將進酒 ~ショウシンシュ~

將進酒 ~ショウシンシュ~

ただ長酔を願いて 醒むるを用いず・・・
・・・酔うて沙上に臥すも 君 笑うことなかれ

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日本武道を教える道場には、たいてい二柱の神様が祀られている。 「鹿島神宮」と「香取神宮」だ。

常々不思議に思っていた。 子供の頃、「たくさんのお守りを身に着けてはいけないよ。 神様たちが喧嘩をしてしまうから、御利益が無くなってしまうんだ」と聞いた覚えがある。 嘘か本当かは判らない。 が、もしこの話に一理あるとするならば、何故、日本武道の道場には、「鹿島神宮」と「香取神宮」の二柱の神が祀られているのだろうか?

ちなみに、「鹿島神宮」にも「香取神宮」にも行ったことがある。 十五年以上むかしの話だ。 僕の鍼灸治療の師匠(現在スペインに在住)が帰国されたときにお伴したのだ。 「鹿島神宮」と「香取神宮」とのあいだは、わずか17キロほど。 タクシーで楽に移動できた。 あの時は、どちらの神社も「武道の神様」くらいの認識しかなかったし、道場に二柱の神が祀られていることも気にならなくなっていた。

ところが最近になって、その謎が解けた。

僕は「古事記」をマジメに読んだことはない。 古事記が、ギリシャ神話に匹敵するような神話の宝庫であることを知ったのも最近の話。 しかし、まさに「鹿島神宮」と「香取神宮」の関係は、古事記に記されていた。

古事記のなかにある「国譲り(くにゆずり)」がそれである。

当時「葦原中国(あしはらのなかつくに・地上の国)」は、黄泉の国(よみのくに・根の国・死者の国)にいたスサノオ(八岐の大蛇「やまたのおろち」退治の話が有名)の娘、スセリビメと結婚したオオクニヌシ(因幡の白兎の話が有名)によって治められていた。 一方、高天原(たかまのはら・天の神の国)の最高神アマテラス(天岩戸「あまのいわと」神話で有名)は、オオクニヌシに対して、地上の国を天の神に譲らせようと考える。 アマテラスにとって、スサノオは弟ではあるが、さんざん迷惑をかけられた弟の縁者によって地上の国が治められることを良しとしなかったのかも知れない。 いずれにしても、アマテラスの意向を受けて数回にわたり神が遣わされるが、誰も目的を果たすことができない。 そこで天の神々に選ばれたのが「タケミカズチ」。 更に万全を期すために、もう一柱遣わそうということになり、満場一致で選ばれたのが「フツヌシ」。 この二柱の神が、オオクニヌシの住む出雲に出向き、「国譲り」を実現した。 その後、タケミカズチとフツヌシは、さらに国内を巡り、荒ぶる神々を平定。 日本建国に大いに尽くした、となっている。 つまり、タケミカズチとフツヌシの関係は、まさに戦友であったのだ。 やがて、タケミカズチは「鹿島神宮」に祀られ、フツヌシは「香取神宮」に祀られている。 これこそが、日本武道の道場に二柱の神が祀られる理由であった。 戦友であった二柱の神を祀ることは、喧嘩をするどころか、ごくごく自然なことで、御利益倍増なのである。

ところで、いまだに「お守りを複数身に着けること」の是非は判らない。 が、ひとつの神社に複数の神々が祀られていることは珍しくない。 そこにもまた興味深い逸話が秘められているのだが、それも最近になって知ったこと。

蛇足ではあるが、オオクニヌシが「国譲り」を了解したとき、「天に届くような社を建ててほしい」と願い出た。 その結果、建立されたお宮が出雲大社の起源であることを付け加えておく。