「ペッ、なんだこれ。腐ってんじゃねえのか。これ。」
「兄貴、何言ってんすか。グルメじゃないっすね。」
子供の世話に疲れた主婦のようにやれやれと言った表情で哲郎が言った。
「そもそも、なんだよ。このどす黒い赤は。
人が食べる色のフルーツじゃねえだろう。」
「本当、兄貴は、、。それ有名な果物っすよ。
ドラゴン、、、なんとかっていう名前ですよ。」
学が足りない奴はこれだから困る。
「ドラゴンなんとかって何だよ。
7つ集めると願い事叶えてくれるやつか。」
「兄貴、そんなもんあるわけないじゃないですか。
あったら漫画とか映画になってますよ。」
だから、なってんだよ。すでに。
「まぁいいや。それよりお前、あの件どうなってんだよ?
今日期日って言ってなかったか?」
「え、あっ、そうだ。鈴尾の件ですよね。」
言うや否や哲郎は携帯を取り出して電話を掛けた。
「鈴尾か。分かってるよな。今日が期限って事。、、えっ、しらばっくれてんのか。
えっ、既に入金した。確認?誤魔化そうとしてねえよな。
待ってても良い?ちょっと待ってろ。
兄貴、鈴尾の奴が昨夜入金したって言ってます。」
哲郎が受話器を手で押さえながら、訴えてくる。
「お前、確認もしないで電話掛けたのか?」
哲郎がうなずく。
まったく。
「ちょっと待ってろ。パソコンで見てみる。」
ディスプレイ上にいくつものカタカナの名前が並んでいる。
スズオマモル \1,500,000と書いてある一行を見つける。
振り向いて呼び掛けようとすると、横に既に哲郎がいた。
「今、特別なルートで確認した。悪運の強い奴だな。
きっちりお約束守って頂きこの度は誠にありがとうございました。
またのご利用お待ちしてます。」
凄みのある低い声とうって変わって高い声で哲郎は電話を切った。
何が特別なルートだ。単なるネットバンクだろ。
それにしても、、人は簡単に金を借りる。
自分の持ち物であると思い込んでいるのか、はたまた何も考えていないのか。
遊ぶため、見栄のため、恋愛のため、未来に貸しを作る。
ちなみにこの未来に貸しを作るって言い方は、俺があこがれているこの会社のNo.2と言われている三好さんの言葉だ。
「未来に貸しを作っちゃいけないよ。」
あの言葉は何度も思い出す。
「いやぁ、でも鈴尾もきっちり返してきましたね。
着信拒否もしないし、電話に出ないこともなかったし、期日にはきっちり返すし。
なんていうですか。優等生って奴でしたね。
みんなこういうんだと良いですけどね。」
ふと鈴尾のデータを見る。
そこには俺でも知っている一流企業の部長という役職が記載されている。
年収は1200万円。
最初に対応したのは俺や哲郎ではないから、どんな経緯か分からないが、理由の欄に急な入り用の為と記載されてある。
以前、こんな話を聞いた事がある。もちろん三好さんからだ。
一般のサラリーマンはCMやウェブで広告している有名なローン会社でお金を借りる。
しかし富裕層が借りる場合、うちみたいに例え一週間で利息が10%つこうが、関係なく借りる。
その理由はシンプルだからだ。
その部分を三好さんは特に強めて言葉を発した。
有名な会社だと勤務先に確認の電話や家に郵送物が届いたり、鈴尾のような富裕層には融資額の増加のご案内の電話をしたり等聞いていても面倒な事が山ほどある。
しかし、うちみたいなところは返せるかどうかの単純そのもの、
来店して貰って、誓約書を書いて貰い、金を渡す。
あとは、本人への電話のみだ。
その後に再融資への依頼なんてするわけないし、
どんな言葉で依頼をすれば良いか想像もつかない。
だからシンプルは大事なんだ。うちの社訓だな。
ハハハ、そう言って三好さんは笑った。
「シンプルか」
「兄貴、何か言いましたか?変なもん食っておかしくなりましたか?」
そう言って、ドラゴンなんとかに手を伸ばす。
「ペッ、まずい。兄貴すいません。
これ腐ってるかもしれないです。」
まったく、、まぁ謝ったから良しとするか。



