物音
慶子からの連絡は未だない。付き合って三年になるけど、僕はまだ彼女の性格を理解しきれていないようだ。最近は、そもそも僕達は付き合っているのかどうかということさえ判らなくなってしまっている。でも、きっと何か事情があるはずなんだ。大事な用があるとか‥だから僕からの連絡に応えない慶子のことを疑ってはいない。僕たちは…誰も気付かない魂のレベルで、深く愛し合っているのだから…。台所と、寝床、6畳ほどの間は、ひと一人が寝転がれるほどの廊下で繋がっている。その廊下は玄関入口にも繋がってるが、片づけていない段ボールや荷物が重なり合い外へ出るのも一苦労という始末。洗い物も溜まる一方というその惨状は、どうやら自分の無気力に原因があるらしい。だが、それを慶子のせいにする気はない。今は慶子とはそんな状態だけど、そのうちに…。言い聞かせてるわけではない。僕たちは愛し合ってるんだ。今夜も、寝ていると台所の方から、耳鳴りかと思うほどのボリュームで「カタカタ…」という音が聞こえる。電気はもう消した。最初の方はいつもわざわざ布団から這い出して音の原因を確かめに行ったものだ。でも今はもうしない。どうせ台所へ行くとその音はピタッと止むのだから。友達がそれはポルターガイスト現象だと言った。そんな映画が昔あったと。そうなのかもしれない。最近は中々、その物音もにぎやしくなってきた。そのうちに得体の知れない霊も現れるぞと友達が付け足し言う。霊とはどんなものなのか‥「お前の思いにつられてきっと現れるぞ」友達が言う。そろそろ確かめに行こうかとも思うが、布団の中が暖かい。その温もりをここで切らしていいものなのだろうか‥「大丈夫よ…見に行かなくても」暗闇の中…いるはずのない慶子の声が布団の中で優しく言ってくれた。温もりのない湿り気が肌に纏わりついてくる。僕は…その骨ばった何かを…グチャッ…という濁った音と共に、優しく抱きしめた。