豪で病腎移植41例 がん患者から、再発なし
オーストラリアの病院で、腎臓がん
患者から摘出した腎臓の病変部分を切除し、第三者に移植する病腎移植を11年前から続け、既に計41例にのぼっていることが15日、分かった。早急に移植が必要な60歳以上などの腎不全患者のみを対象とし、これまで移植した腎臓からがんの再発が確認された例はなく、うち3人は他の病気で亡くなったという。担当医師は「移植せず透析を続ける場合より高い生存率で推移しており、臓器提供者(ドナー)不足が続く現状では有効な手段だ」とし、豪では他の2病院にも同じ試みが広がったという。
日本で宇和島徳洲会病院(愛媛県
宇和島市)の万波誠医師らが行った腎臓がん
患者からの病腎移植と同じ試み。海外ではこのほか、米国
シンシナティ大学で少なくとも11例のがんの病腎移植が行われたことが明らかになっている。
がんの病腎移植を続けているのは、豪ブリスベーンにあるクイーンズランド大学のデビッド・ニコル教授と同僚医師ら。
ニコル教授が泌尿器科と腎移植の責任者を務めるプリンセス・アレクサンドラ病院で、1996年5月に1例目を行って以後、今年に入ってからも既に9例行うなど、現時点で計41例にのぼっている。近くもう1例行う予定という。
このうち初期の3例は死体腎で、腎がんのあったドナー3人から死後に腎臓を摘出し、病変の切除後3人に移植した。他の38例はすべて生体腎で、1~3・5センチ大の腎がんが見つかり、全摘を希望した患者の腎臓から病変を切除し、第三者38人に移植した。
移植対象の患者(レシピエント)は、移植を待つ腎不全患者の中でも死亡率が比較的高い60歳以上の人や、合併症のため将来の移植が危ぶまれる患者などに限定し、リスクを説明した上で患者に選択を委ねるという。
ニコル教授らは全患者の追跡調査を続けており、41人中3人が他の病気で死去したが、他の38人の移植した腎臓に機能廃絶はなく、これまでのところ、がんの再発を確認した例はない、としている。
ニコル教授は産経新聞の取材に「数字を見てもらえば、がん再発のリスクが小さいことが分かる。国内の別の2病院でも同じ移植が昨年と今年に1例ずつ行われ、経過は良好と聞いている」などと語った。
日本で同様の移植をしていた「瀬戸内グループ」の医師らはいずれも、豪の試みを「知らなかった」としている。
◇
≪データでリスク説明、患者が選択≫
豪で続けられている腎がん患者からの病腎移植は、そのまま透析を続けても死を待つしかない患者を救うための取り組みだ。欧米よりはるかに深刻なドナー不足に苦しむ日本では特に、患者の「生きる権利」を守るため、豪で積み重ねられたデータの早急な検証が必要だろう。
ニコル教授によると、移植先進国の豪でも、腎移植を待つ患者の平均待機期間は3~4年以上(2004年時点)で、ドナー拡大の方策が大きな課題だという。
ニコル教授は移植対象の患者に対し、病腎を移植する場合と、しない場合のリスクをデータで示し、選択させている。豪で、透析を続けながら腎移植を待つ患者の年間死亡率は13%(60歳以上は25%)。一方、微小な腎がんの場合、患者からいったん摘出した腎臓の病変を切除して本人の体内に戻す「自家腎移植」の後、がんが再発するリスクは2%以下だという。
この比較で患者がどちらを選ぶかは明白だ。がん患者からの臓器移植は国際的タブーとされてきたが、患者の自己責任が重んじられる欧米だから容認される試みだろう。
腎移植の待機期間が10年を超す“透析大国”の日本では今、厚生労働省
が病腎移植の指針作りを進めている。そこに必要なのは何より、患者の選択権という視点ではないか。(石塚健司)
