服は洋の東西を問わず誰もが必ず着るものですが、根底にあるデザインの発想は異なるもののようです。
鷲田清一氏著『ひとはなぜ服を着るのか』によれば、
(引用はじめ)
たしかに衣服は機能的なものでなければなりません。けれども、機能的というとき、それが何にとって機能的かは一概に決められません。そもそも日本のきものは、単純にボディにとって機能的であることをめざしているとはいいがたい面があります。それはむしろ、(ボディ、つまり物体や胴体としての身体をではなく)ふるまいを演出するもの、運動としての身体に固有のヴォリュームを与える服としてありました。いいかえますと、肉塊としての身体ではなく運動のなかにある身体、運動としてのその見えない体にそのつど見える形を与えるものとしてありました。
(引用終わり)
必ずしもわかりやすい文章ではないかもしれませんが、前後を読んでいただくとなおご理解が深まるかと。
要するに国や文化が違えば、求める役割や機能は異なるということです。
食で言えば、日本人にとっては「ご飯」も「パン」も“主食”ですが、フランスでは「パン」は“主食”ではありません。
「メインディッシュ」と名がつくように、肉料理こそがある意味“主食”。
パンは定番の付けあわせ、くらいなものです。
今回ご紹介するのも、国籍が異なることで期待される役割が異なるものについてです。
「コンフィチュール」と聞いて、皆様何のことかすぐにわかりますか?
一般的に「ジャム」と呼ばれているもののフランス語読みが「コンフィチュール」です。
イチゴジャムとイチゴのコンフィチュールは、世の中的には「まあ同じもの」と認識されています。
しかしホットケーキとパンケーキが異なるものであるくらいに、ジャムとコンフィチュールは別物であると自分は認識しています。
※違いについての説明はこちら。
http://urx2.nu/Lmdj
「ジャム」という言葉自体、日本語ではなく英語ですが、今日本で定着しているイメージとしては「果物を保存するために砂糖と煮たもの」です。
少なからぬ日本人の“素材至上主義”と、単なる味作りの技術不足により、単一の果物をただ煮ただけ、というものがほとんど。こだわりのポイントはせいぜい砂糖の種類(きび砂糖を使うとか)と量(甘さ控えめとか)程度です。
言い方を換えると、どこまで行っても「ジャム」は“材料を出発点”としています。
一方の「コンフィチュール」は“着地点”を見据えて作られるもの。
つまり、どんな味にするためにどんな果物をどう組み合わせれば良いか、という、料理の一形態のような側面が強いのです。
そのため時に黒コショウやカルダモン、シナモンにクローブといった香辛料も使いつつ、「こういうパンに合う」「こういう料理に合う」といった具体的な提案がされるのが特徴。
日本国内の地域の物産展でジャムを売っている人に「何に合いますか?」と訊けば100人中99人が「パン」か「ヨーグルト」、と答えますが、それとは大いに対照的です。
今回ご紹介するお店は、焼き菓子とコンフィチュールの専門家による、特にコンフィチュールにフィーチャーした店。
鎌倉「ロミユニ・コンフィチュール」
学芸大学に「メゾン ロミ・ユニ」という店があり、そちらで主に焼き菓子がプッシュされています。
一方の鶴岡八幡宮の参道沿いにあるこの店、「焼き菓子の方がコンフィチュールよりも観光客には向くだろう」という戦略で出店したんじゃないか、と勘繰りたくなる側面はあるものの、バラエティ豊かなコンフィチュールが数十種類並んでおり、特に女性に喜ばれそうな店です。
日本では果物を「生で食べる」以外の方法にそもそも不慣れです。
そのため、美味しいコンフィチュールを手掛けるのは一部のパティシエのみ。
高級パティスリーに行くとしばしばコンフィチュールを売っているのを見かけますが、この店ほど充実したラインナップを誇る店は稀と言えます。
私が手に取ったのはモモとスペアミントを使ったコンフィチュール。レモンやオレンジの果皮などが加えられており、味見した時の目が覚めるような“爽やかさ”に心をもっていかれました。夏をお持ち帰りできるような素晴らしき味わいです。
そしてコンフィチュールに合うものと言えば、やはりその筆頭は小麦粉。
焼き菓子の専門家が手掛けるスコーンも是非合わせて持ち帰りたいところです。
特にここのスコーンは、他の店のものとは食感が異なります。
イートインで焼きたてのスコーンの、外はガリガリで中はふんわり、の美味しさはとても魅力的ですが、持ち帰りになるとどうしてもその再現が難しいところ。
この店は、最初から持ち帰り前提のため、この食感を捨てる代わりに、あたかも密度の高いパウンドケーキのような食感に仕立てているのです。堅いわけではないけれど、ギュッとしている。焼きこまれた濃厚な粉の風味が、コンフィチュールと抜群の相性。是非お試しいただきたいところ。
なお、「コンフィチュールを買って帰るほどの興味は無いけれど美味しいなら試してみたい」という人には、店内で焼いているクレープがオススメ。
店内にイートインスペースは無いものの、店の外にちょっとしたベンチがあり、酷暑や極寒の季節でなければ、店頭で軽く食べていくのも乙なものです。
「日本は外国の文化を日本流にアレンジして楽しむのが得意」という言い回しを時々目に耳にします。
それはきっとある意味では正しい側面もあるのですが、自分はどうも、その言葉の陰に見え隠れする“国粋主義”的な香りが好きになれません。
時には、外国の文化を外国の在り方そのままに楽しもうとしてみることで、より素晴らしき価値に出会えることがあるのではないか。
そんな面倒くさいことを考えながら食べたら美味しくないですね。
わー、美味しそう。食べよう。食べた。美味しい! それでいいのです。


