今日の透析ちゃん 3 | orizarot

今日の透析ちゃん 3

今日は1日、なんとなく体調が悪かった。

たまに、透析の翌日まで疲れが残ることがある。
透析というのは4時間ずっと寝ているわけだけど、

身体的にはフルマラソンを走ったのと同じぐらい疲れる。

これがどういうことなのかは追って書く。
最近はとにかく原稿が立て込んでいて、毎日特に新しい出来事があるわけでもないから、今日も透析ネタでいくことにします。
まあ記憶が新しいうちにまとめちゃった方が楽だしね。
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1月1日/元旦

まさか、年明けと共に病院へ行くなんてことがあるとは思わなかった。
パジャマの上からスウェットを着て、その上にダウンを着るという、

超みっともない格好。
親父の運転でなんとか病院まで来たオレは、

救急受付のロビーで途方に暮れていた。
病気というのは元旦だろうが関係ないわけで、

こんな時でも数人の患者が診察待ちをしている。
シーンと静まり返ったフロアに、心エコーの機械音がピッピッと響いていた。

なんだかそれを聞いていると、

オレの人生がピーーーーーーーーーーと止まりそうに思える。
オレは一体どうなるんだろう…まさか重大な病気なんじゃないだろうか…
横に座る親父に、オレは冗談めかして言った。

「ああ、オレもしガンだったらヤバいね」
「そんなことないだろよ」
親父のその言葉に正直オレは安堵していたのだ。

「だよね、そんなこたーないよな…」

30分ほど待って、オレの順番。
部屋にいた先生は全く冷静に「どうしましたー?」。
「どうも2ヶ月ぐらい前に風邪が腹に入ったらしいんです。吐き気がヒドくてですね、

でも他に別に痛みとかは無いというか…」
まああああーた、この期に及んで軽めに症状を説明するオレ。
「そうですか、でも2ヶ月ってのはちょっと長いですね」
そ、そうか?うん、そうだね…オレの抵抗は医者の前じゃ空しいもんだ。
「吐き気ね…じゃあレントゲン撮りましょう、とりあえず」
『ええーん、マジでー?』

レントゲン撮影は驚くほど簡単に終わった。
現像を待っている間、オレは、ヘンなしこりでも体内に見つかるんじゃないかと

オロオロしていた。
今までずっと、先延ばしにしてゴマかして、なんとか病気を「無いもの」にしてきた。
もしこれで、ガンですなんて言われてみろよ。生きていけないよオレ!
まあガンだったら、放っておく方が遥かに生きてけないんだけど。
そして、再び名前を呼ばれる。
「岸さん」
運命の時だ。

「特に胃腸付近に異常は見られませんね」
その説明にオレは、もうマジで嬉しかった。

ガンじゃねえ!オララーーーー!
「今は深夜ですし正月ですからこれ以上詳しい検査ができません。

このまま症状が続くようなら早めにかかりつけ医に見せてください」
結局原因は分からずじまい。でもいい、まあいいんだ。異常は無かったんだから!
吐き気止めと胃腸薬を処方されて帰された。
なにも体調は変わらないまま、それでもオレはちょっと嬉しい感じで帰路に着いた。
「さあ、早く帰ろう。帰って、もらった薬を飲んで寝よう…」
でも、家までの10数分の間にも再び吐き気が襲ってくる。

あら、ちょっと待って、これは、ちょっと、あたし吐きそうだわ!
家に着くなり車を飛び降りてトイレに。
また吐いた。吐くものも無いのに。
黄色い胃液みたいなのが、ちょっと出た。
処方された吐き気止めを飲んでみる。


あ。


あら。


効いた! なんだこれ!


吐き気止めは異常なほど効いた。すっぱりと吐き気が引く。これは素晴らしい!
よし!寝よう!明日はこの調子で吐き気が引いてるといいな!
でもオレはその時気付いてなかったんだ。
吐き気止めは吐き気を止めるだけで、治すものではないということに。

翌日も、またまた吐き気は変わらず。
もういい加減なんとかしてくれ!もう嫌だ!
でも医者に行きたくても今は正月だ。かかりつけは営業してない。
なんだか喉がまた痛い。そして異常な寒気。

オレの部屋の暖房は、いつからか設定温度が31度だった。

それまでは、エアコンがポンコツになって、効いてないんだと思っていた。
でもそうじゃない、オレが寒いんだ。
今じゃ寝る時はパジャマの下にTシャツを着て、ソックスを履いて寝ていた。
それでも寒いんだ。
もし風邪じゃないとしたら、それでこの異様な寒気って、ヤバくね?
息苦しさも一向に収まらない。

不思議なのは、寝ると途端に息苦しくなるということ。
普通寝たら楽になるんじゃないの?
喉があまりに痛いので、風邪用のマスクをして寝ようとしたんだけど、
息苦しくて死ぬかと思った。

この頃から、オレにまた新しい症状が出始めた。
寝ようと横になって、眠気がやってきて、眠りに落ちようとすると息が詰まる。

窒息状態になって目が覚める。その繰り返し。

寝たらそのまま永眠しちゃいそうだ。
やっと寝付くと、今度は困ったことに、これもウソみたいな話なんだけど、

勝手に舌を噛んでしまって痛みで起きる。

寝てる間に、多分歯ぎしり的状態になってるんだと思うが、

容赦なく思いっきり舌の横部分を噛んでしまう。

朝起きると口の中が固まりかけた血でヌルヌルになってることがたびたびあった。
あと、ここ数ヶ月、寝てる最中に脚がつりやすくなった。
どっちにしても、オレはまず寝たくても寝付けないし、

寝たとしても痛みで起き、そして起きてる間は吐いてるという、そんな感じだ。
吐き気はもう、水を飲んだだけで止まらなくなった。

吐き気止めも、効くけど効き目が短くなってきたようだ。


1月5日

かかりつけ医の仕事始め日。
オレはスウェットパンツを2枚重ねて履き、上に4枚ぐらい着込んで、

親父の車で病院へ送ってもらった。
ホントは歩いていこうと思ってたんだけど、前の夜にも吐きまくっていて、

多分歩いていくのは無理だろうと判断したからだ。
歩いて15分ちょっとの距離が、もう歩けない。
「じゃあ岸さん、採血もしてなくて、正直なにもデータが無い状態ですから、

採血だけしましょうよ。結果は明日出ますから」
普段のオレだったら、そこでも拒否った。

でも、明日すぐに結果が出るということで、オレは採血検査に同意した。
つーかもうヤバいって、分かってたんだよな。



1月6日

朝イチで結果を聞きにいく。
待合室で、オレはこんなセリフを脳内で繰り返していた。
「岸さん、やっぱりお腹に入る風邪でしたよ」
そうさ、オレはそういう診断をもらって、漢方じゃない薬をなんかもらって、

安心して帰るんだ。

今まで長かったなあ…
診察室に呼ばれる。
オレは椅子に座った。
先生はオレの採血検査の結果に目を通している。
さあ、早いところ言ってくれ。風邪だって!






「ん、んんっ?????」





医者が、カルテを見て、息を呑むという状況を、オレは生まれて初めて体験した。
「これは…」
そう言って、先生は絶句していた。
なに?なになに?なによ!え、風邪でしょ?風邪じゃねーの???
「これはちょっと、大変なことになってます」
なんか、そっから先のことは、あまりにも衝撃的だったのと内容的に難しかったのとで、よく覚えてない。
「…で、クレアチニンというのは筋肉の運動で出来る代謝物質で、

通常は0.6ぐらいです。でも岸さんはその20倍近く出てるんですね。

あと貧血が尋常じゃないです。通常の半分ぐらいしか血が無い状態です。

これ、よく今まで大丈夫でしたね」
なんか、ああ、なんか、大変なことのようだ。どういう病気なんだろうか…
頭はなんも考えられてない。

ただ、先生に言われることを右から左に聞き流す。古い。
「とにかく今から紹介状を出します。ここじゃこれ以上手の下しようがないので。

これ持って行ってください。多分、すぐに入院です」
入院ーーーーーーーー???
いよいよヤバい。これは困った。
オレを送った後親父は先に帰ってしまっていたので、電話で話す。
「なんか…ちょっとヤバいみたい。で、なんか入院って言ってるんだけど。

だから、そうだな、じゃあすぐ用意して明日あたりに行こうか」
…ということになりました、と先生に告げる。

先生は神妙な面持ちで返した。


「岸さん、すぐっていうのはそういう『すぐ』じゃないです。今すぐ、です」


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つづく