑務所「サンテ」での憧憬を漫画化したものでそこでの出会いや体験が後の「作家」としての彼を形作ることになったのだと思います。限定1000部(復刻版)のサガワさんとは違い限定800部なのでかなり知名度は低い作品ですが…
ただし後述の狂気が控えめになっているとはいえ生々しいグロシーンや不謹慎な発言は少なからずあるし、また犯罪者の実録モノであるため閲覧注意です。
【前作との変化点】
・状況説明文が全て写植になった。(セリフが手書きのままだがこの写植と手書きの組み合わせは前作とはまた違った読みごたえがある)
・下品で悪辣な表現がかなり少なくなった。(今でいう炎上商法を狙った表現が控えめになり、淡々と出来事を語るようになった。)
・絵柄がよりデフォルメされてやや抽象的になった。(今回は単なる回顧録にとどまらず心的情景をベースに執筆されている影響だと思う)
・冒頭16頁はカラーで以降はモノクロ(これに関してはメインの漫画部分がほとんどセミカラーだった前作が逆にすごいと言わざるを得ない)
・犯罪者特有の狂気が相変わらずあるが前作ほどのインパクト(狂気を全面に出したシーン)が少ない(これは個人的に作品のコンセプトが根本から違うからだと思うのよね。まんがサガワさんは自伝的な側面が強いのに対しこの漫画サンテは回顧録的な側面が強いのです。どっちもコミックエッセイではあるけど)
【ストーリー解説】
まず佐川一政がパトカーに連行されるシーンから始まる。そこで寮母さんが信じられないような顔していたと語る。「パトカーを飛び出て射殺されたらどんなに楽だっただろうか」とも思いながら連行され、連行後調書作りをしたり、メディアの晒しものにされ、刑務所に連れて行かれ刑務所の内面を見ていたりしたらしい。囚人たちに刑務所内での暮らし方を教えてもらい、囚人たちと寒い刑務所内を暮らす。そのうち部屋が与えられ、収監されていたテロリストにこっそり切手を渡されて(刑務所の)自室で日本の家族や被害者遺族に謝罪の手紙を書く。
そして被害者の幻影を見る。逮捕前、湖畔に被害者を捨てにいったあと
寮の自身の部屋に戻って解体に使った電ノコを見て「この刃に挟まっている肉片が数日前に一緒にスキヤキを食べた彼女とは到底思えない」とぼやく。そして彼女のパンツと腕時計だけは「捨てたら彼女が僕の記憶から消える気がした。」と思い、収監まで警官に渡せないでいたらしい。
その後警察が来て連行されたのだが父との面会で涙する父を見て自身の高校時代の想い出や自分には生まれてすぐ亡くなった姉がいたことや今はもういない戦争の悲惨さを経験した祖母に想いを馳せる。
面会したあとの翌日まで「自身の犯した罪が死によって償われるのなら」と考えたが「死は、死は、そんなにたやすいものではない…。」と考え、自殺を思いとどまる。そして聖書を読み耽ってボランティアできた牧師さんにも軽蔑され、途方に暮れていると別な刑務所に護送車に無理やり突っ込まれて移動させられる。
着いた先は先ほどまでの独房より劣悪な環境であったがそこで端正な顔立ちをした西洋人とアラブ系のおじさんが優しく刑務所のアトリエを紹介してくれる。そこで“愛していた”被害者の絵を描いたり粘土で人形を作ったりして端正な顔立ちをした西洋人とは後の親友になる。ボランティアできた女性と大学で知り合ったガールフレンド(被害者ではない人)を重ね合わせてしまい(後日東京で暮らし始めたときにお別れの手紙が来たらしい)「女性との出会いはいつも素敵に始まるが女性に拒絶されてるのか自分が拒絶しているのかわからないぐらい最終的には女性にはモヤがかかって見えてしまう(関係がこじれてしまう)」と語る。
そして囚人たちの演劇を鑑賞したり食事の盛り付けを親友とともに行う。母親と父親も涙を流しながら面会にきて、「ここ(刑務所)やのうてちゃんと帰れる日はいつなん?」と言われてうまく答えられないでいる。そして独房に戻ると妄想にふける。そんな日を繰り返す日々。やがて「父親が倒れた、脳梗塞のようだ」と母親から電話がくるが長電話だと看守にみなされ強制的に電話を切られる。
電話をガチャ切りした看守に「父さんに何かあったらお前を殺す!!」とキレる佐川。そして拘束具をつけられまた移動。今度は精神病院だった。着替えてる最中に変な女に抱きつかれたりしたそうだがニーチェの言葉をふと思い出し日本に帰れる遠い日を夢みるところで話は終わる。
【感想】最初はまたサガワさんのような炎上商法を狙ったものなのかなとも思いましたが開いて見ると語り口は以前より淡々としててこういうおとなしい作品も書けるのだなぁと思った。戦争描写も反戦漫画には負けるかもしれないが充分生々しい。そして悲惨だ。
佐川は自身の犯した罪は死を以て償いたかったらしいけど結局無罪で本来裁かれるはずだったのに裁かれなかったのは葛藤があったようだ。
だからこそ本を出して自身の体験やそこで生じた迷いをわかってもらいたかったのかもしれない。どこまでが本心かは本人のみぞ知るので不明だが。独房の看守や囚人たちも個性があって覚えやすかった。この短くも儚い幸せや夢での出来事は確実に佐川の人生観を変えたのは間違いないと言える。
【総評】
個人的評価…評価不能
最後に、これはあまり不謹慎ではないですがじわじわとした狂気が終始あり、読み応えはありますがかなり消耗するシーンもあるので読むのに体力は要りますね。
でも読んで損はないな。電子化されないかな〜(絶対されぬ!)
【前作記事も書いてます↓以下からどうぞ】
それでは今回はこの辺で、また次回の書籍紹介でお会いしましょう…
執筆日時:2024/01/某日
公開日:2024/01/23