ここはとある予備校。予備校に通う高校生の成 歩登夫(なる ほどお)が教師である良切 海(よきり かい)の教室で経済について学んでいます。前回の話

 

バブル経済はなぜ起きる?

 

海:さて、インフレとデフレについて説明してきたけど、最後にバブル経済とはなんなのかについて説明しよう。

 

歩:バブルって泡のことですよね。

 

海:そう。バブルとは泡のことなんだ。バブル経済とは、主に不動産市場や金融市場が急激に高騰し、急に暴落してしまう現象を指すんだ。

 

その様子がまるで泡が膨らんでは弾けてなくなってしまうことに似ているからそう呼ばれるんだ。

 

歩:どうして高騰するんですか?

 

海:それはね、貸出しによって創造されたお金がある特定の商品や市場、業界に集中するからなんだ。

 

海:「お金が過剰に創造されると、物価を押し上げる」とインフレの時に説明したね。

 

私たちが生活のために物を売買している実体経済という市場では、生み出されたお金が色々な業界に回っていくんだ。

 

なぜなら、私たちは食料も買うし、日用品も、嗜好品も、娯楽にも色々なところに出費する。お金が増えるということは消費が増えることだから、実体経済全体の消費が増え、物価を押し上げていくんだ。

 

一方、バブル経済が起きる分野というのは不動産だったり、金融商品だったり、と実体経済とは異なる市場で起こるんだ。

 

これらの分野では、その分野でのみ取引が増加していく傾向があり、お金の増加が実体経済まで波及しにくいんだ。

 

歩:どうして実体経済まで波及しないんですか。

 

海:それはね、ただ儲けるために売買が繰り返されるからなんだ。

 

例えば、不動産バブルのとき何が起きているかというと、銀行が不動産を売買する企業や個人に多くのお金を貸し出しているんだ。

 

融資を受けた企業や個人が何をするかと言うと、そのお金で土地を購入し、他の人や企業に高く売るんだ。

 

早い話転売だね。じゃあ、土地を買った人や企業は何のために土地を買ったかというと、それもまた転売して儲けるためなんだ。

 

その資金は銀行に融資を受けることができたからね。そして、元買った値段より更に高い値段を土地を売る。

 

買い手のために銀行が貸し出してくれる…これを繰り返すことで、不動産業界に莫大なお金が流れ、土地代が高騰する、不動産バブルが出来上がるんだ。

 

歩:転売のために銀行が貸し出すなんて驚きですね。

 

海:そんな風にして、増えたお金が不動産業界内だけで巡ることによって、実体経済にインフレを起こすことなく、不動産価格だけが高騰するバブルが起きるんだ。

 

 

バブルはなぜはじける?

 

歩:そうして膨らんだバブルはどうしてはじけるんですか?

 

海:そうやって過剰に上がった土地代はいずれ修正がかけられるんだ。本来の資産価値に近づくようにね。

 

そうなると銀行は土地の売買に融資をしなくなるんだ。そうなると、借金をして土地を持っていた人たちは、高値で転売するのが難しくなってくる。

 

それならばと、土地の所有者たちは値段を下げてでも売ってしまう動きに出るんだ。売り払って少しでも借金の足しにしようと思ってね。

 

歩:そうやって、土地を持っている人みんなが土地を売りに出るから、土地の値段がどんどん下がっていくですね。

 

海:そのとおり、土地は暴落していく。だけど、既に不動産市場に流れていたお金は預金などの別な資産に形を変えて残るから減少はしない。

 

日本80年代から90年代にかけてのバブル経済で土地に手を出して失敗した人の話をメディアで聞いたことがあるけど、失敗した人がいる一方で上手く売り逃げた人はそれだけ儲かっているんだ。

 

バブルで儲けた人の話はあまり表に出て来ないけど。

 

 

バブル経済が崩壊すると経済が冷え込む

 

歩:へー。バブル崩壊と聞くと、みんなが大損したようなイメージがあったんですけど、得した人もいるんですね。

 

海:誰かの損した分、誰かの得するのが金融市場なんだ。しかも厄介なのは、バブル崩壊で損したのは企業や個人だけじゃなくて、彼らに貸出した銀行もまた大損したことなんだ。

 

歩:なぜ銀行が損するですか?

 

海:銀行は貸し出す時に担保をとって貸し出している。担保とは借り手が持っている財産でもし、返済できない時にそれを取り上げますというというものなんだ。

 

土地バブルのときは、借り手が所有している土地を担保として銀行は貸し出していたんだ。

 

歩:あーわかりました。その担保にしていた土地の価値が下がると、もし借り手が融資を返済できない場合、銀行としてはお金を回収できないってことですね。

 

海:そうなんだ。バブルが崩壊していた頃、土地の転売をしようとしていた企業や個人は、土地の価格が暴落し、売っても利益が出ない状況にあったんだ。

 

そうなると銀行からの融資を返済できなくなってしまったんだ。

 

銀行としては借り手が返済できない時のために土地を担保にしていたのに、担保の土地の価格が暴落して融資額を下回ると、銀行も貸出していた分のお金を回収できなくなって、銀行も経営危機に陥るんだ。

 

そして、銀行は破綻したり、新たな貸出しができなくってお金を創れなくなるんだ。そうなると、どうなると思う?

 

歩:銀行が新たな貸出しができなくなるということは、もしかして、実体経済という普通に暮らしている人の経済にも影響が出るっていうことですか?

 

海:正解!これまで不動産などの金融経済は実体経済にはあまり影響を与えずにいたのに、銀行が経営危機に陥ることで実体経済のお金の創造も減少してしまうんだ。

 

金融経済が実体経済を引っかき回す

 

歩:銀行を通して金融経済と実体経済がつながるんですね。金融経済の混乱が実体経済に影響を与えるなんてこわいですね。

 

海:そう。ギャンブルめいた金融経済が勝手に盛り上がるのは構わないんだけど、それが実体経済までに影響を与えるのは問題だよね。

 

しかも金融経済の方が実体経済より圧倒的に大きい上に成長率も高い。2008年に実体経済は5千兆円、金融経済は約2京2千兆円の約4倍と言われていたけど2022年の現在、もはや金融経済は規模が分からないほど巨大化している。

 

実体経済の15倍以上だとか50倍以上もあると言っている人もいる。

 

日本も含め世界的の先進国では実体経済は好調でなくても金融経済は潤っている。国民は景気回復の実感はないけど、株価は上がっている。どうしてこうしたことがあるかと言うと、金融経済のお金が実体経済に回らないからなんだ。

 

歩:げげーですね。金融経済ってギャンブルみたいなものなのに、それがぼくたちの暮らしに影響を与えるなんておかしいですよ。

 

海:そうだよね。だけど、実体経済も金融経済も同じお金を使っている以上、ぼくたちの生活も金融経済に振り回されてしまうんだ。

 

 

参考文献 :天野統康 著『あなたはお金のしくみにこうして騙されている』徳間書店(2011)注アマゾンのリンクです。