「さて、と」
部屋の中はさっぱりと片付いていて、荷物を持ち込んだ時と比べると落ち着いて過ごせそうだ。
昔からの友人に手伝ってもらい、伯父さんの家から私の荷物を運び出してもらった。
これ以上迷惑をかけるわけにはいかないと、一人で片づけたのだが、予想以上に大変で、正直疲れた。
それでも、挨拶がまだ済んでいない。
時計の針は午後3時を指していて、学校から下校してきたのであろう小学生が、友達と騒ぎながら帰って行くのが見える。その風景の少し向こうには海が広がり、とてもいい物件に巡り合えたと一人満足していた。
「挨拶・・・ね。一応此処に住む訳だし。」
扉を開けて、外へ出る。まずは正面の部屋の住人にでも挨拶しておこう。
表札には、『奥村』。
コンコンと扉をノックし、声をかける。
「すみません、奥村さん?」
中で物音がして、女の人が出てきた。
背丈は私と同じくらい。眼鏡を掛け、黒く長い髪を後ろで一つに束ねている。
「はじめまして、笹本 薫といいます。今日、ここに引っ越してきたんです。よろしくお願いします。」
「はじめまして。私は奥村 早苗です。下の事務所で働いていますが、本職は歴史研究家の助手です」
「そうなんですか~・・・歴史研究家の助手って、大変そうですね?」
「ええ、まぁ・・・でも、私自身、歴史が好きなので。」
そこまで話していると、一人の女の子が階段を昇ってきた。
「あれ、見たことない人だね?新入りさん?」
近くで見ると、活発な女の子って感じ。
ボブカットの髪が、とても似合っている。
「はじめまして。笹本 薫っていうの。よろしくね」
「はじめまして~。私は栗山 すず!魅郷第一高校三年、陸上部なの。事務所でバイトもしてるんだ。」
「高校生なんだ。部活、楽しい?」
「もちろん!今度大会があるんだ。最後の大会だから、超気合い入ってるの!」
ニッコリ笑った顔を見る限り、ムードメーカータイプ。
仲良くなれそうな気がした。
「うるせぇよ。もっと静かに話せねーのか?」
男の人の声がして見ると、私の部屋の隣の部屋の住人らしく、扉を開いてこっちを見ていた。
先ほどまで寝ていたらしく、髪がグチャグチャだ。
「こんな時間に寝てるほうがおかしいよ。春ちゃん、生活リズム狂ってるんじゃないの~?」
「うっさい。俺は忙しいの!」
「理由になってないよ!」
奥村さんが私に耳打ちする。
「この人、武田 春樹さん。写真家なんだって。」
「そうなんですか・・・」
「で、そっちの人は誰?」
その武田さんがこっちを見ている。怪しいと思われているのかもしれない。
「笹本 薫っていいます。よろしくお願いします。」
「ひょっとして、事務所で働くとか?」
「はい。」
「ほ~。俺もだ。武田 春樹ってんだ。よろしくな。」
すると、すずちゃんが明るく話し出した。
「薫ちゃんさ、なんであの事務所で働くことにしたの?」
「伯父さんに紹介してもらったの。」
「へぇ~。でも、びっくりするかもね」
すると、武田さんも奥村さんも話に加わる。
「確かに」
「そうかもしれないわね」
「どうしてですか?」
「あいつ、考えてることわかんねーからな」
「あいつって・・・龍崎さんですか?」
「そ。まぁ、そのうち慣れるだろ。」
そのうち、私を放置して、三人で話し出した。
「今回はすぐに辞めないといいね~」
「この前の人、3日で辞めちゃったものね」
「変人ばっかだから、耐えられなくなったんじゃねーの?」
変人ばっかりって、どういうこと?と聞こうとした瞬間だった。
「ま、話もそこまでってことで、いいんじゃないですか?」
声の主は龍崎さんだった。
ニッコリと笑っているが、この人はいつもこうなんだろうか。
「薫さん、早速ですけど、仕事です」
初めての仕事の内容は、一体何だろうか?
To Be Continued.