戦国人生浪漫 ~武士の時代に生きた人々~
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荒木村重⑤ ~傍らの男~

荒木村重⑤ ~傍らの男~




村重はこの男と馬が合った。

いや、自分がそう思っているだけかもしれぬ。

心通じるものを感じるのだが、その性格はおよそ武者向きではない。


端から見ると、なぜ村重がこの男を側に置いているのか解らないようだった。

最近、村重が好んで仕官に応じる者は、剛の者ばかり。

その他は、鉄砲や火薬、航海術に長けた知識を持つ者など。

実際の戦闘をするかはともかく、間違いなく即戦力。

清十郎は戦う事が不得手だったし、嫌いだった。

だから、戦働きは期待できない。

かといって他に役立つところがあるかといえば、それも疑問である。


しかし、戦の匂いがしないことが、かえって村重には心地良かった。

野心を持たず、立身出世など、とんと興味がない。

少年のころから、暇さえ在れば野山に出て絵ばかり描いている。

ひとかどの武将である彼の父親は、もう諦めたと言ってさえいた。


そんな男だったが、その素質・気質は決して愚鈍ではない。

いや、かえって自分より鋭いものを持っているとすら感じていた。

特に勘が冴えるとき、自分には解らぬ何かが見えているような気がする。

清十郎は最も近くて遠い深淵なる存在だった。

村重には無い何か絶大なものを持っている。そうも感じるのだ。

言葉で説明するには難しいが、清十郎をという男を傍に引き止めて

おくには十分すぎる理由だった。


また、勇猛さと胆力で、摂津で下剋上を起こして暴れ回った村重自身だが

常に殺伐とした心境ではいられない。

女の居る寝屋に忍び、束の間のやすらぎを得ることはあっても

彼が素のままでいられる関係など、他にあったものではない。

そういう意味で、清十郎は居心地の良い相手でもあった。




「荒木清十郎」



荒木村重の家老の長男である。父は荒木久左衛門という。

この家は元々、池田姓で池田勝正に仕えた池田二十一人衆の筆頭であった。

要は同じ主君に仕える同僚である。

よって、村重と清十郎は少年期より付き合いがあり、身近な存在だった。


池田家の内紛に乗じて荒木村重が台頭したとき、

久左衛門がそれに接近し、臣従することとなった。

そして荒木姓へ。

つい最近のことである。


父、久左衛門が村重の傘下に入ったとき、清十郎は家を離れていた。

長きにわたる放浪の旅に出ていたのだった。

絵筆を握って出奔したまま、その消息は知れぬまま・・・。

当然、廃嫡されているし、家は歳の離れた弟が継ぐことになっている。



ある夜、足しげく通う屋敷に向かう途中、単独行動をとった村重が、

不覚にも襲われる事件に巻き込まれたことがある。

足をやられて動けずに居るところ、近くに古寺を見つけてかろうじて逃げ込んだ。


どのくらいの時間が経っただろうか・・・。

闇の中、堂の扉を開けて中に入る輩に気づいた。

痛みはともかく、朦朧とする意識の中で村重は死を覚悟した。


夜が明ける。


目が覚めた。


まだ自分が生きていることに村重は驚いた。

しかし、もっと驚いたのは傍らに控えていたのが行方知らずの清十郎だったこと。


時を越えた再会。

身なりは変わっていたが、よく知った顔の男。


その瞬間より、清十郎は村重の傍に居る。



村重に仕えるきっかけである。









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