今日の透析ちゃん 16 | orizarot

今日の透析ちゃん 16

退院してから、異常に早起きになった。
漫画家のオレが、朝6時には目が覚めてしまう。
習慣恐るべし。
それよりも恐ろしいのが、朝一番で食欲がまた異常に旺盛なこと。
健常者だった頃はせいぜいヨーグルト1つ、
できれば麦茶1杯だけで済ませたい感じだったのが、パンを2枚食べても3枚食べても収まらない。
腎不全になる前と後、どっちが健康的だったのかちょっと分からん。
あまりに食欲があるオレを、父は「どっかおかしいのかもしれない」と心配した。
でもこれは、単に食欲が増したということではないのだろう。
どっちかと言うと、食べられなくなって失った部分を必死に取り返そうとしている感じだ。
体はなんとかできる限り、元の姿に戻ろうとしているらしい。

飲水量をキープするのも、なかなかめんどくさいけど慣れてきた。
意外と、それほど飲みたいとも思わない。

退院して数日後、妻/当時の婚約者とデートした。
オレは退院したら絶対にしたかったことがあった。
「メシを腹いっぱいに食う」。
家のメシではない、外食がしたかった。
それこそが、オレにとっては「退院」であり「治療の完了」を意味していたからだ。
今日ばかりは塩分量とかそういうの関係無し。食いたいものを食いたいだけ食う。
「なにを食べようかしら!」
とにかく肉が食いたかったです。
トンカツ屋に入りました。
そこで、ランチスペシャルみたいなのを頼んで、確かご飯を3杯おかわりした。
至福でした。
これ。
食べられるということ。美味しいものを美味しく食べられる。
これ以上の幸せってないんだよほんと。
満足いくまで食う、という感覚を実に4ヶ月ぶりぐらいに味わった。

ふたりで電車に乗った時、「あ、オレはこれからシルバーシートに座っていい人なんだ」と思った。
周りはなにも変わっていなくても、オレとの関係性は少しだけど変わった。
有り難いことにそれは基本的にオレに有利に働くものなので、楽しんでいこうと思う。
ちなみにシルバーシートに座るのはまだ慣れません。まあ見た目は健常者だもんで。

体を壊す前と変わらないデートをして、夜に別れる。
駅前を歩いていたら、目の前の信号が変わりかけたから走って渡った。
その時、気付いた。


「オレ、今、走れた」


入院する前は、階段を歩くことさえ辛かった。息が続かなかった。
でも今は、走れる。
走っても息も切れてない。
走ったのってどれくらいぶりだろうか。

「オレは帰ってきたんだな」
そう思った。

帰ってきたとは言え、完全に今までどおりじゃない。
明日も、これからずっと、透析を受けなくてはいけない。
シャントはまだ安定していない。穿刺も毎回痛い。
でもまあ、なんとかなるでしょ。



ここまでで一応、入院~退院までの透析ちゃんは終わりです。
退院~現在までの透析ちゃんも書こうとは思ってるのですが、
まあそのうちということにします。